絶望の借金353億円、ついに完済間近!! 夕張市長と市民が語...の画像はこちら >>

史上最高値となった2玉580万円の夕張メロン。落札後、東京都の京王ストア桜ヶ丘店で展示された

353億円の負債完済が目前に迫り、財政再生団体からの脱却へのカウントダウンが始まった北海道夕張市。
国の完全な管理下から解放され、自立した独自のかじ取りが始まる。生まれ変わろうとする夕張市の現在地と市民たちが見据える未来を追った。

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【「夕張メロンまつり」でにぎわう町へ】

芳醇(ほうじゅん)な甘い香りが会場を包む6月21日の「夕張メロンまつり」。無料試食の2000食が30分で消え、3000人が詰めかけた会場で、78歳の女性観光ガイドがつぶやいた。

「これからのほうが大変よ」

夕張市は20年間、住民税1.5倍や下水道使用料1.7倍以上という全国最大級の住民負担に耐え、2027年3月、ついに353億円の負債を完済する。

絶望の借金353億円、ついに完済間近!! 夕張市長と市民が語った不撓不屈の20年「当時の必死さが町全体で薄れている」
3000人が詰めかけた会場。夕張太鼓の演奏や夕張メロン早食い競争などを実施。北海道のご当地アイドル・FRUiTYの姿も

3000人が詰めかけた会場。夕張太鼓の演奏や夕張メロン早食い競争などを実施。北海道のご当地アイドル・FRUiTYの姿も

最盛期、人口約12万人を誇った炭鉱都市は、1990年の閉山前後から力を入れていた観光事業の行き詰まりで06年に財政破綻。職員数を3分の1以下に減らし、全国最低といわれる行政サービスの中でここまでこぎ着けたが、人口減少は止まらず、現在の人口は約5700人、高齢化率は53%超だ。

そんな中、今年の夕張メロンの競りは異例の展開を見せた。5月22日、札幌市中央卸売市場での初競りで2玉580万円。前年の100万円から5.8倍という驚異的な値がついたのだ。

破綻から20年、完済目前の節目を祝うかのような最高値に沸くが、外部の人々の意識はまた異なるようだ。

冒頭の女性ガイドに、夕張を訪れる旅行者の反応を尋ねると、思わぬ現実を口にした。

「財政破綻のことを口にする人はあまりいないね。知らない人も多い。暗い町というイメージで来る人は思ったよりいないのよ」

絶望の借金353億円、ついに完済間近!! 夕張市長と市民が語った不撓不屈の20年「当時の必死さが町全体で薄れている」
市場価格から2割ほど安く買える直売所では1200個が20分で完売

市場価格から2割ほど安く買える直売所では1200個が20分で完売

20年の歳月は、人々の記憶をそこまで薄れさせるものなのか。ただ、当時を振り返る彼女の表情は一瞬曇った。

「当時は『夕張は終わった』と思ったけど、どん底を経験して『行政任せにせず自分たちで町を守る』意識がついた。

でも、完済を前に、当時の必死さが町全体で薄れている気はするの。今いる人間は夕張が大好き。だからこそ、ここからが頑張りどころね」

その未来に向けての取り組みも進んでいる。夕張市内の唯一の公立高校・北海道夕張高校では、独自の教育プログラムで「地域に根ざした人材育成」を進める。イベントに訪れていた熊谷孝宏校長が語ってくれた。

「『総合的な探究の時間』で、1年目は夕張を知り、2年目は未来の夕張を考え、3年目は理想の夕張をつくるカリキュラムです」

市長や大学教授が教壇に立つ「夕張学」を学ぶ生徒たちにとって、破綻はもう歴史の一コマだ。熊谷校長は言う。

「大人世代は破綻を『負の遺産』ととらえがちですが、知らない世代だからこそ先入観なく『どう町を良くするか』を純粋に考えている。

市長の講義も、暗い過去ではなく新しい発見として吸収してくれているんです」

絶望の借金353億円、ついに完済間近!! 夕張市長と市民が語った不撓不屈の20年「当時の必死さが町全体で薄れている」
教育現場の現状を語る夕張高校の熊谷校長。「財政再建後、われわれが夕張に何を残せるのか子供たちと考えています」

教育現場の現状を語る夕張高校の熊谷校長。「財政再建後、われわれが夕張に何を残せるのか子供たちと考えています」

その成果のひとつが、夕張メロンの長期保存研究だ。通常なら1ヵ月で食べ頃を過ぎるメロンだが、生徒たちの研究によって、12月まで保存できる技術が開発された。「クリスマスケーキに夕張メロンを使ってほしい」と新たな市場開拓に挑んでいる。

道外から生徒を募る制度も始め、今年は埼玉県からの入学があった。校長自身もSNSで魅力を発信し続ける。

「地域を変えるには『若者、よそ者、ばか者』の三者が必要。常識にとらわれず挑戦する人が集まれば、新しい未来が開けると信じています」

夕張高校は今、「次世代」への種まきを進めている。

【約7割が兼業農家に】

「あの頃はメロンを作れば家が5軒建つっていわれたよ」

次世代が前を向く一方、長年この町で生きてきた元メロン農家の男性(80歳)は、輝かしかった若き日を振り返る。

「朝から晩まで働いて家族を養って、子供たちも『お父さんの後を継ぐよ』って言ってくれた。それが農家の幸せだったんだ」

しかし、「後を継がせるのは酷だ」と農家を辞め、今日まで建設業で町を支えてきた彼の言葉は厳しい。

「今は高校を卒業しても仕事がないから若者は都会に出ていくし、もう戻ってこないのが現状だ」

「仕事がないならメロン農家に」とはいかない現実がある。かつて独り勝ち状態だったメロン産業は、他地域との競争激化によって収益構造が変化し、かつてのような突出した富を生まない産業へと変貌した。

夕張友酉(ゆうゆう)市場の多喜雄基(たき・ゆうき)社長によると、かつて約190軒あった農家は87軒に激減。今や約7割が兼業だという。メロン一本では食えず、冬場の仕事のかけ持ちが必要だが、その「冬の仕事」自体が今の夕張には少ない。

絶望の借金353億円、ついに完済間近!! 夕張市長と市民が語った不撓不屈の20年「当時の必死さが町全体で薄れている」
「週刊プレイボーイにまた取り上げてもらえるぐらい男の遊び場も盛り上げてほしいね」と夕張友酉市場の多喜社長

「週刊プレイボーイにまた取り上げてもらえるぐらい男の遊び場も盛り上げてほしいね」と夕張友酉市場の多喜社長

仕事だけでなく、生活の足場も縮小している。市が進める中心部への集約計画「コンパクトシティ構想」に対し、男性は複雑な胸中を明かす。

「言葉はカッコいいけれど、生まれ育った土地を離れるのは簡単じゃないよ。近所の家や店が少なくなって、買い物も通院も大変になっている。

ひとつひとつ、思い出のある場所がなくなっていくような計画には、僕はやっぱり前向きになれないな」  

この住民が感じる衰退の痛みを、多喜社長も冷徹に見つめている。

「3、4年前、市の職員が語ったたとえ話が、住民の胸に重くのしかかり始めているんです。『夕張は今、点滴と酸素ボンベと車椅子でやっと生きている状況です。これが借金を完済して国の保護が全部外されたとき、さあひとりで歩けと言われても歩けませんよね』って。当時はずいぶんなブラックジョークだなと笑い飛ばしたけど、今、それがひしひしと迫ってきている」

だが、だからこそ今、この停滞感を打破したいという多喜社長の言葉には熱がこもる。

「ひとりひとりの人間が、いろんな個人の才能を伸ばして夕張再生を図るしかない。

行政には市民に明るい未来を感じさせてほしい。夢でもパフォーマンスでもいいから、景気のいいことを語ってほしいよね」

絶望の借金353億円、ついに完済間近!! 夕張市長と市民が語った不撓不屈の20年「当時の必死さが町全体で薄れている」
20年3月に開館した夕張市の拠点複合施設「りすた」。市が進めるコンパクトシティ構想の中核を担っている

20年3月に開館した夕張市の拠点複合施設「りすた」。市が進めるコンパクトシティ構想の中核を担っている

絶望の借金353億円、ついに完済間近!! 夕張市長と市民が語った不撓不屈の20年「当時の必死さが町全体で薄れている」
「りすた」は公共交通結節点や行政窓口、キッズスペースなども完備。30年には隣接地に新市役所が完成し移転する予定

「りすた」は公共交通結節点や行政窓口、キッズスペースなども完備。30年には隣接地に新市役所が完成し移転する予定

今、「完済間近」のニュースによって夕張に再び注目が集まってきているからこそ、それをどう地元に還元できるかが重要だという。

「ニュースを見て、東京や大阪の人も夕張メロンを買いに来てくれている。それをどう継続させていくかを考えないといけない。市長は『老人が日本一健康な町を目指す』と言っているけれど、夕張の年寄りは元気だからさ。

スナックとか飲み屋とか、男の遊び場も盛り上げてほしいね(笑)」

【破綻当時、矢面に立った現市長】

19年に夕張市長に就任し、現在2期目となる厚谷司市長は、市役所の一般職員からキャリアを始めた、いわゆる「生え抜き」の首長だ。

06年の財政破綻当時、彼は市職員として教育委員会に勤める傍ら、職員組合(労働組合)の委員長として、過酷な給与カット交渉の矢面に立っていた。厚谷市長が当時の重苦しい空気を振り返る。

「06年9月から、まずは月給15%カットを受け入れざるをえませんでした。さらに11月には、月給3割(年収ベースで40%)カットという、過去に例のない大幅な削減案が提示されたんです。誰も職員が残らないのではないか、と思うほど衝撃的でした」 

予想どおり、07年3月には職員の約半数が退職を選択した。残された職員は激減した人数で以前と変わらない業務量をこなすことになり、過酷な労働環境に追い込まれた。

「残業も増えて無理が出る中、当時の上司が『たまには慰労会でもやろうか』と声をかけてくれたんです。でも、次に続いた言葉は『外ではできないから、俺の家でやろう』でした」

外で飲めば、市民から「破綻の片棒を担いでいた」と後ろ指をさされる。税金で飲んでいるのではないかという誤解も生じやすい環境だ。歓送迎会も飲み会も事実上すべて消滅した。そんな時代だった。

絶望の借金353億円、ついに完済間近!! 夕張市長と市民が語った不撓不屈の20年「当時の必死さが町全体で薄れている」
夕張メロンまつりを訪れた厚谷市長。前市長から受け継いだ「夕張メロン柄」の名刺入れで町をアピールしていた

夕張メロンまつりを訪れた厚谷市長。前市長から受け継いだ「夕張メロン柄」の名刺入れで町をアピールしていた

あれから19年。市長として、借金完済という大きな節目を迎えようとしている。

「今までは極端な話、鉛筆やボールペンひとつ買うのにも国の許可や北海道の指導に沿わなければならなかったのが、今後は独自の方針でやっていけるようになる。少し希望の光が差してきました」

これまで新規事業はすべて総務大臣の同意が必要だった。今後、その制約は緩和されていく見通しだが、抱える課題は山積みだ。来年度から職員の給与カット廃止を目指しているものの、「地方の自治体職員の確保は、非常に深刻な課題」と厚谷市長は明かす。 

さらに、人口減少への対策としてコンパクトシティ構想を継続する方針だが、高齢者の移転誘導は容易ではない。

「実際に市内の医療機関からは、便利な中心部に移り住んだ高齢者が、環境の変化からか、その後体調を崩してしまう例も報告されています」

また、市民の大きな負担である高い上下水道料金についても、今回の借金完済とは別問題として重くのしかかり続ける。本来、水道事業は施設維持を水道料金のみで賄う「独立採算制」が原則だが、現在の夕張は赤字が続く。

ただし、一般的な行政経費からの赤字補填(ほてん)は行なっておらず、施設削減を進めるなど、水道会計の内部でやりくりを続けているのが実情だ。

「人口が減れば水の使用量も減り、売り上げが下がります。夕張は山の中にあり、高い場所に水を送るためのポンプが市内に無数にある。さらにメインの水道管の総延長は200㎞に及び、これは市域の南北の直線距離(約35㎞)の6倍以上になります。

これらを維持管理しなければならないため、コンパクトシティ構想を進めて施設そのものを減らしていかない限り、料金は高いまま維持せざるをえないのです」

【楽天家の妻に支えられた20年】

「今住んでいる人を守るのがスタートだった」と語る厚谷市長は、市民からの厳しい声も率直に受け止めている。

「厳しい声もあることは承知しています。華々しい成果を出せているわけではない。それは事実です。ただ、夕張に必要なのは派手な政策ではない。今住んでいる人たちが安心して暮らせる環境を守ること。地味でも、それが私の仕事だと思っています」

ほかの自治体への教訓を尋ねると、市長の表情が引き締まった。

「共通して言えるのは『事業のやめ時を見極める』重要性です。夕張は炭鉱閉山後、成果が出ない観光事業へさらにお金を投資してしまった。

人口減少やニーズの変化を5年、10年のスパンで見つめ、縮小や撤退を常に検討しなければなりません」

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夕張メロンとクマが合体して生まれたご当地キャラの「メロン熊」。道の駅では関連グッズが飛ぶように売れていた

夕張メロンとクマが合体して生まれたご当地キャラの「メロン熊」。道の駅では関連グッズが飛ぶように売れていた

かつて厚谷市長が、市町村合併後に財政が厳しくなった別の自治体へ講演に赴いたときのことだ。その町の住民から「役所の財政のことはわからないから、行政のわかる人がやってくれればいい」という言葉を聞き、強い危機感を覚えたという。

「市民が財政を『人ごと』にして役所に丸投げした瞬間、どの町でも破綻への道が開かれます。住民自らが財政を理解し、議会をチェックして自分事として考えること。それができなかったからこそ、かつての夕張は厳しい決断をせざるをえませんでした。

借金が完済されても夕張の課題は終わらない。ほかの自治体の皆さんには、夕張を反面教師にしていただきたい」 

逆風の中でもくじけなかった理由を聞くと......。

「破綻直後、職員の給与カットで、生活は厳しいものでした。ただ、妻は非常に楽天家で、私が市長選に出るかという人生の大きな決断の際にも反対されませんでした。

うちに子供はいませんが、いつも隣にいる妻の『大丈夫。なんとかなるわよ』という言葉が、この20年間を支えてくれた大きな力だったかもしれません」 

「数字上の再生」を終え、これからは人々の「生活の再生」へ。夕張の本当の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

取材・文・撮影/吉岡 俊 写真/時事通信社

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