「すべての現場に、進化する仲間を」

2026年9月1日に提供が始まった営業AI社員サービス「EvoMate Sales」に、EvoMate株式会社(代表:菅家元志、本社:福島県郡山市)はこの言葉を掲げている。社名のEvoMateは、Evolution(進化)とMate(仲間)を組み合わせた造語だ。


代表の菅家が前身の株式会社プレイノベーションを創業した2013年5月、掲げていたミッションは別のものだった。

同社はこれまで13年のあいだに、330社以上の地域企業に伴走してきた。答えのない問題に対して自分たちなりの解決策を導き出すことを「探究」と呼び、その解決策を検討・実装し、定着に向けて共に走ってきた。

創業以来13年間で一体何が変わり、何が変わらなかったのか。今回の新会社設立の背景とともに話を聞いた。

13年で、掲げる言葉が変わってきた

2013年の創業時、プレイノベーションが掲げていたミッションは「あそびをより豊かに、可能性を無限大に」だった。幼児向けのお絵かきアプリや、保育業務を支援するシステムをつくっていた。

10年後の2023年5月、創業10周年に合わせて企業理念を更新する。ミッションは「世の中の問題解決を加速する」、ビジョンは「探究力と創造力が解き放たれている未来へ」。

そして2026年、新会社のEvoMateは、AI社員シリーズに「すべての現場に、進化する仲間を」を、会社としては「人とAIの共創で、進化し続ける組織へ」を掲げた。

ーこれまでも区切りの良いタイミングで、ミッションやビジョンが変わってきましたが、変わっていないものはありますか。

菅家「答えのない問題に対して、自分たちなりの解決策を導き出すこと。私たちはそれを探究と呼んでいます。
それだけはずっと変わっていません。

変わったのは、探究する相手です。子どもや屋内遊び場・保育所などの子育て支援施設から、地域の会社へ、そして地域産業へ。13年かけて、少しずつ移ってきました」

AIのある時代だからこそできる、新たな支援の形——福島・東北...の画像はこちら >>


最初の領域は教育・福祉

菅家元志は1987年、福島県郡山市に生まれた。福島県立安積高等学校から慶應義塾大学商学部に進み、同大学院システムデザイン・マネジメント研究科の修士課程を修了している。

ー震災のあと、郡山に戻る選択をしました。

菅家「起業したいという気持ちは中学・高校のころからありました。両親が二人とも企業の経営に関わる仕事をしていて、食卓で経営の話をしている。小さいころから経営というものが身近にあり、いつかは自分も起業をしたり、経営に携わりたいと思っていました。ただ、学生のときは『いつか起業する』と言いながら、どの領域でやるのかが決まらず、覚悟ができていませんでした。

そこに震災が来ました。復興支援の活動に入って、そこで見たのは、災害や風評被害という、前例も答えもない問題に必死で向き合っている人たちです。福島から日本を元気にしようとしているその人たちの姿に胸を打たれて、この人たちと一緒に、地元福島で何かできないかと思いました。


やらなかった後悔より、やった後悔の方がいい。そう思うようになったのはこのときです。場所について、東京へのこだわりはありませんでした。福島には熱くて面白い大人がたくさんいて、一緒に仕事ができると感じていたからです」

前例も答えもない問題に向き合う人たち。菅家がこのとき見た光景を、会社は10年後、「探究」という言葉で定義し直すことになる。

一緒にやれる人がいるから福島を選んだ。2013年5月の創業は一人だった。

菅家「お金もない、ビジネス経験もない、事業計画書もない、請求書の書き方すらも分からない。『ない・ない』尽くしで始めたので、できることを模索する日々でした」

最初の仕事は、東北最大級の屋内遊び場の企画と広報の支援だった。震災で外遊びの環境が減り、子どもの体力低下が問題になっていた時期である。実はその後の数年は、試行錯誤する時期が続いた。

  • 1期目に企画した、からだあそびのノウハウをオンラインで提供する事業は、実証実験で止まり事業化を断念
  • 2期目に開発した幼児向けお絵かきアプリは、利用者は増えたが収益化できず断念
  • 4~5期目に取り組んだ保育業務支援システムは、福島と東京の保育園への導入まで進んだが、自治体全域への導入で失敗。
    投資額を回収できず、退職する社員も出た


菅家「何をやっても上手くいかないことが続いて、事業の組み立て方から見直すことにしました」

見直しの結果として本格的に始めたのが、地元企業のデジタル新規事業推進の支援だった。これが現在の主業につながっている。相手が、子どもから地域の会社へ移った時期でもある。

人が共に走り続けるというやり方には、限界があった

支援先は創業から13年で330社を超えた。教育、福祉、医療、交通、建設、製造、観光と業種は幅広い。

ーどうやって支援してきたんですか。

菅家「答えが決まっている仕事はありません。その会社にとって何が問題なのかを、一緒に探すところから始まります。解決策を検討・実装し、研修を開き、マニュアルを整え、使い方が定着するまで共に走ってきました。

ただ、人が伴走できる社数には限りがある。人に覚えることを増やすやり方だけでは、届かない会社が残り続けるということです」

人手に頼るこの限界は、自社の中にもあった。

菅家「9期目、2021年ごろです。大きな仕事が増える中で、弊社でも人手不足が深刻になりました。
採用活動に奔走したのですが、それまでちゃんとやってこなかったので、当然、成果に結びつかない。採用だけでなく、育成や評価の仕組みを学び直して、地道に実践するところからやりました。

お客様の現場でも、よく聞く話です。求人を出しても応募が来ない、という話は多いですね。そして人が辞めると、顧客ごとの対応の勘所や、長年かけて築いてきた取引先との関係も、その人と一緒に会社を出ていきます」

東北では、2040年に働き手が53万人不足すると推計されている(経済産業省「地域の産業人材育成について」2026年3月)。採用だけで人を補うという前提が、多くの地域企業で成り立たなくなりつつある。

人が一社ずつ伴走する方法では、届けられる会社の数に限りがある。そしてその会社の側も、人を増やせない。

お客様に伴走する自分たちの人手と、お客様が採用する人手の両方が足りなくなっていた。

2023年、「探究」を会社の言葉にした

創業10周年の2023年5月、プレイノベーションは企業理念を更新する。ミッション「世の中の問題解決を加速する」、ビジョン「探究力と創造力が解き放たれている未来へ」。行動指針の1つ目には「常に探究し創造する」を置いた。

AIのある時代だからこそできる、新たな支援の形——福島・東北で13年・330社の探究に伴走した経営者が、仲間そのものをつくるまで


このとき同社は、なぜ福島の会社が「探究」を掲げるのかも文章にしている。


震災・原発事故は、津波、長期の避難、風評被害と、複合的な問題を一度に生んだ。前例も答えもない問題に対して自分なりの答えを出すことを、ある日から突然、地域一帯で、しかも長期にわたって求められた。だから福島は「探究先進地域」だと言える——という論だった。

行動指針の3つ目は「チームの知性に投資する」だった。

良いチームと良いプロセスだけが良い成果を生む、得た学びを共有してチームとしての知性を高める——という内容である。探究を、個人だけでなくチームの営みとして捉える考えが、ここで言語化された。製品にCompany Intelligenceという名前がつくのは、この1年後になる。

ーこの時点で、いまの製品につながる考え方はあったんですか。

菅家「言葉としては先にありました。個人が賢くなるだけでは組織の成果は変わらない、というのは支援の現場でずっと感じていたことです。

セミナーなどでいまも話しているのですが、私たちの答えは『きちんと考えられる組織をつくること』です。良いチームが良いプロセスをつくり、それが良い仕事になって、良い顧客価値になり、良い成果に届く。
この順番だと考えています。

ただ、考えるには条件があります。考える方向性を顧客起点で揃えること。効率ではなく効果を見ること。その効果を測って、見えるようにすること。必要な情報に社員全員が届くこと。考えることが社内で評価され、考えるための教育の機会があること。

そして最後に、考える時間を捻出するために効率化を進めること。効率化そのものが目的ではありません。考える時間をつくるための手段です。

そこまでは言葉になっていました。ただ、それをどう具体化するかは、正直なところ当時は未知数でした」

2024年度、構想として言葉にした

2024年8月、菅家は「郡山新事業開発プロジェクト研究」に加わった。郡山市域の発展に資する新規事業を構想する研究会で、2025年3月までの半年あまり、事業の構想を文章にしていった。

菅家「入ったときに置いていたテーマは、いま掲げているものとは違いました。半年かけて考えを進めるうちに、組織の知性という方向に寄っていったんです」

最終的に立てたテーマが「組織の認知能力を拡張し、戦略が組織と共に進化する生きたインテリジェンスへ」だった。探究の相手が組織そのものになったことが、ここで事業の構想として言葉になった。

その研究会の期間中、2024年12月に、菅家は大阪公立大学 大学院情報学研究科の油谷知岐 特任助教と出会う。

菅家「そのときにはもう、Company Intelligenceという言葉が頭の中にありました。組織メタ認知という研究をされていると聞いて、これは自分たちが考えていることの理論側だと思ったんです」

以降、「組織メタ認知」の共同研究が始まる。個人ではなく組織として、自らの状態を捉えて改善する方法を扱う領域だ。組織が自分自身を探究する、と言い換えてもいい。成果は電子情報通信学会 知能ソフトウェア工学研究会で2本の論文として発表されている。菅家と同社のエンジニアも共著者に名を連ねる。

関連発表・論文

  • 油谷知岐, 菅家元志, 諸根理仁, 辺見直哉「構成員のスキルと関心を踏まえた組織運営戦略立案への生成AIの活用に関する初期的検討」電子情報通信学会 知能ソフトウェア工学研究会, vol.125, no.253, pp.43-48 (2025)
  • 油谷知岐, 菅家元志, 諸根理仁, 辺見直哉「構成員個人の業務関連メタ認知知識を捉えた組織メタ認知活性化支援」電子情報通信学会 知能ソフトウェア工学研究会 (2026)


ー研究と組んだ理由は。

菅家「産学連携の価値が高いと感じていたからです。現場を見ていれば、何が起きているかは分かります。ただ、それを製品の構造として設計するには理論が必要でした。組織メタ認知が、まさにそこにあたります」

まず、自分の会社で試した

2025年の年明け、プレイノベーションは社内にCompany Intelligenceの開発プロジェクトを立てた。最初に手をつけたのは、SWOT分析の自動化と、それをもとにした対話である。その取り組みは、油谷氏との研究会でも発表された。

営業に向き合ったのは、その年の後半からだった。

菅家「その年の7月に入った営業のメンバーが困っているのを見て、始めたことを記憶しています」

ー自社の営業に、どんな課題があったんですか。

菅家「率直に言うと、『よく分からない』というのが第一にありました。営業は動いているし、商談も進んでいる。でも経営者として見たときに、いまどれくらいの見込みがあるのか、それが良い状態なのか悪い状態なのかが判断できなかった。数字はSFAを見れば分かりますが、それが本当に最新なのかが分からない。会議でも『まだ入力していません』という話に戻ってしまう」

ーヒトの問題だと感じたことは。

菅家「ありました。ただ、メンバーが増えても、ツールを導入しても、ルールを整えても、結果は大きく変わらなかった。そのときに、これは個人の能力の問題ではなく、構造の問題だと気づきました。ツール自体はたくさんありますが、ツールに組織や業務を合わせるより、自分たちの状況に合わせてつくった方が早い。欲しかったのは新しいツールではなく、成果だったからです」

営業担当者2名を対象に、商談と営業会議、その準備や振り返りのプロセスに、半年ほどAIを組み込み続けた。次のような変化が見られた。

  • 会議・準備にかかる時間:約75%削減
  • 商談数:約2.1倍
  • 商談の質(独自のフィードバックスコア):約1.5倍
  • 受注数:約3倍
(※これらの数値は、あくまで自社での検証結果です。同様の成果を保証するものではありません。)

菅家「AIを使ったから成果が出た、とは考えていません。AI活用を営業プロセスの一部として設計して、日々の流れの中に組み込んだから変化が生まれた。この順番を取り違えると、たぶん同じ結果にはなりません」

この取り組みを言語化したのが、2026年1月の「東北AI維新」での発表だった。そこから、東北の企業と一緒に確かめる場の募集が始まる。

AIのある時代だからこそできる、新たな支援の形——福島・東北で13年・330社の探究に伴走した経営者が、仲間そのものをつくるまで


東北20社と、3ヶ月の探究をやった

言葉と理論は揃った。あとは、それが現場で通用するかどうかだった。菅家は、自分たちだけで確かめる道を選ばなかった。

持っていた仮説は2つあった。ひとつは、始めるときに何も用意しなくていいようにすること。連携の設定も、整えたデータも、マニュアルも、プロンプトの勉強も要らず、商談を録音するところから始まる形である。もうひとつは、人がその都度指示を出さなくても、AIの側から動くこと。

菅家「2つとも、最初から仮説として持っていました。ただ、ラボで渡せたのは前者までです。会社全体を見渡すほうは、当時まだ形になっていませんでした」

2026年5月から7月にかけて、実際の商談でAIを使う実証プログラム「営業AIラボ東北」に、東北の企業20社が参加した。同社はこれを「3ヶ月の探究」と呼び、教える場でもツールを試してもらう場でもなく、参加企業と一緒にAIと営業のあり方を探る場だと位置づけた。

期間は3ヶ月、全3回。6月に各社の現場へ渡したβ版が担っていたのは、日々の記録のほうである。話した分から議事録と日報ができ、翌朝には下書きを終えたという報告が届く。参加者の半数以上が経営層だった。

終了時のアンケートに答えた参加企業の社員23名のうち、8名が、期間中に一度も使わなかったと答えている。この8名が挙げた理由の上位は、動作環境の制約と、業務のどこで使うかが定まらないこと。AIの出力品質を挙げた人は、1名もいなかった。

進んだ会社もあった。ルート営業中心の製造業では、経営者自身が1日3件ほど商談を録音し、約1ヶ月検証した。担当者任せだった商談の中身が見えるようになり、具体的な指示を出せる状態になった。

ー3ヶ月やって、いちばん想定と違ったのはどこでしたか。

菅家「思ったよりAIを身近に感じている方がいたことです。

ある経済団体では、会員企業を訪問したときの録音から、AIが職員の強みを評価するという使い方が生まれました。上司から強みを指摘されると、気を遣ってくれているのではないかと身構えてしまう。でもAIからの評価には裏表がないので、素直に受け取れる。それが職員の自信につながっている、という声が現場から上がってきました。

私たちは、使い始めてもらうまでのハードルの高さばかりを心配していましたし、実際に高い会社もありました。ただ、使い始めた人がAIをどう受け取るかについては、見立てが足りていなかったと思います」

7月9日の最終回で、菅家は地域企業がAIの前で止まる場所を整理して見せた。導入前に立ちはだかるのが「選定の迷い」「セキュリティの不安」「費用対効果の不透明さ」の3つ。導入後に待つのが「技術習得の壁」「構築・育成の壁」「実務定着の壁」という3つの壁である。

菅家「3つの壁はいずれも、『AIを使わせること』を目的化した瞬間に生まれるんです」

仲間は、使わせるものではない。20社との探究で確かめたことのひとつが、これだった。

使わせずに、使われるものにする。矛盾しているようだが、これらを実現させるためには渡し方を工夫するだけでは足りず、製品の前提そのものを変える必要がある。それらを実現させた会社が、ラボの最終回と同月のうちに立ち上がった。

2026年、AI社員という仲間を届ける会社を設立

AIのある時代だからこそできる、新たな支援の形——福島・東北で13年・330社の探究に伴走した経営者が、仲間そのものをつくるまで


2026年7月27日、EvoMate株式会社を設立。プレイノベーションの100%子会社で、所在地は親会社と同じ郡山市本町である。

ー自社の一事業として続ける選択もあったと思います。

菅家「AI社員の提供を専門に担う会社にしたかったからです。ブランドと事業運営を親会社から独立させて、顧客創造と市場開拓に集中する体制をつくる。それが設立の理由です。

高度なAIを開発する会社の多くは、都市部に集中しています。一方で、地域企業の業務や組織、商習慣を深く理解しているのは、地域の現場に関わり続けてきた会社です。EvoMate株式会社は、その両方に足を置いて進めます」

ラボで構想のままだった「会社全体を見渡す」ほうが、9月1日の提供開始で形になる。同社はこの仕組みを「Company Intelligence」と呼んでいる。

覚えることを増やさず、録音のあとは指示を出さなくても動く。13年やってきた泥臭い「伴走」を、人ではないもので担わせる設計である。

料金の考え方も、そこに合わせた。

菅家「営業支援のシステムは、使う人数分のアカウント料金で決まるのが一般的です。EvoMate Salesは、AI社員に任せる仕事の量に応じたプランにしました。営業に人を増やせない会社が、それでも仕事を任せられるようにするためです」

設立したばかりの新会社に、人間の社員は菅家ひとりしかいない。ほかはAI社員だけを配置している。開発と提供の実務は、親会社のプレイノベーションが担う。

菅家「AI社員をサービスとして売るからには、自社もAI社員で回すべきだと考えました。マーケティングをはじめ、経理、契約、請求といった管理部門の業務です。最後に判断するのは私ですが、そこまでの下ごしらえはAIがやっています。AI社員を提供する会社が、まず自社をAI社員で運営する。そこで分かったことは、そのまま製品の改善と、お客様への導入支援に返していきます」

製品でできることの詳細と、導入支援の内容は、提供開始にあわせて公開したプレスリリースとサービスサイトで案内している。

すべての現場に、進化する仲間を



菅家「9月1日の提供開始は、お客様との共同作業の始まりです。EvoMate Salesは、導入した日がいちばん未熟です。現場の皆さまと一緒に働きながら、その会社の仕事を覚えて育っていきます。

地域の現場では、新しいシステムや複雑な操作を覚えること自体が負担になり、AIが定着しない現実があります。人を増やし続けることができないという前提に立ちながらも、会社は知識を溜めて強くなり続けることができる。それを福島から示していきます。最初のお客様とこれから90日でつくる変化は、次の記録として公開します」

答えのない問題に対して、自分たちなりの解決策を導き出す。それを誰かと一緒にやる。一緒にやれる人がいるから、菅家はこの土地を選んだ。ただ、人の数には限りがある。だから、人だけに頼らずに済む仲間をつくった。13年で移り変わってきた言葉は、いまのところそこに着地している。

ラボの記録は「営業AIラボ東北 実証レポート 2026」として、うまくいかなかったことも含めてまとめている。資料請求ページから入手できる(https://plainnovation.com/request) 。

※ 導入企業の了承を得たうえで、導入後90日間の変化を紹介する予定です。

※「EvoMate」「Company Intelligence」は、いずれも商標出願中です。
編集部おすすめ