沖縄県民にとって大切な祈りの場となっている拝所(ウガンジュ)。那覇空港の目の前には、高さ約20mのガジュマルの木が岩に根を張るウガンジュがある。
大林組はその真下に道路を通す難度の高い工事に挑んでいる。

国内有数の観光地・沖縄。その玄関口である那覇空港周辺は、慢性的な渋滞に見舞われており、県民や観光客の移動の負担となっている。

この渋滞解消を目的に整備が進められてきたのが延長約5.7kmの自動車専用道路、小禄(おろく)道路だ。完成すると那覇空港自動車道の那覇空港インターチェンジ(IC)~豊見城(とみぐすく)・名嘉地(なかち)IC間がつながり、混雑する那覇市街地をう回して、空港から沖縄自動車道までアクセスできるようになる。県内各地への移動時間の短縮、さらには物流の効率化なども期待できる。

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


市街地の環境に配慮し、小禄道路の大半は高架橋やトンネルで構成される

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


国道332号と平行する小禄道路は、ウガンジュの下をくぐるように整備される

ウガンジュを残すために

地元のゼネコン中心で進められている小禄道路建設プロジェクトで、大林組が担うのは、那覇空港と陸上自衛隊那覇駐屯地に挟まれた鏡水(かがみず)地区の一部、約22mの区間だ。この区間だけを大林組が担うことについて、現場を統括する所長 古川は説明する。

「この地には、琉球王国時代から地域住民にとっての祈りの場であるウガンジュが鎮座しています。ウガンジュを維持しながら、その下に箱型の鉄筋コンクリート(RC)構造物『ボックスカルバート』を築造するというのが本工事のミッションで、高度な技術や施工力が求められるものです」

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


大林組小禄道路BC築造JV工事事務所 所長 古川昌裕

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


現場にあるウガンジュ。神を拝むことを意味する沖縄の言葉「ウガン(御願)」と「場所」を表す「ジュ(処)」が語源になっている

今回保存するウガンジュは、ガジュマルの木とその根が覆う石灰岩の土壌部分だ。ウガンジュとは、沖縄の各地で受け継がれてきた祈りの場の総称で、森や岩、古い井泉、霊石、洞穴など、地域によってさまざまな形で存在する。人々はそこで、豊漁や健康、暮らしの平穏などを祈願してきた。


通常、地下に空間を設ける際には、地上から掘削していく開削工法が一般的だが、この現場ではその選択肢はない。まずはウガンジュが鎮座する地盤が、直下の掘削に耐え得るように、地盤を補強するため、地盤に鋼管(パイプ)を並べるパイプルーフ工を実施する。

工事は大きく分けて、(1)地盤補強のためにパイプルーフを設置(2024年1月~2025年8月)、(2)掘削しながら支保工を設置(2025年8月~2026年3月)、(3)コンクリート打設によるボックスカルバート構築(2026年3月~)の3段階で進める。

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


画像左から、地盤補強して掘削、掘削しながら支保工を設置、ボックスカルバートの構築

Step1 パイプルーフでウガンジュを支える

20カ月に及ぶ岩盤との格闘

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


ウガンジュ直下の岩盤に直径40cmの鋼管(パイプ)64本を挿入し、屋根(ルーフ)を形成(点線部分)

パイプルーフ工は2024年1月に始まった。ウガンジュ直下は、周辺のボーリング調査から土層構成が複雑で、断層の存在も予測されていた。浅層の琉球石灰岩は、部分的に砂礫(されき)状になっているなど比較的風化が進んでいると想定され、掘削機で施工可能と見込んでいたが、掘削開始まもなく硬岩部に当たった。

地表からボックスカルバートまでの距離、最小土被りは1.3m。わずかな振動もウガンジュに影響しかねない条件下で、岩盤を破砕するために採用されたのは、縦0.8m×横1.0mの狭い筒状の箱内を作業員が伝い、人力で岩盤を破砕する箱型ルーフ工法だった。

だが、人力での掘削は困難を極めた。施工を管理する主任の篠田は「最初は、振動や騒音の少ない破砕用工具を用いて進めていましたが、硬岩には歯が立ちません。そこで、ウガンジュへの影響がないことを確認した上で、非火薬破砕剤と静的破砕剤も導入し、出てきた岩盤によって破砕方法を使い分けるようにしました」と対策を説明する。

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


大林組小禄道路BC築造JV工事事務所 主任 篠田康人

掘削の最前線で岩盤と対峙(たいじ)する作業員のケアにも細心の注意を払った。換気ダクトや照明、カメラ、何かあった時にすぐ対応できるよう緊急ボタンも設置した。
作業は必ず破砕を担当する作業員と見張り員の2人一組で行い、夏場にはクーラーで冷やした冷気を送風機で送り込んだ。

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


箱型ルーフ内では作業員が岩盤を人力で破砕し、破砕物はトロバケットに載せ、外部より人力でルーフ外へ搬出

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


作業時は換気と照度を確保し、保護メガネを着用。はつり作業の時には耐震手袋を着用する

果てしなく思えた22mの人力破砕と、パイプルーフ管計64本の設置には実に20カ月を費やした。当時の現場について、所長古川は「時には一日数cmしか進まない日が続くこともあり、日々岩盤と向き合ってきた作業員はもちろん、関係者全員が粘り強く取り組んだ20カ月でした。工事はここから本格化していく段階でしたが、長く厳しい工程を乗り越えた達成感とともに、現場全体が大きな安堵(あんど)感に満ちていました」と振り返る。

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


(左)岩盤掘削後に箱型ルーフを引き抜く、(中央)充てん材を満たした箱型空間にパイプルーフ管を挿入、(右)パイプルーフ管を繰り返し設置

Step2 内部を上下2回に分けて掘削

2m間隔で支保工を設置しながら進む

パイプルーフ工終了後、その下の本格的な掘削がスタートした。掘削は、上部と下部に分けて行われ、それぞれ2m掘り進めるごとにパイプルーフを支える支保工を設置するという計画だ。

設計担当の今井は、この計画を初めて見た時の印象を語る。「本工事の工法は発注者指定によるものなので、基本は標準設計の通りに進める必要がありました。標準設計を現場に即した基本設計に落とし込んだあたりから私が担当したのですが『実際の条件下でこの計画を遂行できるのか』という不安を覚えました」

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


大林組土木本部生産技術本部設計第四部 課長 今井淳一郎

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掘削空間の断面。支保工は掘削方向(縦)に2m間隔、断面方向(横)に5m間隔で設置した



今井が最も懸念したのは、2mピッチという支保工の間隔の狭さだ。「図面上は支保工設置のための作業スペースが確保できていますが、現場の硬い岩盤や複雑な地質に対し、設計通りに掘削できるとはとても思えませんでした。いずれにせよ支保工を設置する際には、急勾配なのり面間際で作業することになり、難度も危険性も高まります。

『設計通りに進むことはまずないだろう』と肝に銘じ、とにかく一つひとつの工程を慎重に検討していきました」と語る。

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


掘削の進行とともに変化する地質に合わせて適切な重機を選定。特に岩塊の崩落に注意した

また、ウガンジュ直下の地質状況が明らかではなかったため、掘削を進めながら地質の変化や岩の風化度合いなどを見極める必要があった。加えて、支保工を支持する岩盤の評価も難しい。そこで、ひずみ計や軸力計などの各種計測器を設置し、一本一本の支保工にどれだけの荷重が掛かっているか、管理値を超えていないか、大林組の本社からもリアルタイムで確認できるようにした。

その結果、管理値を超えている支保工が見つかり、実際に補強工事を追加するようなケースもあったという。「当然それは工期に影響しますが、安全より優先すべきものはありません。ましてや、ウガンジュの保持が最重要ミッションである本工事においてはなおさらです。毎日現場と密に連携し、リスク管理を徹底して行いました」と今井は振り返る。


沖縄特有の地質~琉球石灰岩

南西諸島に広く分布する「琉球石灰岩」は、今から数万年以上前にサンゴや貝殻などが堆積してできた多孔質の堆積岩。非常に吸水性が高い石材として、沖縄では古くから御嶽(うたき)やグスク、墓、石垣などで利用されている。琉球石灰岩を含む土壌はアルカリ性で、黄褐色~暗褐色の砂質地層が多く、岩塊、岩片が混ざる。

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


(左)現場付近の琉球石灰岩のサンプル。
手前の石は風化が進み、手で触っただけで崩れるほどもろい、(右)掘削時にあらわになった琉球石灰岩(上)と島尻泥岩(下)

Step3 ボックスカルバートの構築

高流動コンクリートで隙間なく充てんする

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


日射が強く、気温の高い沖縄ではコンクリートの乾燥・硬化が早い。打ち重ね時間を厳守するなど、打設条件に配慮しながら底版打設を進めた

所長の古川が当初から本工事の要所と捉えていたのは、パイプルーフ管の設置と支保工の設置、そして今秋に予定されている、ボックスカルバート頂版への高流動コンクリート打設の3つ。2つの山場を越え、残るは頂版への打設だ。

「ほぼ液体のような高流動コンクリートを地上から8.6mの高さへ打ち上げ、果たして22mの区間に隙間なく充てんできるのか。やってみないと分からない部分があるとはいえ失敗は許されません。これからモックアップを使った試験を入念に行い、より確実な方法を絞り込んでいきます」と古川。2つの山場を乗り越えた今、すでにその目は最後の難関に向けられている。

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


2026年5月に約700m²の底版打設が完了

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


2026年8月、側壁、中壁の打設が完了

無事故無災害での竣工を目指して

いよいよ終盤に差し掛かった本工事について、3人の担当者は今、何を思うのか。「設計自体は完了しているものの、設計通りに現場が進んでいるかを確認しつつ、施工が終わるまで現場に伴走し続けるのが我われの役割です」と今井。その上で「沖縄特有の複雑な地質を目の当たりにするなど、本工事に関わったことが設計担当としての貴重な学びとなりました。岩盤を対象にした開削工事は増えているので、この学びを私のみならず大林組の知見として今後も生かしていきたいです」と未来を見据える。

篠田は「作業員さんも行事でご一緒する地域の方々も、本当に気持ちのいい人ばかり。県外からやって来た私たちを、皆さん本当に温かく迎えてくださいます。作業員さんには『また大林組の現場で働きたい』、地域の方には『大林組に施工してもらってよかった』と言ってもらえるように最後まで頑張ります」と話した。


沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


地元のイベントへの参加を通じて地域住民との信頼関係を築いている

本現場は着工から11万4,000時間強、滑り・転倒・踏み外しなどの労働災害や熱中症も一切なく、無事故無災害を継続している。本工事で初めて沖縄の現場を担当する古川も、沖縄に来て3年余りがたつ。「温暖な気候と、その気候に育まれた県民の温かさなど、もうすっかり沖縄に魅了されています。一方で、至る所で幾度となく交通渋滞に巻き込まれてきました。竣工まであと1年、無事故無災害で本工事を滞りなく終え、将来、沖縄を再訪した際、快適になった交通事情を肌で感じたいですね」と古川は今後への思いを語る。

総延長5.7kmの小禄道路が開通した時、わずか22mのトンネルを通過する人のうち、その成り立ちに思いをはせる人はほとんどいないかもしれない。しかし、開通の裏にはたとえ一日数cmであっても前に進むことをやめなかった担当者たちの情熱があった。琉球王国時代からこの地の移り変わりを見守ってきたウガンジュの記憶にも、そのひたむきな姿が刻まれることだろう。

沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事


大林組-プロジェクト最前線

「沖縄の祈りの場、拝所(ウガンジュ)の下に道を通す - 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事」

https://www.obayashi.co.jp/thinking/detail/project98.html

工事概要

名称 令和4年度小禄道路ボックスカルバート工事

場所 沖縄県那覇市

発注 内閣府沖縄総合事務局

設計 オリエンタルコンサルタンツ

概要 カルバート工一式(内空 幅9.65m×高さ5.7m、延長21.9m、2連)、

   道路土工一式、非開削工(パイプルーフ)、仮設一式

工期 2023年3月31日~2027年3月31日

施工 大林組、大米建設

※2026年5月に取材実施。情報は当時のもの
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