―[その判決に異議あり!]―

’25年2月、和歌山県田辺市で、一時停止せず呼び止めた女性警察官を投げ倒したとして公務執行妨害罪などに問われた元警察官の男性が、起訴内容を否認。検察が提出した防犯カメラ映像に紺色の不自然な加工があり、和歌山地裁田辺支部は6月、作画・差し替えの疑いを指摘して無罪を言い渡した。

“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、「和歌山地裁防犯カメラ映像偽造事件裁判」について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。

女性警官を投げ倒したとされる男性に無罪判決。元裁判官が憤る「...の画像はこちら >>

証拠隠しや証拠の偽造・ねつ造は、警察や検察の「やりたい放題」!

 この国の捜査機関の闇は深い。前回本欄では、警察や検察の証拠隠しについて取り上げたが、それ以上に質(たち)が悪いのが、証拠の偽造やねつ造だ。

 手口は2種類ある。一つは、事実と異なる捜査報告書を作成する、調書の改ざん。1984年に起きた日野町事件では、何の罪もない阪原弘さんが強盗殺人の容疑で逮捕・起訴された。警察は都合のいい嘘のストーリーをでっち上げ、それに合わせて実況見分調書を偽造したことが後に発覚している。無実を訴え続けた阪原さんは、一生を台無しにされ、ついには獄中で無念の死を遂げた。最近でも、愛知県警の警察官が虚偽の報告書を作成していたことが今年4月に発覚したばかりであり、調書の偽造は決して昔話ではないのだ。

 もう一つは、客観的な証拠それ自体をねつ造するというもの。1966年に起きた世紀の冤罪・袴田事件では、事件現場に残されていた血のついた衣服が、後に静岡県警によるねつ造と明らかになるが、この証拠が決め手となり、袴田さんは死刑判決を受け、47年もの間、牢に繋がれることとなった。

 証拠を偽造するのは警察だけではない。「大阪特捜のエース」と呼ばれた検察官が証拠とされたフロッピーディスク内のデータを故意に書き換えたこともある。


 今年6月に判決がされた和歌山地裁での刑事事件では、防犯カメラの映像の偽造が問題となった。この事件は、被告人が女性警察官を投げ倒したとして公務執行妨害罪で起訴されたものの、被告人は、手を振り払っただけであると一貫して否認していた。

 もみ合いになった様子は防犯カメラで撮影されていたが、裁判所に提出された映像は、男性の腕が紺色で塗り潰されたような不自然な点があったのだ。裁判官は「作画され差し替えられたとの深刻な疑念を払拭できない」として、無罪判決を言い渡した。

 本来なら裁判官が気づく前に、検察官が上がってきた証拠に矛盾があることを見抜かなければならない。刑事事件の記録は、警察から検察に送致された後、起訴担当検察官、その決裁官である次席検事、さらには公判担当検察官が精査するなど、何重にもチェックが入るからだ。

 まさか検察が、昨今、質の低下が指摘されている裁判官を見くびって、多少不自然な証拠を出しても気づかないだろう──と高をくくっているとは思いたくないが、現実の話、捜査機関側のやりたい放題というのが実情なのだ。

刑事司法の闇は、いつまでもなくならない

 例えば袴田事件については、検察トップの検事総長が、裁判所が証拠を偽造と認定したことへの強い不満を、わざわざ「談話」というかたちで発表した。これは袴田さんが殺人犯だと言っているに等しく、袴田さんは現在、この談話が名誉毀損であるとの訴訟を続けている。

 また、先述したフロッピーディスク改ざん事件では、その事件で無罪となった元厚労省事務次官の村木厚子氏が、真相を明らかにしようと国家賠償請求訴訟を提起したが、国は請求を認諾して訴訟を強制終了し、真相の究明を妨害した。

 今回の和歌山の事件では、被告人への謝罪も、検証も、再発防止策の検討もされないと予想される。しかし、この繰り返しでは、刑事司法の闇は、いつまでもなくならないであろう。


<文/岡口基一>

―[その判決に異議あり!]―

【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー
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