※本稿は、ポッドキャスト「井上ヨウスケのお金の話で自分がわかるラジオ」の配信回「【警告】オルカン・S&P500一本で『詰む人』と『生き残る人』の決定的な差」の内容を再構成したものです。
■長期投資を続けるときに最も大事なこと
投資アドバイザーの多くは、「資産形成は株式一本でいい」と言います。オルカン(全世界株式のインデックスファンド)でもS&P500でもいい、あとは積み立てて放っておけばいい、と。
その話を聞くたびに、いつも同じことを考えています。「この人なら、たしかにできるだろうな」と。そう言い切る人は、どのデータをどこで見ればいいかを知っています。なぜその結論になるのかを、自分の言葉で説明できる。本質を理解しているから、その人自身は株式100%でも持ちきれるのだと思います。
一方で考えたいのは、その助言を受け取る側です。FPのところに相談に来て「結局、何を買えばいいんですか」と聞く人がいます。その人が、同じ理屈で20年間持ちきれるかどうかは、また別の話だと思うんです。
ごく当たり前のことだと思います。それでも、この当たり前はあまり語られません。「株だけ買っておけばいい」という結論だけが、理由から切り離されて流通していきます。20年のあいだに相場の空気が変わったとき、乗り切れる根拠が自分のなかにない人が同じ行動を取れるのか。私はそこが気になっています。
私が「乗り切れるだろう」と思うのは、知識を腹落ちさせ、考え抜いている人です。そういう人なら、株式100%でも続けられると思います。もちろん、理屈が分かっていても、生活資金がショートすれば株を売らざるをえません。それは別の話です。ただ、準備をしていても怖くなって売ってしまうことがあります。あれは、自分が信じていたものが揺らいだ瞬間に起きるのだと思います。
■科学的根拠より「信じられるか」
投資に限らず、何かを継続するというのは信念に基づく行為です。
例を挙げます。健康になりたい人の前に、商品が2つあるとします。
商品Aは科学的根拠が乏しく、健康へのプラスの影響はほとんど確認されていません。でも世間では「これはすごく体にいい」と信じられています。
商品Bは科学的根拠が豊富で、飲めば健康にプラスの影響が期待できるとされています。でも世間ではあまり良いものと思われていません。
どちらが売れるでしょうか。基本的にはAだと思います。
本来は科学的根拠が判断の基本であるべきだと思います。しかし人間の心理は単純です。体にいいと信じていないものを毎日とり続けるのは不可能でしょう。
だから、信じていたものが「実は健康に良くない」と言われた瞬間に、人は続けられなくなります。効果が消えたからではなく、信じるのをやめてしまったからです。正しくなくても、信じたいことのほうが選ばれやすい。人間の行動の強さとは、突き詰めれば信念の強さなのだと思うんです。
投資を20年続けるときの信念は、何でしょうか。その積立を支えているアンカーは、どこにあるのか。
■株ではなく「物語」を買っている
少し嫌な言い方になるかもしれませんが、書いておきます。いま株式インデックスを買っている人の多くは、株を買っているのではないと私は感じています。買っているのは物語ではないか、と。
「沈みゆく日本から、投資によって脱出できる」という物語です。
この視点で見ると、いろいろな説明がつきます。
そして、現金で持っている人と比べて安心します。あの人たちは置いていかれるが、自分は大丈夫だ、と。
以前、「円安で増えた分は実質のリターンとは言えない」と話したことがあります。すると、「円のまま持っていた人より増えているのだから、喜べばいい」という反応がありました。その感覚も分かります。ただ、円で持っている誰かが貧しくなることと、あなたが幸せになれるかどうかは、別の話ではないでしょうか。
この物語は、信じる対象としては少し弱いと思っています。20年もつストーリーは、そう多くない気がするんです。ハワード・マークスが指摘するように、市場と人の心理は振り子のように振れます。楽観が続いたあとには悲観が続く。
■そのインフルエンサー本当に信じられる?
信じる対象としてもうひとつ多いのが、特定の発信者です。「この人の言うことは信用できる」という形ですね。
『知ってるつもり』という書籍が指摘する通りです。現代人はインターネットですぐ情報にアクセスできるため、自分の頭のなかにない知識まで「知っている」と感じやすいそうです。ただ、それは自分の外にある知識で、いざというときに引き出せません。そして、そのときが来るまでは問題になりません。
発信者の言葉を支えにするとき、考えておきたいことがあります。彼らはボランティアではなく、仕事なのです。
受けない動画を出せば収益は下がります。私自身YouTubeをやっていますが、正直まったく儲かっていません。
裏を返せば、煽っても儲からない時期が来れば、煽らなくなります。「いまは売ってはいけない」という内容は、たぶん数字になりません。私が発信者にアフィリエイターと似た感覚を持つのは、そこです。儲かる場所に、とても敏感なのだと思います。これは誰かを責めている話ではなく、発信を仕事にしている以上、私も同じ構造のなかにいるということです。
世の中は不確実なのですから、確率で考えたほうがいいと思うんです。あなたが信じているその発信者が、20年後も同じ発信を続けている確率は何%でしょうか。100%はありえません。
そこに20年分の資産を託すのは、少し心もとない気がします。では、数字ならどうでしょうか。多くの人が根拠にしている数字のほうを、先に確かめておきます。
■同じS&P500でも年13%と3.9%の差
株式の期待リターンは、実質ベースで年5~6%程度とされています。過去の統計から導かれた数字で、これ自体は事実です。ただし、長い期間をならした平均にすぎません。私たちが実際に投資する期間を20年や30年と考えると、その間のぶれは小さくありません。
米国のS&P500を例にとります。1980年から20年間投資した人は、複利換算で年13%ほど資産を増やせたといわれています。一方、2000年から2020年までの20年間に投資した人のリターンは、年3.9%程度にとどまったとされています。
差は9ポイント超。20年の複利で考えれば、結果はまるで違うものになります。実質リターンなので預金よりはましですが、「思っていたほど増えなかった」という未来もありえます。
この差を生んだのは実力ではありません。運です。いつ生まれ、いつ働き、いつ投資を始めるか。それを私たちは選べません。「何年に投資したかった」という願いは、原理的にかないません。
だからこそ、平均的な結果にならない20年を引く可能性を、最初から勘定に入れておきたいのです。先に知っておけば、そうなったときに慌てずに済みます。
■「200年上がり続けた」は本当か
長期投資の根拠として、もうひとつよく使われるのが「株式は200年間、上がり続けてきた」という話です。私はこの説明があまり好きではありません。理由は2つあります。
ひとつは単純です。私は200年生きません。投資できるのは、長く見ても30年から50年です。200年をならした話を自分の30年に当てはめてよい保証は、ないと思うんです。
もうひとつは、データの出どころです。この200年チャートはジェレミー・シーゲルの著書で知られていますが、そこにあるのはアメリカのデータです。200年の連続したデータがある市場は、ほぼアメリカに限られます。戦争で取引所そのものが閉じているからです。
つまり、生き残った1つの市場を引っ張ってきて「200年続いた」と言っていることになります。かなり強い生存バイアスがかかっています。なぜアメリカでは閉鎖が短期で済み、データが途切れなかったのか。過去の大きな戦争で本土が戦場にならず、被害が小さかったからだと説明されることが多いようです。
同じような状況が起きたとき、いまのアメリカが同じ位置に立てるかどうかは分かりません。過去がこうだったから未来もこうなる、という帰納法には限界があります。私はこの200年を、長期投資の根拠としてあえて持ち出さなくてもいいと考えています。
では、長期投資に根拠はないのでしょうか。そうではありません。私が重視しているのは、企業価値と株価の関係です。
■買うタイミングは間違えやすい
「複利の効果が効くから長期投資がいい」という説明をよく聞きます。アインシュタインの言葉として紹介されることもありますね。ただ、複利かどうかは本質ではないと思います。
考えてみてください。単利でも複利でも、明日儲かるほうがいいに決まっています。私たちは、複利だから投資をするわけではありません。私が考える長期投資の意味は、もっとネガティブなものです。エントリータイミングの失敗を帳消しにできる可能性が高いことが、大きな理由の一つです。
人間は基本的に高値で買いたくなります。リーマン・ショックの大底では、なかなか買いたくならないものです。みんなが儲かっている時期、割高で今後10年の実質リターンは乏しいとされる局面ほど、株を買いたくなります。
私たちは、買うタイミングを間違えやすいものです。私もそうです。それを20年という時間をかけて薄めていく。「ずいぶん高いところで買っていたな。それでも、続けてよかった」と思える結果に持っていくために、長さが要ります。長期がいいというより、短期では損をする可能性があるから長期が必要なのだと思います。
インデックスを選ぶことも、同じ意味でネガティブな選択です。優れたアクティブファンドを選び抜けるなら、インデックスを買う理由はありません。個別銘柄を見極めて売買できるなら、そのほうが増えるからです。インデックスの長期積立は、投資の才能がなくても株式のリターンを取りにいける手法だと理解しています。才能を問われないのが、この手法のいいところだと思うんです。
「インフレ対策だから株を増やす」という説明も、私にはしっくりきません。戦略は一度決めたらぶらさずに続けるものですが、インフレかデフレかは外部環境です。それに合わせて比率を動かすのは、マクロ判断という難しい作業を自分に課すことになります。
■考え抜いた人とそうでない人の大きな差
そもそも企業はなぜ収益を上げられるのか。株価はなぜ、最終的には価値に収斂(しゅうれん)していくのか。資本主義経済が普通に発展していくなら、20年後の企業価値は今よりある程度高くなっていると考えられます。株価は高すぎたり低すぎたりを繰り返しますが、最終的には価値に近づいていく。だから長期で投資する。理屈としては、この順番だと思うんです。
こうした問いを、相場のいい時期にひとつずつ考えておく。それが、20年持ちきる助けになると思います。
上げ相場のうちに考え抜いた人は、嫌な時期に嫌なことを考えなくて済みます。「それはもう分かっている」で終えられます。逆に、いい相場で何も考えてこなかった人は、下げ相場で初めて「本当に長期投資でいいのか」と考え始めます。苦しいときにその問いに向き合うのは、つらいと思います。
チャートを見せられて「これを信じるしかない」と言われても、それは論理を信じていることにはなりません。山に登るとき、どれだけの装備を持っていくか、という話に似ています。「この人が一緒なら大丈夫」は装備ではありません。その人がいなくなった瞬間、手元には何も残らないからです。
私自身、発信を続けるつもりでいます。それでも、病気や事情で続けられなくなる可能性はあります。参考にしてもらえるのはうれしいのですが、アンカーは自分のなかに置いてほしいと思うんです。誰かが助けてくれることだけを前提にすると、その人がいなくなったときに投資を続ける根拠が揺らぐかもしれません。
自分の頭で考え抜いた理屈は、誰が去っても手元に残ります。自分なりに考え、答えを持てている人なら、投資を続けやすいのではないでしょうか。アンカーは他人ではなく、自分のなかに置いてほしいと思います。
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井上 ヨウスケ(いのうえ・ようすけ)
ファイナンシャルプランナー
1986年3月15日大阪生まれ、高知県在住。元役者のファイナンシャルプランナー。現在はYouTubeを中心に金融リテラシー向上のための情報発信を行っている。運営しているYouTubeチャンネルの登録者数は14万人を超える。ほかにも過去300本ほどの講演活動、一部上場企業にて従業員向けの個別相談を400件以上行っている。主な書籍に『図解 会社員のためのお金のキホン』がある。
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(ファイナンシャルプランナー 井上 ヨウスケ)

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