同映画は、新潮社から出版された野坂昭如の同名短編小説が原作。イベント冒頭では、新潮社コンテンツ事業室の矢代新一郎氏があいさつに立ち、「『火垂るの墓』は悲しい作品という印象を持つ人も多いですが、それだけではありません」と呼びかけた。
矢代氏は、主人公・清太と妹・節子が笑顔を見せる場面にも注目してほしいと語り、「清太と節子の幸せを守るためには何ができたのか。そんなことを考えるきっかけになれば」と期待を寄せた。さらに、「高畑勲監督が描きたかったのは、清太と節子、2人の幸せな瞬間だった」と作品に込められた思いを紹介した。
上映が始まると、冒頭からスクリーンに見入る子どもたちの姿が見られた。一方、序盤は周囲を見回すなど、少し落ち着かない様子を見せる子もいた。しかし、物語が進むにつれて会場は次第に静まり返り、子どもたちは真剣な表情でスクリーンを見つめていた。
映画鑑賞後は、4人ずつのグループに分かれてワークショップがスタートした。
講師は「大切なのは、自分が思ったことや『なんでだろう』と感じたことを言葉にすること」と説明。まずは一人で自分の心や頭の中を見つめ、続いてグループで互いの考えを共有する。最後に、『火垂るの墓』をまだ見ていない友達に紹介することを想定した「映画レビューカード」を作るという流れで進められた。
最初に取り組んだのは、自分の心の中を整理する「マインドマップ」。作品を見て感じたことや気になった人物、「なんで?」と思ったことなどを付せんに書き出した。
講師が「字がきれいかどうかや、漢字が合っているかは気にしなくていい。本当に思ったことを書いてください」と呼びかけると、子どもたちは作品を思い返しながら、思い思いの言葉を付せんに書き込んだ。
その後はグループディスカッションを実施。ほかの参加者の考えに耳を傾けながら意見を交わしたほか、作品の舞台となった時代背景に関するクイズにも挑戦した。新たに気づいたことをマインドマップに加えながら、自分の考えを整理し、最後は一人ひとりが映画レビューカードを完成させた。
その後、全員が前に立って、作品から受け取った思いを自分の言葉で伝えた。
「戦争ってなんであるんだろうと思いました。無駄だとも思いました。昔、日本でこんなことがあったと知るためにも、ぜひ見てほしい」と戦争そのものに疑問を投げかける子がいた一方、「普通の幸せが一番で、その幸せは当たり前ではないと思う」と、日常の尊さに気づいたという感想も聞かれた。
また、「節子が自分から何かをしようとしているところに注目してほしい」「戦争だけがメインだと思わず、節子と清太が笑っている場面にも注目してほしい」と、兄妹が過ごした幸せな時間に目を向ける感想も聞かれた。
「戦争の過酷さや残酷さを知ることができる」「自分が生まれる前に、どこへ行っても火が飛び込む日があったことをこの映画で知りました」「自分の人生の大切さを知るために見てほしい」など、一人ひとり異なる切り口で作品への思いを語る発表が続いた。
■おばさんは意地悪じゃなかった!? 子どもたちが見つけた新たな視点
ワークショップ終了後、都内から参加した大橋はなさん(小学5年、10歳)と松本野乃さん(小学5年、10歳)に話を聞いた。2人ともこうしたワークショップへの参加は初めてだったといい、「すごく楽しかった」と声をそろえた。
大橋さんは、「節子が『兄ちゃん』と呼ぶのを聞くだけで泣いてしまいました。節子は4歳なのに、10歳の私より強いと思いました」と振り返った。
以前、図書館で原作を読んだ時にも涙を流したというが、それでも映画を見ようと思ったという。「家族がいることは当たり前ではない。今、自分には家族がいるので、恵まれているんだと思いました」と、作品を通じて日常の大切さを実感した様子だった。
一方、松本さんが注目したのは、清太と節子を引き取った親戚のおばさんだった。
「おばさんは、ただ意地悪だったのではなく、自分も生きるために必死だったんじゃないかなと思いました。戦争になると精神的に追い詰められて、つらくなって相手に当たってしまうこともあるのかなと思うと、おばさんが少し気の毒に感じました」
学校の図書室で作品について予習していたというが、映画を見るのは今回が初めて。「看板を見ただけでも『もうだめだ』と思うくらい怖かったです。
さらに、節子の姿を自分自身と重ね、「節子はあんなに我慢しているのに、私は我慢できないことが多い。自分はわがままだなと思いました」と率直な気づきを明かした。
イベント終了後の囲み取材で新潮社の矢代氏は、「『火垂るの墓』はDVDなどを除くと視聴できる機会が限られていました。Netflixで配信されることで、多くの人が作品に触れられる環境が整ったことは大きな意味があります」と話し、「毎年8月15日前後になると、『今年はテレビで放送しないのか』『今年こそ子どもと一緒に見たい』という声が多く寄せられます。こうした機会を通じて、より多くの人に作品を見てもらえれば」と期待を寄せた。
今回のワークショップ開催の狙いについて、Netflixの秋月希保氏は「『火垂るの墓』の配信は今年で2年目。昨年はアクセシビリティ向上の取り組みとして音声ガイド付き配信を実施しました。今年は新しい夏の視聴体験として、子ども向けワークショップを企画しました。作品を見て終わるのではなく、感じたことを自分の言葉で表現するところまでが今回の体験です」と説明した。
また、新潮社の矢代氏は、子どもを対象にした理由について、「戦争映画というと、大人が戦場で戦う作品を思い浮かべるかもしれません。しかし、『火垂るの墓』に登場するのは14歳の清太と4歳の節子です。子どもは子どもの物語だからこそ、自分のこととして受け止められると思いました」と語った。
また、ワークショップで交わされた子どもたちの感想について、矢代氏は「『幸せは当たり前ではない』『自分の人生の大切さを知るために見てほしい』という言葉が印象的でした。高畑勲監督が作品に込めた思いが、今の子どもたちにも届いていると強く感じました」と手応えを口にした。
秋月氏も、「子どもたちが当たり前の日常の大切さを自分ごととして受け止めてくれたことに胸を打たれました。作品を通じた対話が、新しい視点や気づきにつながってくれたのであれば、このワークショップには大きな意義があったと思います」と振り返った。
矢代氏は、「『火垂るの墓』は、見る年齢によって視点が変わる作品です。親子で一緒に見ることで、新しい発見がある作品だと思います」と呼びかけた。
またNetflixでは、7月15日から8月31日まで、映画鑑賞後の感情や気づきを共有する投稿企画「#Netflix感想文」を「note」で展開。「#火垂るの墓」「#Netflix感想文」のハッシュタグを付けて投稿した人の中から抽選で5人に、Netflixグッズと新刊『高畑勲と「火垂るの墓」─「幻の脚本」と「7冊の構想ノート」を読み解く』(著:寺越陽子/新潮社)が贈られる。
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