そのイメージを覆すのが、女性溶接工・MIOさん(24歳)だ。男性社会で活躍する“現場女子”として、SNS(@weld_mio)で注目を集めている。そんな彼女に、詳しい話を聞いてみると、華やかなメイクの裏には、複雑な家庭環境、高校中退などの壮絶な過去が見えてきた——。
16歳で高校中退して極貧生活へ
MIOさん(以下、同):親が学費を払ってくれませんでした。私の親は、2歳のときに離婚しています。高校までは母に育てられて、そこから父親のもとへ行って、学費を払ってもらうといってくれて学校に行ったんですが、途中から払えなくなってしまったんです。私も居酒屋でアルバイトはしていたのですが、やりたいこともないし、自分で学費を払ってまで高校に行きたいとは思えなかった。それに、当時は遊ぶのに夢中になっていたのもあります。
地元で先輩たちと夜な夜な遊びまわるのも、みんながやっていたからやってただけで、心から楽しいと思ったことはありません。私は何をしてるんだろう、って思ってました。親がちゃんと働いていなかったので、そうはなりたくないと思って始めたはずのバイトも、いつの間にか、やる気も責任感も失せて遊ぶばかりの日々になっていました。
いろいろバイトをしながら、高校を辞めてからひとり暮らしを始めたのですが、まともに家賃も払えない状態でした。遊んでばかりでちゃんと働いていなかったから、毛布も布団も買えず、凍えながら寝ていたんです。
ある時、バイト仲間が地元に連れて行ってくれて、ある先輩と出会いました。彼は家にストーブや毛布を持ってきてくれて、私のことを色々と助けてくれて……彼のお母さんが働いている会社で、私も働かせてもらえることになりました。そこはプラントやボイラーなどの溶接を行う会社で、私は“雑工”を担当することになったんです。出張に行く職人さんのための道具の段取りをしたり、製品が出荷される前に仕上げのペンキ塗りをしたりといった、いわゆる事務仕事ですね。2年くらいやったかな。
そこでの出来事が、私の仕事人生を大きく変えることになるんです。
出張族の先輩たちの話で、現場に憧れて溶接工へ
もともと、現場に出張に行っている先輩たちから「あそこに行って楽しかった」という話や、「◯県のどこどこに行った」と聞いて、出張現場に憧れていたんです。自分も技術を身につけて、稼げるようになりたかった。
あとは「工場は出張してる人たちに養われとるけんな」と言われて、そのことについて考えるようになって。やっぱり自分のスキルを身につけて頑張りたい、もっと稼ぎたい、と思って、勝手に自分で溶接をやりはじめました。
――「免許」とは?
私たちの業界でよく使うのはJIS(ジス)という資格なのですが、これはそこまで勉強はいらないですし、実技をやっていれば比較的簡単に取れるんです。当時働いていた会社の環境ではよく練習をさせてくれて、実技の面でも困りませんでした。そこからさらに、国家資格である「ボイラー溶接士」にも挑戦しました。こちらは学科試験もあるので、私には2ヶ月くらい勉強が必要でしたが、無事に取得することができました。そのあとも十分と言っていいほど、様々な資格を取らせてもらいました。
「(若いし、女性だし)珍しいな」って言われました。まあ、そうですよね、現場に女の子なんてほとんどいないですから。でも、それでむかついたりすることは全然ないです。みんなフラットに接してくれるし。やる気を褒められたり、資格も沢山取らせてもらっていたので褒められたり「溶接めっちゃうまいな」って技術を認めてもらえることは多いけど、だからこそ、手を抜かないようにしています。
――現場で声をかけられたり、ナンパされたりすることは……。
見た目に関しては、インスタではいろいろメッセージをいただくことが多いんですけど、現場で直接しゃべりかけてくる人はいないです。現場の男性たちに対しても、仕事の仲間として接しているので、そういう目では見ていないですし。仕事中は話しかけにくいオーラが出ているのかもしれない(笑)。
――職場に「女の子がもっといればいいのに」と思ったことはありませんか。
たまに「恋バナしたいな」と思うくらいで、そんなにないです。電話で地元の友だちとも話せますしね。そのあとで独立してから、いとこの女性を雇ってみたんですが、やっぱり現場の仕事における女の子って違うというか、難しいなと感じました。
21歳で独立して元配管工の父を雇う
現場に出るようになってからは、仕事が本当に楽しかったですし、やりがいも感じていました。ただその一方で、「私はこの先どこまでいけるんだろう」「これ以上上に行くには何が足りないんだろう」と深く考えるようになったんです。
仕事は順調だったはずなのに、自分の将来や人生について悩むことが増えてしまって……。
――どのような事業をされていますか。
プラントやボイラーの溶接・配管工事を手がけていて、取引先から「こういう現場があるから応援にきてほしい」と仕事を振られたら、下請けとして現場に入っていきます。今は2人の従業員を雇っていて、ひとりは父です。彼はもともと配管をやっていたので、今配管を担当してもらっています。
昔から「親を助けたい」と思っていたんです。私は、両親がまともに働いている姿を見たことがありません。
父も仕事をしていなかったり、荒れた生活をしている……と、私の目にはうつっていました。その後ちゃんと仕事をしても、人が良すぎてお金を払ってもらえない(笑)。それなのに、すぐに人を信じちゃうんです。それだったら、私がちゃんとお金を払う。そう思って、父をうちの会社に呼びました。
――家族との関係に変化はありましたか。
昔は親のことが本当に嫌いで、縁を切っていた時期もありました。でも、誰かのせいにしたり文句を言ったりするんじゃなくて、「まずは自分が変わってみよう」と思ったんです。会社を一生懸命やっていくうちに、親もいい方向に変わっていってくれました。
妊娠7ヶ月、次の挑戦は「人の育成」
もっとたくさんの人の未来を照らし、輝ける場所を作りたいと思いました。若い子が全然いない現場なので、溶接という仕事があることを知ってほしかったし、現場は一番若くて30歳、あとは40代、50代の世界なので……。
そして実は今、彼氏との子どもを妊娠していて、7ヶ月に入ったところです。妊娠をきっかけに、働き方を少し変えていこう、妊娠中の私にもできるものと思いInstagramを始めました。
そうですね、自分ではまだ全然働けると思っているんですけどね(笑)。ただ、自分だけの問題じゃないので、周りに心配をかけたり、迷惑をかけたりするのは違うと思っています。だからこそ、これを機に、現場以外の仕事の割合も増やしていきたいです。会社としても次のステージに進むタイミングなのかなと思っています。
ただ、子どもが生まれても、母や協力者に見てもらいながら、経営者として仕事の幅を広げていくつもりです。
――仕事はどんな変化をしていきそうですか。
去年は未経験の従業員を育てる機会が多くありました。最初は本当に何も分からない状態だったんですが、今では一人で現場に行けるまで成長してくれています。その中で、人に教える難しさも感じました。人を育てることに関しては私自身も初心者なので、従業員や周りで協力してくださった方々のおかげで、私自身もたくさん学ばせてもらっています。
たとえば、自分では当たり前にやっていることでも、相手にとっては当たり前じゃない。技術はもちろん大切ですが、それ以上にコミュニケーションや信頼関係が大事なんだと気づきました。
今後は現場での仕事を続けながら、人材育成や会社づくりにもさらに力を入れていきたいと思っています。
――業界にもいい影響を与えそうですね。
建設業は将来に不安を感じる人も少なくありません。だからこそ、働く人たちが少しでも安心して働ける環境をつくりたいですし、若い世代が現場業界に興味を持つきっかけづくりにも取り組んでいきたいです。SNSでの発信を通して、溶接や現場仕事の魅力を伝えながら、誰かの挑戦を後押しできる存在になれたら嬉しいですね。
* * *
男性ばかりの現場で、紅一点として働くMIOさんが、これほど多くのものを背負ってきたとは、誰が想像できるだろうか。
不遇な境遇をものともせず、「親を雇う」という器の大きさと行動力で、家族の運命ごとひっくり返してみせた。母として、経営者として、現場女子として。今日もその華やかなメイクと決意をマスクで隠して、現場で働き続ける。
<取材・文/綾部まと>
【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother
![LDK (エル・ディー・ケー) 2024年10月号 [雑誌]](https://m.media-amazon.com/images/I/61-wQA+eveL._SL500_.jpg)
![Casa BRUTUS(カーサ ブルータス) 2024年 10月号[日本のBESTデザインホテル100]](https://m.media-amazon.com/images/I/31FtYkIUPEL._SL500_.jpg)
![LDK (エル・ディー・ケー) 2024年9月号 [雑誌]](https://m.media-amazon.com/images/I/51W6QgeZ2hL._SL500_.jpg)




![シービージャパン(CB JAPAN) ステンレスマグ [真空断熱 2層構造 460ml] + インナーカップ [食洗機対応 380ml] セット モカ ゴーマグカップセットM コンビニ コーヒーカップ CAFE GOMUG](https://m.media-amazon.com/images/I/31sVcj+-HCL._SL500_.jpg)



