「気」「巡り」「経絡」といった東洋思想に基づき、特殊なグラフィックを指先で触れながら体内のエネルギー循環を整えるセルフケアプログラム「My Relief(マイリリーフ)」。一見ユニークにも思えるこのプログラムは、中医学(東洋医学)の専門家にはどう映っているのでしょうか。


今回は、ミンイー財団で中医学の専門家として活動するIrisさんに、専門家の視点から捉えたマイリリーフの考え方やプログラムへの向き合い方について詳しく話を伺いました。

医療資源に恵まれない地方で育った経験が、中医学へ興味を持つきっかけに

── そもそも「中医学」とは、どのような考え方に基づくものなのでしょうか?

中医学の思想には非常に幅広い考え方が存在しますが、その根幹にあるのは、「人間は自然界やそれを取り巻くあらゆるものと、密接に結びついている」ということです。人間の身体は一つの統合された全体として捉えられ、心の状態や生活環境、自然界の変化と絶えず相互に影響し合っていると考えられています。

中医学では、こうした動的なバランスを維持すること、そしてバランスが崩れた際にはそれを整えていくことを重視します。このバランスは、決して固定的なものでも、不変のものでもありません。季節や環境の変化、感情の起伏、食生活、日々の生活習慣など、さまざまな要因に応じて、絶えず調整され続けていくものなのです。

── Irisさんが中医学を学ぼうと思ったきっかけを教えてください。

中医学の専門家に聞く「マイリリーフ」の設計思想と“セルフケア”としての新たな選択肢


私が中医学に関心を持ったのは、医療資源が限られた地方で育った経験がきっかけです。当時は診察や検査、手術、薬の処方を受けるために、何度も都市部の大病院まで時間をかけて足を運ばなければなりませんでした。

そうしたなかで、中医学は高度な設備や医薬品への依存度が低く、より多くの人に届けられる可能性を持つ医療のあり方なのではと感じたのです。

また、「人間は自然や宇宙とつながっている」という捉え方や「バランス」を重視する考え方に、個人的にも強く惹かれたことが中医学を学ぶ原点となっています。

マイリリーフに宿る中医学の設計思想。「動的な調和」をセルフケアに落とし込む



── ミンイー財団の活動に携わるようになったきっかけは何でしょうか?

私は中国で中医学の資格を取得し、現在は台湾に在住しています。
ミンイー財団に参画したのは、中医学や代替療法に関心があり、科学的検証にも意欲的な人材を求める募集に応募したことがきっかけでした。そのなかでも、ミンイー財団が非営利で公共的な活動を目指している点や、科学的アプローチを重視する姿勢に魅力を感じたのです。

こうした方向性は、私自身の専門的なバックグラウンドはもとより、医療や健康に対して抱いていた考え方と非常に近いものでした。

伝統医学には探究価値のある領域が多く残されている一方で、「伝統的だから」という理由だけで科学的検証の対象から外してよいとは考えていません。むしろ、中医学の視点と現代の科学的研究を対話させる機会に大きな可能性を感じ、ぜひ自分も関わりたいと思ったことが、ミンイー財団へ参画した理由です。

現在は、プロジェクトマネージャーとして、中医学の専門的なバックグラウンドを生かしながら、「サービスが理解・活用されているか」「ニーズに応えているか」といったことをユーザー視点で考えています。

── 中医学の観点から見ると、マイリリーフの仕組みやセルフケアへのアプローチは、どのように位置づけられますか?

中医学の専門家に聞く「マイリリーフ」の設計思想と“セルフケア”としての新たな選択肢


中医学の観点では、個々の症状だけに着目するのではなく、人間の身体を一つの統合された全体として捉えること、そして気血、陰陽、臓腑(ぞうふ)、経絡の間にある動的な調和を保つことを重視します。マイリリーフの設計思想にも「経絡の流れを滞りなく保つ」という考え方が反映されています。

これは、私が学んできた中医学の理論とも一定のつながりがあり、私がこのサービスに共感している理由の一つでもあります。

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「理論」と「事実」を混同しない。マイリリーフが守る“情報の透明性”



── 中医学の考え方を、一般の方に誤解なく伝えるために注意していることはありますか?

中医学には独自の理論体系や診断・治療法がありますが、そのすべての理論や応用が、現代科学によって十分に検証されているわけではありません。そのため、マイリリーフを紹介する際には「中医学における理論的な考え方」と「マイリリーフそのものに実際の効果が確認されているかどうか」を分けて捉えています。


中医学の特定の概念と共通点があるからといって、「このサービスに中医学的な治療効果がある」と直接的に主張するのではなく、すでに研究で裏付けられている部分と、現在も検証中の部分を明確に区別してお伝えすることを大切にしています。

── 中医学の視点から見たとき、現時点ではどのような部分がまだ解明されていないのでしょうか。

中医学の専門家に聞く「マイリリーフ」の設計思想と“セルフケア”としての新たな選択肢


吸い玉(カッピング)やかっさ、瀉血(しゃけつ)などは日常生活の中でも比較的よく用いられている一方で、その具体的な治療効果に関する厳密な実験検証は、現時点では発展途上と言えます。また、経絡そのものの存在についても、現代科学の観点からはまだ十分に解明されていません。

こうした解明の難しさの背景には、中医学が人間の身体と生活環境、そして自然の変化との全体的な関係性を非常に重視していることが挙げられると思います。

そのため、こうした複雑に影響し合う要素を切り分け、一つひとつを現代科学の研究手法で個別に評価・検証していくこと自体に、構造的なハードルが存在しているのです。

台湾の暮らしに中医学が根付いている背景



── 台湾の利用者からは、実際にどのような声が寄せられていますか?印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

実際に体験された方からは、「鼻のムズムズがやわらいだ」といったお声をいただいています。なかでも印象的だったのは、たった1回のセッションを終えた段階で、鼻の不快感が改善したと実感されたケースです。また別のユーザーからは、「ヨガスタジオに行くといつも鼻づまりが気になっていたが、セッションを受けてからはそうした悩みを覚えることもなく、集中できるようになった」という嬉しい体験談も寄せられました。

こうした反応の背景には、地域性も関係していると感じます。台湾では中医学やウェルネス、セルフケアの文化が根付いているため、マイリリーフのようなサービスに対しても、自身の生活実態と結びつけて柔軟に理解していただける傾向があります。

さらに、すでに西洋医学や中医学など多様なアプローチを試してきた方が多く、「自分自身で取り組める新たな選択肢」として、日本とは異なる視点からサービスに期待を寄せていただいていると感じます。


── 台湾では、なぜ中医学やウェルネスになじみ深い人が多いのでしょうか。

個人的には、台湾は長年にわたって中国文化の影響を強く受けてきたため、中医学の基本的な考え方に馴染みのある方が比較的多いと感じています。また、「人間は自然と密接につながっている」という中医学の思想は、日常生活の中にも深く根付いています。

例えば、夏にはスイカや緑豆スープなどで体の熱を冷まし、冬には体を冷やさないよう滋養に気を配るなど、季節や気候の変化に合わせて「食事や生活習慣を調整する」という習慣があります。ほかにも、日常的にツボ押しを取り入れたり、出産後の女性が「産後の養生(坐月子)」を行ったりする習慣も根付いています。

こうした伝統は世代から世代へと受け継がれ、私たちの暮らしに自然と溶け込んでいます。

常にユーザー視点に立ち、「何を提供できるか」を追求する

── 今後、中医学の専門家として、財団やマイリリーフがどのように発展していくことに期待を寄せていますか。

中医学の専門家に聞く「マイリリーフ」の設計思想と“セルフケア”としての新たな選択肢


このサービスは研究・検証の段階にあり、現時点で安全性や有効性を保証することはできません。そのため、「何が分かっていて何が分かっていないのか」を誠実に伝え、ユーザーがその状況を十分理解したうえで選択できるようにすることが最も重要だと考えます。

私たちが目指しているのは、単にユーザーに信用してもらうことではなく、真摯に研究を重ね、まだ分かっていないことを一つずつ明らかにしていくことです。

健康やセルフケアに対する捉え方は、人によってさまざまです。だからこそ、エビデンスを尊重しつつも、多様なユーザー一人ひとりに合わせた多角的な視点からコミュニケーションしていきたいと考えています。


最も大切なのは、「常にユーザー視点に立ち、ユーザーが本当に必要としていること」を理解した上で、何を提供できるかを考えることです。今後もミンイー財団が研究を重ね、サービスの効果や限界をより明確にしていくことで、誰もが正しい情報のもとで安心してセルフケアの選択肢を増やせるよう願っています。

良いサービスとは、必ずしも最初からすべての答えを持っている必要はないと私は考えています。むしろ、問いに向き合い続け、検証を重ね、最終的にユーザーが自分にとって、本当に役立つものを見つける手助けができることが大切なのだと思います。

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