事務所のサイトには「最後は『ありがとう』と一言感謝の言葉を伝え、静かに目を閉じました」と書かれていました。
まだずっと活躍されて、世の中に喝を入れていただきたい存在でしたが、なんと理想的で美しい最期だと感動を覚えました。祈る必要がないくらい、天国に直行されたと思いますが、謹んでご冥福をお祈りします。
サイトには美しい達筆で書かれた美輪様のメッセージも掲載。「こんな世の中を生き抜く武器は愛の言葉しかありません。この世のすべての問題を解く鍵は愛です。愛があれば戦争なんか起こりません」というお言葉が、美輪様のビブラートボイスとなって読む人の魂を震わせます。
美輪様の“キレキレの格言”を発掘
実は私は、ありがたいことに美輪様のビブラートボイスを何回か直接浴びたことがあります。舞台に伺ったことも何度かありましたが、直接お話しできる貴重な機会も数回ありました。2010年、2013年、2017年と、ちょっと前の話になりますが、雑誌で取材させていただいたときの美輪様の名言について、今一度発掘してご紹介いたします。
2010年、宝島社のメンズ誌「smart」(2010年7月号)で取材させていただいたとき、読者層が18歳から25歳くらいの男性だと伝えると、美輪様は「一番いい時代よ。だって、少年期から青年期に移る本当に人生でいったら夕映えみたいに短い期間でしょ」と詩的に表現されました。
「世間の手垢がついてないから、純粋で男らしい」年頃だそうですが、「これが社会に出てちょっと経つと、○○○(政治家の名前)や自民党のおっちゃん達みたいに旧家の便所みたいな顔になっちゃう」と嘆いていました。
嫉妬まみれの競争社会で揉まれることで、少年らしさが失われていってしまうそうです。
今からするとかなり攻めていますが、男社会の厳しさについて「“色男、金と力はなかりけり”」という昔のことわざを引用。美輪様いわく「ファッションモデルみたいに色男で、背が高くて、マスクがよくて、女にモテそうなのは、まず男社会では協力を得られない」とのこと。
完璧なルックスの男性は同性に疎まれるので、次第に出世コースからも外されてしまうそうです。ルッキズムの裏の厳しい現実が……。「寅さん」や「座頭市」といった映画は同性にも人気だけれど「色男のシリーズもの映画ってないのよ」と、意外なところを突いていたのも印象的でした。
男女の長所・弱点を熟知した愛のある助言も
ちなみに美輪様は絶世の美男子でしたが、どのように切り抜けてこられたのか伺うと「私は、背が低いもの。160.5cmしかないから」と冷静に分析。ウエストが細すぎて三島由紀夫に気持ち悪がられたこともあったとか。「大体男の人は、疑似女性として私のことを見てたのよ」とのことで、昔からラブレターをもらったり優しくしてもらったりモテていたそうです。美輪様ならではの処世術です。
また、若者の恋愛についても指南してくださいました。男性が好きな女性を射止めたいときは、優しくすること。
「男は褒められると嬉しくてもっと頑張ろうって思うから。男自身がコンプレックスの塊だから。女には劣等感はないの。あるふりはするけど。女には“でも”と“しかし”があるのよ。『私はこういう所がダメ、でも私にはこういうところがあるのよ』ってね」
さらっと人生の真理をおっしゃいます。
「女は負けを認めないのよ。男には“でも”と“しかし”はないの。『あいつカッコイイな~俺はダメだぁ』って、それでおしまい。マイナスのまま解決するから」
美輪様は男女それぞれの長所と弱点を熟知されていて、愛を持って助言しているので、辛口な言葉でも素直に拝聴してしまいます。
「NHK紅白歌合戦」初出演直後の取材では2ちゃんねるの話題に
美輪様は、「2ちゃんねるっていうのは悪口しか書いちゃいけないチャンネルなのね。ねじくれた人専用のチャンネル、それが全部肯定派にまわって『素晴らしい、素晴らしい』って言って、『美輪さん、美輪さん』って言うから、『うるさい!!』って書いてる人もいて」とネットのカオス状態を笑っていらっしゃいました。
以前から出演のオファーはあったそうですが、当時、2分半から3分という持ち時間の規定があったため、それでは表現できないと辞退されていたそうです。昨今の殺伐とした社会情勢や家族の問題を見て、家族の大切さを伝えられる「ヨイトマケの唄」を選んだとのこと。
ただ美輪様としては、貧しい人や大変な状況にいる人のためならどこでも歌わせてもらうとのことで「私には紅白も、どこだって一緒ですよ」という言葉に痺れました。
美輪様は黒という色が嫌いだと常々おっしゃっていたので、シンプルな黒い衣装が意外で、そのことについて伺うと、黒い衣装を選んだのは、「子どもにも大人にも女にも男にも、老人にもなれるように、一瞬にしてパッと変わらないとダメ」なので、黒子に徹する色をチョイスしたとのこと。
美しい声を保つためには毎日「法華経」を唱えられている、とおっしゃっていたのも印象的でした。運動といえば「ラジオ体操」をするくらい。健康でバイタリティにあふれ、ステージでは11cmのハイヒールで歌い踊り、70代後半当時でも裸眼で視力は0.8、と驚異的なエピソードも。お経に健康の霊験があるのならまねしたいくらいです。
若者のファッションに「前世は雑巾」
また、美輪様は、足利時代や室町時代の能や狂言の衣装、江戸時代の武士の着物のほうが粋でおしゃれだと語っていました。現代の若者のファッションについて伺うと、「一頃はね、『この人の前世は雑巾だったんだ』っていう……。その時よりはましになったんじゃない?」と、色やデザインが回復しつつあると評価していました。
黒やグレーの服だと「前世は雑巾」。美輪様の前世ネタは刺激的です。今なら前世ハラスメントと言われる危険もありますが……。美輪様は、若い男性が細眉にする風習に関しては「本当に間が抜けちゃってね、ぬらりひょんみたいになる。ぬめ~っとしちゃって薄気味悪いだけなの」と苦言を呈していました。
「婦人画報」(2017年10月号)で取材に伺ったときは、「庭の木が元気がなくて心配だったから、今日、水をお願いしますってお祈りしたら、少しだけ降らしてくれたので、やっときれいな緑になって」と、当たり前のようにおっしゃっていました。
神仏なのか森羅万象なのか、お願いすれば大体叶えてもらえるようです。この頃から「もう霊感はなくなりました」とおっしゃっていたのは、助けを求める人、霊視してもらいたい人がどんどん来てしまって収拾がつかないからで、実際はサイキック的な能力は健在だったのでしょう。
癒しの力を持つビブラート・ボイス
この取材のときも、エディット・ピアフによる「愛の賛歌」の歌詞や、「人生の大根役者」「18歳の彼」といったシャンソンの歌詞を次々とそらんじていました。
そんな美輪様のビブラート・ボイスには、自然界の癒しのゆらぎと、カリスマのゆらぎ、この2つが融合していて、世界でも稀な声だそうです。音波の癒しの力は絶大で、コンサートを聴いて体が軽くなった方も多かったことでしょう。何より美輪様ご自身も、自分の声のゆらぎの健康増進効果を実感されていたのだと思います。
そんな美輪様の歌声や格言を聞けなくなってしまったのは残念です。美輪様の今までの言葉や声をAIに読み込ませて、新たなご指導ご鞭撻をいただきたいところですが……。
「便利と引き換えに情緒やロマンティシズム、叙情性を失ってしまいました」と、デジタル社会に懸念を表されていた美輪様なので「AIに愛なんてわかるの?」と一刀両断されそうです。
美輪様のような方は後にも先にもいらっしゃらないので、普遍的なメッセージ性がある著作や発言の数々を、脳内再生することしかできません。インナー美輪様に話しかければ、神通力で高次元から答えてくれる気がしています。
<文・イラスト/辛酸なめ子>
【辛酸なめ子】
東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。著書は『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎)、『女子校育ち』(筑摩書房)など多数。
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