東條英機首相は「竹槍でB29を撃墜しろ」をはじめ、素晴らしい「工夫」を次々と思いつかれた(写真:共同)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
* * *
――アメリカとイランは6月15日に停戦合意に至ったにもかかわらず、互いに「停戦合意違反」を非難しあっています。
佐藤 ありません。ただし、基本的にはもうイランは「破綻国家」になっていて、全体を維持することができません。
――おおっ!!
佐藤 イスラム革命防衛隊はホルムズ海峡でいたずらする以外何もできないので、大きな絵が描けないということです。
――すると、このまま待っていればイランは崩壊していくのですか?
佐藤 自動的には崩壊しませんが、どんどん弱くなっていきます。
――すると、トランプはいまの戦い方で勝っている?
佐藤 勝っています。この状況でイランは核開発ができません。この消耗戦に巻き込まれたイランにとって、それが一番の大打撃です。
――確かに。
佐藤 それから、定期的にイスラエルが攻撃をしていますよね?
――義務のように空爆を繰り返しています。ということは、人間にとって食い物と金が必要ですが、それがどんどんなくなるイランはどんどん弱くなっていくと。
佐藤 明らかに弱くなっていきますね。それからもうひとつ、中国の「金持ち喧嘩せず」です。
――そこに話が落ち着いたわけだ。
佐藤 だから、今回の米中首脳会談における最大のディールは、中国が米国から石油と天然ガスを買うことです。つまり、中国はエネルギーを米国に依存していきます、と。
――そうなったらイランはもう、ダメじゃないですか?
佐藤 それでもイランはまだまだ頑張りますよ。イランは負ければ体制転換になります。当然、いまの指導部は全員、縛り首ですからね。しかし、イランが調子に乗ってホルムズ海峡で商船を攻撃したから、アメリカは7月8日にイランを本格的に攻撃しました。トランプ大統領はイランによる原油生産や輸送、販売に関わる制裁解除を取り消しました。トランプは攻撃に出ています。
――それは死に物狂いで頑張りますね。
佐藤 だから、この戦争はアメリカ型の無条件降伏型の戦争となったんです。
――トランプはのらりくらりとやっていればいい、ということですね。
佐藤 神からの使命だと思っていますからね。神からのコーリング、つまり召命です。
だから、イランは勝てないんです。イランは「光のキャラバン」とか、シャヒード(イスラム教における殉教者)とかを入れていますからね。
――確かに。あの光が入ってくるということは、もう実体化していないということじゃないですか?
佐藤 それは生死を超えたところでのお話ですね。
――ところで、米中首脳会議でトランプが習近平に「プーチンにウクライナとの和平交渉に出てくれ」と頼んだ、という報道がありました。これはどう思われますか?
佐藤 それは違うと思います。ウクライナの希望的な観測ではないですか。ロシアは米国に仲介役をやらせますよ。
――要するに、中国は「金持ち喧嘩せず」で高みの見物だと。
佐藤 そうです。それにウクライナ戦争はもうケリが付いています。カギはドイツなんですよ。
――ドイツ......?
佐藤 ドイツがこのまま中途半端な支援を牛の涎(よだれ)みたいにだら~と続けていれば、ウクライナはますます劣勢になっていって、領土を失っていくだけです。
ところが、ドイツが本格的に経済の軍事化をして、ウクライナを本格的に支援すれば、それは盛り返せます。そしてその場合、今度はロシアとの国境を越えて、ウクライナ軍が入ってくる可能性があります。ただし、それは戦術核の世界となります。
――核兵器が使われてしまう......。
佐藤 ドイツの国民性、それからあのロシアの国民世論を考慮すれば、ドイツの支援でウクライナ軍がロシア領に入ってきたら、核兵器を使っていいとなります。
――それは構図として、第二次世界大戦と同じことになる。
佐藤 そうです。
――しかし、プーチン露大統領は「ウクライナは兄弟だ」と言っていますよね。
佐藤 しかし、ウクライナの西部ガリツィア地方の60万人は、第二次世界大戦中に「ウクライナ蜂起軍」という形でナチスと共にロシアを攻めたわけですからね。
――そりゃ、核ミサイルを撃ちますね。話は変わりますが、高市幕府は野党からガソリン補助4000億円の引き下げを持ち掛けられていますが、価格はG7最安水準と自慢しています。あの方は聞く耳を持っているのですか?
佐藤 「全部うまくいっている」と思っていますよ。例えばナフサ、それからできるシンナーが上流、下流で詰まっていても大丈夫だと。さらに、パッケージを白黒にしたカルビーに対しても「けしからん」みたいな話になっていきます。
――しかし、塗装業者がどんどん倒産しているんですよ。
佐藤 それは「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」です。「量は十分にある」とお上が言っていることを聞かない不届き者がいるから悪い、という理論です。
これは、東条英機首相と同じ考え方です。
――すでにいまの日本は大東亜戦争の決戦時と同じ時代になっている。
佐藤 そうです。そして、単なる数字などを過剰に評価したら、日清戦争、日露戦争も勝っていたのか?ということです。
数字と違うものがあって、その力によって勝利したというのが明確な事実だという考えなんです。数字はひとつの事実なんだけれども、もうひとつの客観的な根拠が存在するというのが、皇軍の伝統なんですよ。
――それは、この連載で何度も出ている大日本帝国の国策映画『かくて神風は吹く』での北条時宗のセリフ、《心をもって、皇御国を守らんとする、これらの赤誠、天に通ず。4000余りの敵舟を一夜のうちに覆滅し候。これ、皆、伊勢におわします皇祖神霊の御神業》ではないですか?
佐藤 そうです。だから、大東亜戦争も本当に敗北していたんでしょうか?
――していません。国体は護持(ごじ)されていますから。
佐藤 そう、あれだけやられたのにいま経済がこれだけ盛り返し、G7になっても強いままです。その事実があるんですから、決してあの戦争に負けたとは言えません。
いつか追い詰められたとき、日本人は本当の力を出します。まだ本気を、実力を出してないだけです。
――すると、ナフサが足りなくて困っているのは、気合が足りないからだと。
佐藤 そうです。工夫をすればナフサがなくても問題ないはずです。東條総理が「ガソリンがなくても飛ぶ飛行機を開発できないか」と言ったのと同じですよ。
――そ、それは無理かと......。
佐藤 だから、そういうところでやはり工夫が足りないんですよ。
次回へ続く。次回の配信は2026年7月17日(金)予定です。
取材・文/小峯隆生
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