―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

“外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報のプロ・佐藤優が、その経験をもとに、読者の悩みに答える!今回は、嵐の活動終了によって妻と娘が“嵐ロス”に陥り、仕事や学校まで休んでしまった50歳男性からの相談。推し活は人生を豊かにするのか、それとも依存につながるのか。
佐藤が語る「推し活は現代の宗教」という驚きの見解とは――。

嵐ロスで妻と娘が仕事と学校を休みました……

★相談者★パパは一人(ペンネーム)会社員 50歳 男性

 私の妻と娘に関する相談になります。5月31日にアイドルグループの嵐がラストライブを行い、活動終了したことで、妻と娘が“嵐ロス”になりました。私からすれば、かなり前から活動終了するのはわかっていただろ、という感じなのですが、翌6月1日には落ち込みすぎて妻は会社を、娘は学校を休んだようです(夜、自宅に帰ってから気づきました)。何年も前から推し活ブームが起きて、私は「熱中できるものがあるのは素敵だね」と妻を応援していたのですが、仕事も手につかなくなる人を見ると、推し活は必ずしも健康的なものではないと感じます。推し活って、そんなにいいものなのでしょうか?

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佐藤優の回答

「推し活」は現代の宗教だと私は考えています。現代人の大多数は、キリスト教の神や仏教の仏などを本心から信じることができなくなっています。世の中は物質のみからなり、自分の力で人生を切り開いていくのが当たり前と考えています。しかし、人生も社会もとても複雑です。自分でやりたいことがあっても思いどおりにいかず、壁に突き当たります。さらに人間は例外なく死にます。

 死について考えると誰もが怖くなります。そういう状況で、人間は宗教でない「何か」に頼りたくなります。
ひたすら金儲けに走る人も、お金さえあれば自分が抱える問題を解決できると無意識のうちに考えているからと思います。ここから出てくるのは「悪い情熱」です。ロシアの宗教哲学者ニコライ・ベルジャーエフは「悪い情熱」について、こう述べています。

〈ドストエフスキーは、悪い情熱や悪い観念に憑かれて、その影響下に、人格が分解し変質してゆくことを描く巨匠である。彼はこうした憑かれた状態の本体論的な結果を探求する。無拘束の自由が憑かれた状態に移行すれば、自由はほろんで、もはや存在しなくなる。人間がこうした狂乱状態につかまれるならば、人間はまだ自由ではない。〉(『ドストエフスキーの世界観』85頁)

 推し活が面倒なのは、アイドルグループのファン活動の一種であるにもかかわらず、極端な金儲けと結びついてしまっていることです。原価が50円くらいの缶バッジを数千円で販売するというのがその一例です。アルコールやセックスによって快感が得られるのと同様に、推し活によって脳内の分泌物が出て快感を得られるという報酬系ができてしまうと厄介なことになります。

 奥様と娘さんの「嵐ロス」も一定の時間を経過すると収まります。ただし、今度は別のアイドルグループを対象とした推し活を始めると思います。
アルコール依存症を克服した人が、今度はギャンブル依存症になってしまう例が時々ありますが、それに似ています。アルコールも競馬やパチンコも「ほどほど」ならば、気分転換に役立ちます。推し活もほどほどにということです。

 現在、重要なのは、奥様も娘さんも推し活が一種の依存症だということに気づいていないことです。お二人に『週刊SPA!』に掲載された私の回答を見せて、「まずいんじゃないだろうか」と話してみましょう。奥様と娘さんが激しく反発するようならば、あなたが住んでいる地域の保健所に電話して、依存症に詳しい保健師に相談することを勧めます。具体的な助言が得られると思います。

★今週の教訓……推し活は現代の宗教。時に「悪い情熱」を生む

「妻と娘が嵐ロスで仕事と学校を休んだ」50歳男性の悩みに佐藤優が回答「推し活は現代の宗教」
無神論のマルクス主義からキリスト教に回心した哲学者・ベルジャーエフが、ドストエフスキーからロシア精神と人類の普遍的問題を論じた一冊。'26年刊
※今週の参考文献『ドストエフスキーの世界観』ニコライ・ベルジャーエフ〔斎藤栄治訳〕白水社

―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。
『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
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