「進次郎構文」はかつて笑える余地があった
拙著『政治家の「答えない」技術』では、小泉進次郎氏の構文を「政治家構文」の代表例として批判した。理由は、彼の言葉が明るく、前向きで、耳ざわりがよいにもかかわらず、肝心の意味がつかみにくいからである。何かを言っているようで、よく読むと具体的な内容が残らない。抽象語が並び、雰囲気はあるが、政策の輪郭は見えにくい。そこに小泉氏の言葉の魅力と危うさが同居している。環境大臣時代の小泉氏の発言は、しばしばポエムのように受け止められた。言葉としては印象に残る。映像にも向いている。短く切り取れば、前向きな政治家に見える。しかし、その言葉が何を意味し、だれが何を実行し、どの責任を引き受けるのかとなると、急に輪郭がぼやける。これが、私が「進次郎構文」と呼んだものの本質である。
当時の「進次郎構文」には、まだ笑える余地があった。
防衛大臣になると、同じ構文が「失言の一歩手前」になる
ところが、防衛大臣になってからの進次郎構文は、以前と同じようには笑えない。環境政策の場であれば、多少のポエムも政治的な演出として受け流せたかもしれない。しかし防衛大臣の言葉は、自衛隊の位置づけ、武器輸出、同盟国との関係、戦争と平和の境界に触れる。軽い言葉が、重い職務に乗った瞬間、構文は失言の一歩手前まで近づく。象徴的なのは、オーストラリア訪問に関連したX投稿である。小泉氏は、海上自衛隊の海上幕僚長とオーストラリア海軍幹部の関係を「軍人同士の友情」と表現した。記者会見でその真意を問われると、小泉氏は自衛隊は通常の観念で考えられる軍隊とは異なるという政府見解を示したうえで、国際法上は軍隊としての属性を備えているとも説明し、「国民に分かりやすく伝える観点から軍人同士と表記した」と述べている。
ここに、進次郎構文の本質が表れている。「分かりやすく伝えるため」という言い方は便利である。
危機対応でも「責任の中心」が拡散していく
もう一つ目立つのは、危機対応時の答え方である。イラン情勢をめぐる臨時会見で、小泉氏は自衛隊機派遣など邦人退避の具体的支援態勢について問われ、「部隊の詳細な運用は現時点では差し控える」と述べた。さらに米国の軍事行動を支持するのかと問われると、「官房長官や外務大臣の発言に沿って、政府全体としてはそういう立場」と答えている。もちろん、防衛大臣が作戦の詳細を明かせないのは当然である。問題はそこではない。小泉氏の答弁では、主語がすぐに防衛省、自衛隊、関係省庁、政府全体へ広がっていく。自分の判断を問われても、政府全体の立場へ移す。これは安全保障上の慎重さでもあるが、構文としては、責任の中心を拡散させる典型的な答え方である。
「武器輸出」が「成長戦略」に変換されていく
最近の会見では、防衛装備移転や防衛産業に関する発言も目立つ。防衛装備移転三原則の見直しについて、小泉氏は「同盟国・同志国の抑止力・対処力を強化し、日本の防衛生産・技術基盤の維持・強化につながる」と説明した。日本政策投資銀行が、国際条約で禁止される非人道兵器を除き、武器や武器関連製品の事業に対する投資制限を撤廃したことについても、小泉氏は歓迎する姿勢を示し、「防衛産業は国民の命を守る公共性を持ち、経済成長にも寄与し得る産業である」と強調した。
防衛産業を支える必要性は理解できる。防衛力の現実的整備も必要であろう。しかし小泉氏の言葉は、重い政策転換を、前向きで明るい成長戦略のように包み直してしまう。武器、軍事、戦争に近い領域が、イノベーション、スタートアップ、エコシステムという柔らかい語彙に置き換えられていく。
「進次郎構文」と「霞が関構文」が合体した
ここで起きているのは、進次郎構文の進化ではない。むしろ、進次郎構文と「霞が関構文」の合体である。前向きな雰囲気で重い論点を包み、分かりやすさの名で制度上の微妙な言葉を使い、責任を問われると政府全体へ主語を広げる。以前の進次郎構文は、意味が空洞である点に問題があった。現在の構文は、空洞の中に安全保障政策が入っている点で、はるかに危うい。
防衛大臣の言葉は、ポエムではなく「国家の意思」として読まれる「進次郎構文」は、もはや笑い話ではない。
進次郎構文が防衛大臣の口から出るとき、問題は言葉の面白さではなく、言葉の重さに耐えられているかになる。そこに、最近の小泉氏への最大の批判点がある。<文/森川友義>
【森川友義】
早稲田大学名誉教授。元早稲田大学国際教養学部教授。政治学博士。1955年群馬県生まれ。早稲田大学政経学部卒、ボストン大学政治学修士号、オレゴン大学政治学博士号取得。国連勤務後、米国ルイス・クラーク大学助教、オレゴン大学客員准教授等を経て、現在に至る。専門は日本政治、恋愛学、進化政治学。政治学の著書としては『60年安保 6人の証言』(編著、同時代社)、『若者は、選挙に行かないせいで四〇〇〇万円も損している!?』、『どうする!依存大国ニッポン』(ディスカヴァートゥエンティワン社)、『生き延びるための政治学』(弘文堂)等がある
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