―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

コンビ名は、野球用語でバントの構えからバットを引き、投球を見送る動作を意味する。その名のとおり、エバースの漫才は絶妙な“すかし”で笑いを生む。
ブレイク後も、そのスタイルは変わらない。2人は何を「すかし」、何を決して「見逃さない」のか。その答えは、漫才との向き合い方そのものにあった――
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勝ち続ける漫才には理由がある

 優勝、優勝、また優勝――。近年、賞レースを総なめにしてきたお笑いコンビ、エバースの佐々木隆史と町田和樹。今年は(※1)『上方漫才協会大賞』で“東京勢初”となる大賞を獲得。漫才の本場すら凌駕する喋りを持ち、“国民的芸人”になる寸前の2人が、エッジの利いた現代お笑い論を語った。

――昨年の(※2)『ABCお笑いグランプリ』もそうですが、関西のコンクールでトップになるのは特別な感情が湧くものですか?

佐々木:今は関西がそこまでアウェーって感じもしないというか。特に最近の『ABC』は、東京の芸人のほうが多く決勝に進出してたりするので、若手の全国大会という感覚のほうが強いですね。’24年の(※3)『NHK新人お笑い大賞』で初めて大賞を取るまでは、自分が優勝できる芸人人生だとは思っていなかったので、単純にうれしかったです。

町田:僕も同世代の中で一番になりたいと思って『ABC』に出ていました。関西の賞レースではありますけど、デビュー10年目以内ならネタのジャンルも人数も関係なく、面白ければ勝てる大会。そのラストイヤーで優勝できたのは、本当にうれしかったですね。

佐々木:10年ぐらい前までは、東京でウケていたニューヨークさんが『ABC』決勝で散々な目に遭う、みたいなこともあったらしいですけど(苦笑)。
でも最近は大阪の芸人さんも東京でライブをやる機会が増えていて、一緒になることも多い。芸人もコンクールも、東西の壁はほとんどないんじゃないですかね。

「リスペクトがないな」と感じた仕事は断る

――’24年、’25年と2年連続で『M-1グランプリ』決勝に進出し、昨年からテレビへの露出も一気に増えました。知名度が上がった実感はありますか?

町田:決勝に行く前は、劇場の周りでしか声をかけられなかったですからね。それが去年から大阪のおばちゃんとかにも「見てるよ」「頑張って」って言ってもらえるようになって、本当にうれしいです。

佐々木:すごいことですよね。テレビで見ていた芸能人が自分たちを認識してるなんて、普通はあり得ないじゃないですか。でも今はテレビ局で声をかけられても、当たり前みたいに対応してる自分がいる。「もう慣れちゃってない?」って。

町田:多少はありますね。

佐々木:そういうのは良くないなと思います。もう少し緊張感を持とうと思います。

「芸人へのリスペクトがない仕事は断る」M-1決勝常連・エバースが明かすブレイク後の本音
エッジな人々
――直近では、マクドナルドのCMにも出演しました。
最初は町田さんだけでしたが、2回目はコンビでの出演でした。

佐々木:まぁ、本来は僕を使いたかったけど、一旦町田で様子見したんだろうなって(笑)。

町田:様子見って何だよ(笑)。どこでそう感じたんだよ。

佐々木:“あのちゃん”とも共演したんですけど、町田はパーソナルスペースがバグってるから、あのちゃんに顔を近づけすぎて引かれてましたね。

町田:まぁ、バグったもん勝ちなところもありますから(笑)。あのちゃんは本当にかわいくて、久しぶりにドキドキしました。

――バラエティだけでなく、劇場や地方営業など多忙だと思います。ネタはどこで考えているんですか?

佐々木:移動中とか、本当に隙間時間ですね。劇場の出番まで2時間くらい空くこともあるので、その時にカフェで作ったりします。昔より考える時間は減りましたけど、舞台数が増えた分、本番のアドリブから生まれたくだりをそのままネタに入れることもあるので、一長一短ですね。あと、何より重要なのは、町田がやる気を失わないようにケアすることですね。


町田:え、俺マネジメントされてるって感覚ないんだけど。

佐々木:俺がイジって、町田が何か返してきたら、めっちゃ笑うとかさ。

町田:なんか気を使われてんのか、俺は。

佐々木:いやいや(笑)、イジって返してきたら無視するって意味わかんないじゃん。

町田:ああ、そういうこと?(笑)腫れ物に触る、みたいなイメージだったわ。

佐々木:こんなふうにヘソを曲げないように気をつけてます。

「芸人へのリスペクトがない仕事は断る」M-1決勝常連・エバースが明かすブレイク後の本音
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――さまざまな仕事をされていますが、「これだけはやらない」というものはありますか?

町田:僕は「お笑いについて語る」みたいな仕事は受けないですね。やらないというより、単純にそういう話ができないので。ほかは特にNGはないです。

佐々木:具体的にはないですけど、内容を聞いて「芸人へのリスペクトがないな」と感じたものは断りますね。面白いイメージも湧かないし、「お任せでお願いします」はカロリーも高いので、ちょっとしんどいです。

――霜降り明星のようにテレビやラジオ、YouTubeなど幅広いメディアで活躍したいという思いはありますか?

町田:せいやさんがドラマ『102回目のプロポーズ』(フジテレビ系)で主演を務める中、粗品さんも(※4)『ツッコミスター』(同)を作ったり、どちらも活躍がすごいですよね。
けれど、今の僕らがあんなふうになれるとは到底思えないんで(苦笑)。

佐々木:確かに(苦笑)。最近はYouTube((※5)『エバースチャンネル』)も動かしてないから、今コンビでやってるのってラジオとポッドキャストくらいなんですよ。しかも、3本のうち(※6)『エバースのモンキー125㏄』(stand.fm)は全然更新してないし。

町田:ラジオ自体は楽しいですけどね。番組で喋ったことがテレビで使えるエピソードになることもありますし。僕ら楽屋でめっちゃ喋るわけじゃないから、週1回くらいラジオで喋る時間があればいい気はします。

佐々木:ただ、ラジオって結構好きなタレントさんの番組じゃないと聴かないじゃないですか。そこを広げる意味では、霜降りさんやさらば(さらば青春の光)さんみたいにYouTubeでも動いたほうがいいと思うんですけど、忙しいのにかまけてサボっちゃってますね(苦笑)。僕ら2人ともアクティブって感じではないんですけど、ネタと同じで“他の誰とも被らないコンビ”にはなりたいんです。「先を見越して」というよりは、目の前のことをやる中でそうなっていけたらいいなと思ってます。

ネタは、風呂に水を入れる感覚で作る

――若手時代も含めて「あの時はスルーしたけど、今になって大事」と感じることってありますか?

佐々木:ネタも含めて、アドバイスされたら基本的には一旦試すほうなので、「さすがにそれはないだろう」と思った時以外は受け入れてると思います。


町田:僕は小学生の頃から、基本的にスルーをよくするタイプの人間です(笑)。友達が野球選手のものまねをして、自分がそれを知らなくても「似てるわ~!」とか言ってずっとやり過ごしてきたというか。

佐々木:会話を止めちゃうと思うと聞けなくなるみたいな?

町田:そうそう。後で調べればいいんだけど、それさえ忘れて「何だっけ?」ってなっちゃう。あと、番組で誰かに話を振られても「自分がどう動けば面白くなるか」の判断ができない。

佐々木:スルーというか、彼はそもそも気づいてない時も多々ありますね。誰がどう見ても町田に振ってるのに、自分のことだと思わず無視してたりとか。

町田:さすがに僕だけ前に出て注目されていれば気づくんですけど、皆で喋ってると感知できないんですよ。たぶん、そこはずっと直らないと思います(笑)。

――逆に佐々木さんは「どうしてもできずに投げ出してしまったこと」ってありますか?

佐々木:それで言うと、野球ですね。スポーツ推薦で大学まで行きましたけど、大人になるにつれて「選ばれし人間じゃないんだ」という思いが強くなって挫折したので。あと、大学卒業後に同級生たちが「就職」「結婚」「子供ができた」みたいな階段を上がる中で、ずっと自分だけアルバイトをしながら芸人を続けている時は“背水の陣”って感じでした。
「これで引き下がったら死ぬ」みたいな。その後、『M-1』で結果が出るようになって、ようやく自尊心を取り戻した感じです。

「芸人へのリスペクトがない仕事は断る」M-1決勝常連・エバースが明かすブレイク後の本音
エバース (写真左から)佐々木隆史さんと町田和樹さん
――その『M-1』ですが、今年も準備は進んでいますか?

佐々木:去年、町田が(※7)腹話術のネタを選んでくれたおかげで、まだやってないネタがあるんですよ。改良したら戦えそうなので一応候補として想定はしています。町田がそこまで考えてたとしたらすごい策士ですよ。

町田:いやいや、去年も優勝する気満々だったって(笑)。王者になれば、来年は出なくて済むぐらいに思ってたし。

佐々木:まぁけど、もし粗削りなネタのままやってたら、たくろうさんに勝てないうえに二度とやれなかった可能性もありますから。あのネタをもう1年叩けるって意味では、町田に感謝ですね。

――昨年は町田さんにファイナルステージの出番順とネタ選びを委ねていましたが、今年同じ状況になっても方針は変えず?

佐々木:そうですね、僕らは困ったら町田なので。出番順を決めるくじ引きとかも絶対こいつに引かせますし。

町田:引かせるって何だよ(笑)。どっちかが引くってだけの話ですよね?

佐々木:責任を負いたくないんですよ。「トップバッターになったのはお前のせいだぞ!」って言えなくなるから。

町田:今年ファイナルに行けたとしたら、トップも面白いと思うけどな(笑)。

佐々木:さすがに今年は町田に委ねないかも(笑)。まずは決勝に行けるように頑張ります。

――何度も決勝に進むと、持ちネタが消費されてしまう不安はないですか?

佐々木:毎年単独ライブ用の新ネタを作るんですけど、一昨年と去年で手応えのあったネタをまだ『M-1』でやってないんですよ。だから、「あのネタもこのネタも、『M-1』でできたらうれしい!」みたいな気持ちのほうが強いというか。例えるなら、栓を抜いたお風呂にずっと水を入れてる感覚。ひたすら出して、落ちていかなかったものをストックする感じです。その循環がなくなったら、一気に枯渇すると思います(笑)。

【Evers】
NSC東京校21期生の佐々木隆史と町田和樹(共に1992年生まれ)が結成し、’16年4月にデビュー。’24年の『NHK新人お笑い大賞』で初タイトルを獲得し、同年と’25年に『M-1グランプリ』決勝進出。佐々木の詭弁に町田が翻弄され、日常から飛躍する漫才が特徴

(※1)『上方漫才協会大賞』
’16年より開催の上方漫才協会と吉本興業が主催する演芸コンクール。エバースは第11回で大賞を受賞。NSC東京校出身で、東京を拠点に活動してきたコンビとしては初の快挙となる

(※2)『ABCお笑いグランプリ』
ABCテレビが主催する若手芸人の登竜門として知られるお笑いコンクール。エバースは、ファーストステージで審査員全員から1位評価を受けての優勝。’21年優勝のオズワルド以来2度目の偉業を達成した

(※3)『NHK新人お笑い大賞』
前身の『NHK漫才コンクール』から半世紀以上続く若手芸人を対象とする演芸コンクール。町田は大賞受賞時、「この前に賞をもらったのは、スイミングスクールの皆勤賞だった。あれ以来に取れたのでうれしい」と喜びを爆発させた

(※4)『ツッコミスター』
粗品自らが出場者の選定やお題を考案し、全ての審査を一人で担う、’26年5月にフジテレビ系列で放送された特番および大会。町田はAブロックで出場、予選敗退となった

(※5)『エバースチャンネル』
’21年に開設したエバースのYouTubeチャンネル。漫才の動画はいずれも数百万回再生を記録。漫才コンビとしての人気が窺える。6月30日時点の登録者数は25.6万人

(※6)『エバースのモンキー125㏄』
’21年にstand.fmで配信を開始したラジオ番組。’24年より『エバースの野茂ラヂ雄』(Artistspoken)と『GURU GURU!』(J-WAVE)を並行して更新していたが、今年に入りペースダウン

(※7)腹話術のネタ
『M-1グランプリ2025』のファイナルステージで、町田が寄り目で口をパクパクさせながら腹話術人形を演じたネタ。町田は緊張のあまり噛んでトラウマに

取材・文/鈴木旭 撮影/長谷川唯

―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

【鈴木 旭】
フリーランスの編集/ライター。元バンドマン、放送作家くずれ。エンタメ全般が好き。特にお笑い芸人をリスペクトしている。個人サイト「不滅のライティング・ブルース」更新中
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