達希さんは25歳の頃、ようやく親から離れることができた。しかし、幼少期から受けた続けた虐待の傷跡は深く、今も解離症状やフラッシュバックなどに悩まされている。彼が耐え抜いてきた壮絶な過去と、いまだに抱える両親への複雑な想いを吐露してもらった。
両親から受けた壮絶な虐待の数々
さらに、耳の機能は正常なものの、脳に音を伝える神経に障害が起きて音が聞き取りにくくなる「聴覚神経障害スペクトラム(ANSD)」も発症。騒音の中や早口での会話だと言葉が聞き取りにくい。
「短距離の歩行はできますが、ものすごく体力を消耗します。重いものを運んだり細かい作業をしたりすることは困難です、軽度の知的障害もあります」
虐待が日常化したのは、3歳前後。両親から殴る、蹴る、首を絞めるなどの暴力を受けるようになった。
教師が信じた、母親の嘘
「食事を与えられなかったり、真冬に外で放置されたりしました。『舌を噛んで死ね』と自殺の練習を強要されることもあって……」思春期特有の反抗など許されるはずもなく、親からは絶対的服従を命じられた。母親からは自慰行為を禁じられ、両睾丸を力いっぱい握ったり、性器に薬品を塗られたりしたこともあったという。
中3の時、意を決して学校に助けを求めるも、教師はみな「あの子の妄想だ」という母親の言葉を信じた。
「学校でも身体的・心理的ないじめを受け、性的な行為の強要もありました。安心できる居場所は、どこにもなかった。自分は、いつまで生きられるのだろうと思っていました」
親元を離れるも経済的支配に苦しむ
盲学校を卒業した後は、障害者雇用枠で一般就労。社員寮に入り、介護施設の職員として働き始めた。しかし、親元を離れても母親からの支配は続く。「お金を渡しても好きなものを買うだけだ」と言われ、銀行口座を管理されるように。達希さんが自由に使えたのは、帰省時の交通費程度だった。「給料だけでなく障害年金も管理され、5年間で750万円以上、搾取されました」
生活が変わるきっかけとなったのは、転職活動を始めたことだった。2022年夏、24歳になった達希さんは当時の交際相手との将来を考え、転職の相談をしにハローワークへ。
幼少期から親に支配される日常が当たり前だった達希さんはこの対話を通じて、自分たちの親子関係が一般的なものではないことに気づいたという。
「第三者から指摘をされたことで、初めて客観的に自分の状況を見つめ直せたんです」
「家庭の外にある選択肢」を知らなかった
「それまでは自分が利用できる支援制度や福祉サービスについて知る機会がほとんどなかったので、精神科の受診を機に、初めて家庭の外に選択肢があることを知りました。障害があると、どうしても生活面で両親への依存度が大きくなるので、自力で環境をリセットすることは本当に難しいです」
支援の手を借り、2023年1月、達希さんはグループホームへ入所。両親からの精神的・経済的な自立を目指し始めた。現在は週3日、就労継続支援B型事業所に通いつつ、SNSで自身の半生を発信している。
「はじめは自分の気持ちや日々の出来事を書き留めていましたが、今は自分の経験を構造的に整理して発信しています。自分の経験を社会に知ってもらいたい。そして、同じような苦しさを抱える人に『ひとりじゃない』『支援と繋がる方法がある』と伝えたいんです」
絶縁されても両親を憎み切れないワケ
達希さんが抱える虐待の後遺症は深刻だ。長年続く抑うつ状態から「気分変調症」と診断されており、日常のふとした瞬間にフラッシュバックに襲われることも。しかし、加害者である両親に対する想いは複雑だ。達希さんは、どうしても両親を憎み切れない。
「両親に対する気持ちは、言葉にするのが難しい。憎むことも恨むことも許すことも簡単にはできません。本当に苦しかったけれど、育ててもらった事実もある。色んな感情が複雑に絡み合っています」
父親からは「2度と帰ってくるな」と絶縁を言い渡され、母からは「家族を捨てた裏切り者」と罵られた。それでもなお、両親を嫌いになり切れない達希さん。彼の気持ちを知ると、親という存在が子どもに与える影響の大きさを思い知らされる。
少しずつ自分の人生を取り戻している達希さんは今、自身の生い立ちや障害も丸ごと受け入れてくれる彼女と支え合いながら自立への道を歩んでいる。
「支え合える存在がいることは、大きな心の支えになっています。これまでの人生には苦しい出来事が数多くありましたが、大切な人と過ごしたり、趣味の詩を書いたりしていると、日常の中にも小さな光はたしかに存在しているんだなと思えます」
25年間も親の支配下に置かれた達希さん。
<取材・文/古川諭香>
【古川諭香】
フリーライター。生まれつき心臓病で脾臓がない。得意な執筆ジャンルは生きづらさ、障害、猫。おキャット様と快適に暮らせる家を建てたほど、私生活では猫の下僕。X:@yunc24291
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