広がるアジアの網~ダッカ(2) 【「新型コロナウイルス学者」...の画像はこちら >>

オールドダッカにある、「ピンクパレス」こと「アーシャン・モンジール博物館」。よくわからない古ぼけた展示品がばかりが並ぶ館内よりも、博物館の周囲に広がるオールドダッカや、博物館の前を流れる、「世界一汚い川」と呼び声の高いブリゴンガ川のカオスのインパクトの方が桁違いに高い。


連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第185話

かつて「アジア最貧国」と呼ばれたバングラデシュ。その地に飛び込みブランドを築いた山口絵理子氏の足跡を重ねながら、「アジアの連帯」の可能性を考える。

* * *

【マザーハウス】

今回の訪孟(バングラデシュは、漢字一文字で「孟」と書くらしい)の目的はもちろん、私がこれからの目標のひとつに掲げる「アジアの連帯」(76話、139話、175話など)の拡大である。それに加えて実はもうひとつ、裏テーマとして潜ませていたものがあった。

それは単純に、「バングラデシュのダッカという街を自分の目で見てみたい」、ということだった。

近年の経済発展によって成長を遂げているバングラデシュの2024年のひとりあたりGNI(国民総所得)は、213ヵ国中151位に位置している。これは、163話で紹介したカンボジアよりも順位が高い。

しかしひと昔前まで、バングラデシュは「アジア最貧国」と呼ばれていた。それを知ったのは、バングラデシュで「マザーハウス(MOTHERHOUSE)」というバッグや革小物などを扱うブランドを立ち上げた、山口絵理子氏の存在がある。

20年近く前、京都で大学院生をしているとき、研究室の後輩から、山口氏の自伝『裸でも生きる』を押し貸しされた。それを読み、彼女と「マザーハウス」の存在を知って衝撃を受けた。

開発途上国を支援するために、途上国発のブランドを創る――。

そのために彼女は、「アジア最貧国」だったバングラデシュに単身渡ってブランドを立ち上げたのである。言うまでもなく、そのブランドこそが「マザーハウス」。彼女は当時25歳だった。彼女は私の一歳年上。歳もほとんど変わらないひとりの女性がそれを成し遂げた国や街はいったいどんなところだったのか? それを自分の目で確かめてみたかったのである。

そしてもうひとつ、そんな彼女のふるまいから学びたかったことがある。

はたして彼女はどうやって、バングラデシュに活動基盤を作ったのだろうか? そしてそれをどうやって成し遂げたのか?

私とは目的こそ違えど、「アジアから世界へ」という発想や、それを実現するために「現地に飛び込む」という彼女の行動は、これからの私が標榜する、G2P-Asiaとしての「アジアの連帯」(76話、139話、175話など)の参考になるところがあると思ったのだ。

それを追体験するためには、やはり現地を見るべし。というわけで、研究打ち合わせも兼ねて、ダッカに突撃訪問することにしたのだった。

そしてこれは余談だが、海外出張中、私は財布を持ち歩かない。外を出歩く時には基本的に手ぶらで、現地紙幣とクレジットカードとホテルのカードキー、それらをポケットに入れるだけだ。そして、それらをまとめるカードケースには、山口氏の気概にあやかる気持ちも込めて、「マザーハウス」のカードケースを愛用している。

【ジアとエナイエット登場】

話は戻って、バングラデシュ訪問の主たる目的であるが、それはもちろん、バングラデシュに新しいコウモリのサンプリング拠点を作るために訪れた。

現在、私たちが研究対象としている「キクガシラコウモリのコロナウイルス」は、東アジアや東南アジアでは詳しい調査が進められている。しかしミャンマー以西、つまり南アジアでは、調査報告がまだなかった。バングラデシュはミャンマーの西。であれば、「バングラデシュに生息するキクガシラコウモリも、コロナウイルスを持っているかも?」というのが、今回の出張の動機である。

それでは、そこにどうアクセスするか?

今回も、細い糸をたどってここまでたどり着いた。まず、熊本大学には、バングラデシュからの留学生がなぜかたくさんいることに目をつけた。そして、熊本大学のG2P-JapanのコアメンバーIに相談して、ある優秀なバングラデシュ留学生を紹介してもらった。

私の目的をその留学生に伝えると、しばらくして、バングラデシュでコウモリの調査研究を実施できそうな研究者を紹介するメールが届いた。それが、ジアとエナイエット。今回の訪問先の研究者たちである。

彼らとは、メールで何度かやりとりをした後、Zoomで一度打ち合わせをした。

私の目的の実現可能性が見えてきたので、もともと予定していた東南アジア出張にこの訪問をねじ込んで、現地で詳細を詰めることにしたのである。

対面で会うことの大切さは、これまでに訪れたアラブ首長国連邦(UAE、102話)やエチオピア(115話)、タイ(138話)、アルジェリア(140話)、カンボジア(164話)で実証済み。今回はそれのバングラデシュ編、というわけである。

文・写真/佐藤 佳

編集部おすすめ