■「同居家族がいるから安心」とは限らない
同じ家で妻や子どもと暮らしている。にもかかわらず、家族との会話は1日15分にも満たず、家の中では一人で過ごす――。そんな「家庭内孤立」の状態にある中高年は、決して珍しくないことがわかってきた。
埼玉県和光市の8824人を調査した結果、家族と暮らしている人のうち、20人に1人以上が「家庭内孤立」の状態にあったという。調査をしたのは、東京都健康長寿医療センター研究部長の村山洋史さんらのチームだ。
「家庭内孤立をしている人たちは、独居の人よりも精神的健康状態が悪い結果になりました」
家族と暮らしながら「孤立」しているとは、いったいどういうことなのか。村山さんに、詳しく話を聞いた。
■家族と暮らす人の5.8%が「家庭内孤立」
村山さんらは、同居家族との会話が平日、週末・休日ともに1日15分未満で、かつ家の中で一人で過ごすことが多い状態を「家庭内孤立」と定義した。
「平日や予定のある日は仕方ないとして、常に同居家族と会話をしないのは稀なのではないかと考えました。さらに周りの人とディスカッションを重ねる中で、会話が1日に15分に満たないと『あまり喋らなかったな』と感じる人が多いことがわかりました」
一人で過ごす時間については、「家の中にいる時、一人で過ごすことが多いですか」と尋ね、本人の実感に基づいて答えてもらった。村山さんはこれまで、家庭内で孤立している人から「一人ぼっちで家にいます」という言葉をよく聞いていたことから、本人の感覚を重視したという。
したがって、家庭内孤立は、単に家族との会話時間が短いことを指すのではない。会話が15分未満でも、読書や映画を家族と一緒に楽しむなど、「一人である」と感じていない人は、家庭内孤立には当てはまらない。
研究チームは、2023年に埼玉県和光市で実施された郵送調査のデータを分析した。対象は40~64歳の2395人と、65歳以上の6429人の計8824人。その結果、家族と同居している人のうち5.8%が家庭内孤立に該当した。
■「家庭内孤立」の人は、家族仲が悪いわけではない
「これまで、社会的なつながりについてはたくさん研究されてきたんですが、家庭内での関係性については明らかにされてきませんでした。その点が、この研究の新しいところです」
意外だったのは、実は家庭内孤立の状態にある人たちは、家族関係が悪くない人が多いということだ。村山さんは「現役世代は仕事が忙しくて生活リズムが合わず、同居者が遠慮をして孤立してしまっているのでは」と指摘する。
「子どもの側は、話が長い親世代の相手をすることを面倒だと感じていて、親世代は子どもや孫をかわいいと思う気持ちが強い。
40代の現役世代でも、家族関係が良いのに生活時間が合わず、孤独感を募らせるケースがあるという。関係が悪くないだけに、余計に周囲からは孤立が見えにくい。
■なぜ「同居しているのに孤立」が危ないのか
では、家庭内孤立の何が問題なのだろうか。村山さんらのチームでは、主観的健康感とうつ、ウェルビーイング、孤独感の4つの指標を調査した。
その結果、家庭内孤立の人は、そうでない人と比べて、4指標すべてが悪く、独居の人と比べても精神的健康状態が悪かった。
例えば、家庭内孤立していない人を基準にすると、ウェルビーイングが低い割合は家庭内孤立の人で1.56倍、独居の人で1.21倍だった。孤独感も、家庭内孤立の人は0.76点高かったのに対し、独居の人は0.49点高いにとどまった。
このように、「家庭内孤立」の状態にある人が、独居の人よりも精神的健康状態が悪いのはなぜなのだろうか。
村山さんは「相対的剥奪理論」によって説明できるという。
「他者の境遇と比較して、本来あるはずのものがないことによって相対的な不満が生じるのが『相対的剥奪理論』です(※1)。この理論にのっとって考えると、独居の人は最初から家庭内での関わりを諦めていますが、同居者がいる場合、本当は得られる可能性がある関わりが得られないことが大きなストレスになっているんだと思います」
独居者は外部からの支援対象になりやすく、本人も助けを求めやすい。コロナ禍を機に強化された孤独・孤立の公的支援では、独居は大きなリスク要因とされた。
※1 Smith HJ, Pettigrew TF, Pippin GM, Bialosiewicz S. Relative deprivation: a theoretical and meta-analytic review. Pers Soc Psychol Rev. 2012;16(3):203-232.
■身体的にも悪影響を及ぼす恐れ
家庭内孤立の影響は、精神面だけにとどまらない可能性がある。
65歳以上の男性3万3083人、女性3万8698人を3年間追跡した別の研究では、同居者がいるのに一人で食事をしている人は、誰かと食事をしている人と比べ、死亡リスクは男性で1.48倍、女性で1.18倍だった。いずれも独居の人よりも悪い結果だったという。
村山さんは、食事を一人で食べるということは、生活の多くの部分が一人の可能性があるとし、孤食の研究結果と家庭内孤立には似たメカニズムが働いているとみる。ただし、家庭内孤立そのものと死亡リスクとの因果関係は、まだ明らかになっていない。
今回の調査では、心身の機能が低下し、要介護の手前となる「フレイル」も、独居の人より家庭内孤立の人に多かった。研究チームは今後、家庭内孤立が身体的健康や要介護リスクに及ぼす影響を追跡するという。
■人とのつながりは寿命を左右する
人のつながりが健康状態に与える影響は、決して小さくない。村山さんによれば、「つながり」は、喫煙や飲酒、運動や肥満などの要素よりも健康や長生きに大きく影響するという。
2010年に発表された研究によれば、飲酒と喫煙による死亡リスクの増加はそれぞれ1.4倍と1.6倍だったのに対し、社会とのつながりが少ない場合は1.9倍だったことが知られている。ただし、これは社会的なつながり全般を調べた研究であり、家庭内孤立そのものの影響を示したものではない。
また、2015年に発表されたオランダの研究(※2)によると、社会参加や人との接触頻度、孤独感などによって、認知症の発症しやすさが4~6割程度上昇することが明らかになっているという。
それだけではない。村山さんによれば、孤独感や孤立感などの社会的つながりの少なさは、冠動脈疾患や脳卒中の発症をそれぞれ3割程度上昇させるという研究結果もある(※3)。
「少し古い研究ですが、つながりがない状態を味わっている人のMRIを撮ってみると、“前部帯状回”という部位が非常に活性化していました(※4)。ここは、肉体的な痛みがある時に反応すると言われている場所なんです。つまり、つながっていない、孤立した状態を体験しているということは、殴られたり転んだりして肉体的に強い苦痛を受けたときと同じくらいのダメージを体が受け取っているということなんですね。人とのつながりがないことなんて『大したことない』って思う人も多いかもしれないんですが、体の反応を見ると、やっぱり大したことなんです」
※2 Kuiper JS, Zuidersma M, Oude Voshaar RC, Zuidema SU, van den Heuvel ER, Stolk RP, Smidt N. Social relationships and risk of dementia: A systematic review and meta-analysis of longitudinal cohort studies. Ageing Res Rev. 2015;22:39-57.
※3 Valtorta NK, Kanaan M, Gilbody S, Ronzi S, Hanratty B. Loneliness and social isolation as risk factors for coronary heart disease and stroke: systematic review and meta-analysis of longitudinal observational studies. Heart. 2016;102(13):1009-1016.
※4 Eisenberger NI, Lieberman MD, Williams KD. Does rejection hurt? An FMRI study of social exclusion. Science. 2003;302(5643):290-292.
■「一人が好き」でも孤立は悪影響
家庭内孤立の状態にあるのは、どんな人なのか。村山さんらの調査では、年代が上がるほど割合が増え、85歳以上では同居者がいる人の8.8%が該当した。また、すべての年代で女性より男性の割合が高かった。
村山さんによると、典型的なのが「定年後の男性」だという。
「一般的に男性の方が交友関係が少なくて、コミュニケーション能力は女性のほうが高いですね。
自ら望んで一人でいるのであれば、問題ないように思える。しかし村山さんは、一人が好きだと自認している人でも、人との関わりがない状態が続けば、健康に悪影響を及ぼす可能性がある(※5)という。
「人との関わりがない状態って、人間にとってはすごく不自然な状態なんです。『俺は絶対に大丈夫』と思っている人でも、客観的・長期的にみると、良くないことが起こる可能性があります」
40~64歳で家庭内孤立の状態にある人では、同居者が「配偶者と子ども」というケースが35.1%と最も多かった。男女別の内訳は分析されていないが、村山さんは、妻と子どもには会話がある一方、仕事中心の男性だけが家庭内で孤立している可能性を指摘する。
※5 Sakurai R, Sakurai M, Suzuki H, Fujiwara Y. Preference for solitude paradox: The psychological influence of social isolation despite preference. J Affect Disord. 2024;365:466-473.
■家庭外のつながりで孤独感は和らぐ
では、家庭内孤立を防ぐには、どうしたらいいのだろうか。今回の研究では、家庭外で社会活動をしている人ほど、家庭内孤立による孤独感が和らぐことも明らかになったという。
「近所付き合いや友だちなど、家族以外の交友関係が多い人たちは、家庭内孤立の悪い影響が緩和される結果が出たんです。家族関係を変えるのが難しいという人もいると思うので、そういう人たちは、家庭の外で関係性を作っていくっていうのは一つ解決策になると思います」
海外には、孤立しがちな男性が無理なく地域と関われる場もある。欧米を中心に広がる「Men’s Shed(=男性たちの小屋)」では、男性たちがDIYや園芸などの作業を通じて交流する。面と向かって話すのではなく、肩を並べて作業することで、自然なコミュニケーションを促す取り組みだ。
日本でも北海道や熊本に事例があるが、都市部では広い場所を確保しにくい。そこで村山さんらは、東京でも気軽に地域と関われる方法を試している。
■地域の仕事が新たな居場所になる
2023年から、東京都板橋区で取り組んできた「ジョブボラ」だ。ジョブボラとは、仕事とボランティアをかけ合わせた造語で、地域の祭りや行事で必要となる作業を、単発・短時間の仕事として募集する仕組みだ。
地域活動は、作業内容や必要な時間がわかりにくく、人間関係への不安もあるため、関心があっても参加しにくい。そこでジョブボラでは、作業内容や時間、条件を具体的に示し、参加への心理的なハードルを下げている。
板橋区社会福祉協議会やNPO団体と協力して、高齢者を対象に「ジョブボラ」のマッチングサイトを運営した結果、3年間で156件の案件が掲載され、延べ204人が応募した。村山さんによると、応募者の約4割は地域活動の未経験者で、約2割は社会的孤立に該当していたという。
「孤立している人って地域活動などをやっていないから孤立しているわけで、ジョブボラに応募してくれた人の2割が社会的孤立者だと考えると、なかなか大きな数だと思います」
ここでふと疑問に思ったのは、タイミーなどの単発バイトとの違いだ。村山さんは「タイミーだとどんな人が来るかわからず、地域の人は嫌がる」と説明する。仕事を紹介するだけでなく、コーディネーターを通じて双方の不安を取り除く仕組みが重要だという。
さらに村山さんらは、退職前から地域との接点をつくるため、企業で働く人と地域の仕事を結ぶ「Company shed」も構想している。
■家庭の外に小さなつながりを持つ
家族との関係は一様ではない。家族と話したいのに話せない人もいれば、関係を深めること自体が難しい人もいる。だからこそ、家庭の中だけで解決しようとせず、家庭の外にもつながりを持つことが選択肢になる。
村山さんは、家族が孤独を感じていることに気づいた人には、朝晩のわずかな時間でも、日常的に会話をすることが大切だと話す。一方、家族との関係をすぐに変えることが難しければ、家庭の外に目を向ける方法もある。
「近所の人といきなり訪問し合う関係になるのは不可能ですから、まずは挨拶をすることから始めたり、『これならやってみようかな』というジョブボラのような機会に応募してみたり、ステップバイステップで家庭の外での付き合いを増やしていくことが大切です」
問題は、家族と暮らしているかどうかではない。心身の健康維持に大切なのは、自分に合ったつながりを無理なく維持し、孤立を避けることだ。
村山 洋史(むらやま・ひろし)
東京都健康長寿医療センター研究所・社会参加とヘルシーエイジング研究チーム研究部長。1979年三重県生まれ。2009年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。ミシガン大学公衆衛生大学院、東京大学高齢社会総合研究機構などを経て、2020年より東京都健康長寿医療センター研究所。2012年日本公衆衛生学会奨励賞、2015年公益財団法人長寿科学振興財団長寿科学賞等、受賞歴多数。専門は、公衆衛生学、老年学。
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ざこうじ るい
フリーライター
1984年長野県生まれ。東京大学医学部健康科学看護学科卒業後、約10年間専業主婦。地方スタートアップ企業にて取材ディレクション・広報に携わった後、2023年よりフリーライター。WEBメディアでの企画執筆の他、広報・レポート記事や企業哲学を表現するフィクションも定期的に執筆。数字やデータだけでは語りきれない人間の生き様や豊かさを描くことで、誰もが社会的に健康でいられる社会を目指す。タイ・インド移住を経て、現在は長野県在住。重度心身障害児含む4児の母。
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(フリーライター ざこうじ るい)

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