■大手を支える春巻きの「黒子企業」
茶色・黄色・オレンジ・緑・黒・ピンク・赤――。テーブルの上に載せられた見たことのない春巻きを前に、心が躍った。それぞれ違う具材が入っているようだが、オーソドックスな茶色以外は中身の見当がつかない。
「黒いものは、ブラックフライデーのときに大手コンビニで発売された、すき焼き風春巻き。黄色のものは別のコンビニで販売された、ベーコンポテト春巻きです」
促されるまま手づかみでいただくと、「パリパリッ」と心地良い音が響く。調理してから2時間半が経っていたが、まるで揚げたての食感だった。
この日筆者が訪れたのは、神奈川県藤沢市に本社を置く春巻き専業メーカー、スワロー食品だ。
最盛期は業界全体で30~40社がひしめき合っていたが、1990年代後半以降は、総合食品メーカーが次々と撤退。今残っているのは5~6社程度だ。そのなかでも同社が頭角を現し始めているのは、大手コンビニ3社のほか、オーケー・ヤオコー・サミットなどの有力スーパーを顧客に抱えているからだ。大手コンビニのうちの1社にいたっては、15年にわたり取引が続いている。
ただ、委託を受けて他社ブランド品を製造するOEMメーカーのため、一般の消費者が社名を目にする機会はない、というわけである。
■なぜコンビニ、スーパーが手放せないのか
さて、スワロー食品が名だたる企業とタッグを組めているのは、高品質の製品として定評があるからだ。
例を挙げると、大手スーパーの惣菜コーナーでは、定番人気とされる餃子やシュウマイを抑え、春巻きが売り上げナンバーワンに。「安さ」を売りとしている別のスーパーでは、単価の安い別メーカーから同社の春巻きに切り替えた。
誰もが一度は口にしたことがある、「あの味」を作っている黒子企業――それが、このスワロー食品なのである。
しかし、同社は社員数が100人未満の中小企業で、外から見る限り、工場に最新鋭の設備が入っているようには思えない。なぜ、そうそうたる有名企業に支持されているのだろうか。
鍵を握っていたのは創業者……ではなく、畑違いの2代目社長だった。
■創業者が招いた、3度の倒産危機
スワロー食品が設立されたのは、1974年(昭和49年)のこと。創業者は日本に初めて春巻きを流通させた、台湾系企業の営業マンだった。しかし、突然会社が倒産したことで「自分がメーカーになろう」と、国内初の冷凍春巻き製造工場を立ち上げる。
はじめはすべて手作りしていたが、成型機をメーカーと共同開発し、機械化に成功。その後、ファミリーレストランの草分けである「すかいらーく」(現在は「ガスト」「バーミヤン」を運営する、すかいらーくホールディングスへと社名変更)で採用されたのを機に、一気に知名度を広げていった。
すると、大手食品メーカーが次々と春巻き市場に参入。
1度目の危機は、売り上げ全体の6~7割を占めていた大手メーカーが、同社の技術を学び取り、自社工場を建設して製造を移管してしまったことだった。売り上げの大半が消えて困っていたところを、別の大手メーカーに助けられ補填できたが、数年後にその企業も製造を自社工場へと移した。これが2度目の危機である。
「先代は技術に対するこだわりが人一倍強く、職人気質な方でした。ただ、その思いの強さから、事業の継続という観点では、課題を抱えていたのも事実です。かつて、1つの皮の開発に1億円もの開発費を計上していたこともありましたからね……」
そう言って苦笑するのは、2代目社長の篠崎由博さんだ。
彼は創業者の血縁でもなければ、もともとスワロー食品の社員だったわけでもない。完全なる他所者だ。何のつながりもなかった二人が出会ったのは、奇しくも2012年に訪れた3度目の危機がきっかけだった。
■創業者「君に買ってほしい」
当時、同社は生産量の増加を見込み、3つの工場を保有していた。だが、各工場の稼働率は40%と低く、明らかに過剰な設備投資だったと言えよう。
この限界ギリギリの状況を救ったのが、元銀行員で税務コンサル事業を手がけていた篠崎さんだった。
銀行員時代の知見を生かし、なんとかリスケジュール(返済条件を見直して返済額や返済期間を調整すること)で危機を脱することができたものの、今度は後継がいないことを理由に事業を売却することに。このとき、税務顧問を任されるようになっていた彼に、創業者はこう声をかけた。
「君に(この会社を)買ってほしい」
「なぜ税務顧問に?」と疑問を持つ読者は多いだろう。だが、創業者は2年ほど篠崎さんの仕事ぶりを間近で見ており、絶対の信頼を置いていた。
はじめは真に受けなかったが、財務状況を熟知した上で「まだ復活できる可能性があるかもしれない」とピンときた。というのも、その頃から大手コンビニと継続的に取引しており、有力スーパーからも引き合いが来ていたからだ。大手企業を顧客に抱えながらも、なぜか数字に現れていない実情を見て、仮説を立てた。
「商品自体はいいものを持っている。ということは……問題は経営面にあるのかもしれない」
2014年12月、「あんな会社買ってどうするの……⁉」と周囲の反対と驚愕の声を耳にしながら、篠崎さんは借金6億円の企業を買収した。
■大手が春巻き事業から撤退したワケ
2代目社長に就任すると、「春巻き製造がいかに繊細で、歩留まり(投入した原料に対する完成品の割合)が悪いか」を思い知らされることになった。
薄い皮で具材を巻く工程は、機械化されていても不良品が出やすい。そもそも、春巻きは大量製造に適していないことがわかった。そこで、「競合各社も春巻き部門単体では収益化できていないはずだ」と踏んだ。
それでも、総合食品メーカーはラインアップのために、製造を続けておく必要がある。「たとえ部門単体では採算が取れなくても、会社全体で帳尻を合わせればいい」と考えてきたのだろう。だが、1990年代後半以降、盛んに叫ばれた「選択と集中」の経営改革のもと、競合他社は次々と春巻き事業から撤退。これがスワロー食品にとっては追い風となった。
「大手メーカーが自社製造をやめたんですけど、やっぱりカタログのラインアップとしては持っておきたいわけです。そこでOEMの声がかかったのが、独立系専業メーカーのうちでした。ほかのNBメーカーはライバルになるので、絶対に頼めませんからね」
品質の高さから新規顧客の獲得が進んでいたところに、撤退した大手の仕事がそのまま同社に流れていった。すると、当初15%ほどだった業務用冷凍春巻きの市場シェアが、40%へと一気に拡大していくことになる。
■ラインから「ポロッと落ちる春巻き」がヒントに
ただ、「歩留まりの悪さ」をそのまま放置するわけにはいかない。
「1時間見ていたら、1台あたり5~6本落ちるわけですよ。なかには、ものすごくトリッキーな動きで弾かれるものもあって。でも、スタッフは50年間その機械を使っているから、それが当たり前だと思っているようでした」
毎日毎日じっと製造ラインを見つめ、ロスが出るポイントを発見しては、自ら改修した。一般的に、食品メーカーは納品された成型機をそのまま使うことが多い。しかし、スワロー食品では機械が届いた瞬間に手を加え、オリジナルの成型機に仕上げてしまう。その結果、歩留まりが劇的に向上し、利益率が改善された。
■6時間パリパリを支える独自製法
さて、春巻き製造から撤退したメーカーが同社を選んだ理由は、「独立系だから」の一点だけではない。食品のプロたちの信頼を勝ち得たのは、一切妥協しない製品作りへの姿勢と、品質の高さが決め手だった。
例えば、春巻きの中に入れる具は、一般的に材料を加熱しながら混ぜる工場が多い。およそ90分間の調理が必要となるため、「煮る」という表現が適切だろう。しかし、同社では独自の直火釜製法で、中華鍋さながらに高火力で「炒めて」いる。調理時間は20分。使う野菜は冷凍品ではなく、新鮮な生野菜だ。さらに、作り方は家庭や中華料理店と同じ手順を踏んでいる。
代表的な五目春巻きの場合、まず肉を炒めたあとに火が通りにくい野菜を入れる。調味料で味付けしたら、食感を残すためにわざとこのタイミングで小松菜を投入。最後に醤油を鍋肌で焦がしながら入れたら、出来上がりだ。この作り方は、一気に材料を投入して「煮る」よりも何倍も手間がかかるが、この差が食感と味に直結している。
また、春巻きの皮は惣菜コーナーの常温販売用と、コンビニのホットケース用で製品を作り分けている。どちらも「調理後6時間が経過しても、パリパリ食感を維持できる(同社 営業部長 的場 麗さん)」というから驚きだ。
その上、具も皮もクライアントの要望に応じて、フルオーダーで対応する。定番のほかに、エビチリ・ジャーマンポテト・スイーツ系など、具は1000種類以上。皮は約100種類のレシピが生まれている。
■専業だから12年で売り上げ3倍
2019年1月には、食品安全規格のなかで最も厳格とされる、「FSSC22000(Food Safety System Certification 22000)」を取得した。これは大手食品メーカーと同等の品質管理体制であることを意味しており、そのおかげで中小企業ながらも、大手コンビニとの直接取引を実現している。
「直火釜での具材作りのほか、焼成前の生地や具材を一晩寝かす独自の製法は、一般的な工場では『非効率的』として否定されるものばかりです。しかし、専業メーカーとして作り上げてきた、品質優先の妥協しない工程が、評価いただけているのだと思います」(的場さん)
2014年の買収時点で、売上高は約14億7000万円、経常利益は約1000万円の赤字だった。しかし、この12年で売上高が約43億5000万円と3倍ほどに爆増し、経常利益は約4億円と黒字化している。競合企業の数は絞られているが、そのなかでもスワロー食品は味と品質で、他社には置き換えられない存在となっている。
2024年、同社は埼玉県に新工場を稼働させ、1日あたりの生産数を現在の70万本に拡大した。2025年には「春巻き文化を世界へ」を合言葉に、北米へ進出。SNSを中心に、ブームの兆しが見え始めている。
倒産寸前だった町の中小企業が、のちに大手コンビニを支える盤石な黒子企業へと変貌を遂げるとは、一体誰が想像しただろうか。しかも、その立役者が創業者の血縁でも、生え抜きの社員でもなく、元銀行員だったとは……。
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弓橋 紗耶(ゆみはし・さや)
フリーライター
1987年、神奈川県生まれ。2010年からインフラ企業で営業・営業企画を経験し、2022年に独立。現在は、ストーリーライティングを軸とした取材・記事執筆などを手がける。企業の広報から経営者インタビューまで、営業現場で培った人との対話力を活かし、企業の持つ本当の価値や想いを言葉にして伝えている。
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(フリーライター 弓橋 紗耶)

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