物価高で、100円ショップの業界では「脱・100円」が進んでいます。300円、500円と、100円より高い商品を増やす会社が相次ぐなかで、大手でただ1社、いまもほぼすべての商品を100円均一のまま売り続けているお店があります。
市場は1兆円超え。それでも「100円」は苦しい
帝国データバンクの調べによると、2025年度の国内の100円ショップ市場は、大手4社を中心に約1兆1100億円。3年連続で1兆円を超えました。最大手のダイソーを展開する大創産業は、2026年2月までの1年間の売上高が7710億円と、15年連続で過去最高を更新しています。物価高で節約志向が強まるなか、100円ショップはむしろ伸びているのです。
ただし、その中身を見ると、成長を支えているのは「脱・100円」です。原材料やエネルギーの価格が上がり、100円のままでは扱えない商品が増えたため、各社は150円、300円、500円といった価格帯を広げてきました。100円ショップと、300円ショップの3COINSや無印良品のような「プチプラ」雑貨との境目は、どんどん曖昧になっています。
大手でただ1社、ほぼ全品100円のセリア
そのなかで、セリアだけが、いまもほぼすべての商品を100円均一のまま売り続けています。
セリアのお店では、どんなにおしゃれで高そうに見える商品でも、レジに持っていけば必ず100円。この「全部100円」という安心感が、独特の心地よさを生んでいます。他のお店では「これは100円かな、それとも300円かな」と、いちいち値札を確認する必要がありますが、セリアにはその小さな負担がありません。手に取ったものを、迷わず買える。この気楽さが、根強いファンをつくっています。
ちなみに「セリア」という社名は、イタリア語で「真面目な」という意味です。日常を彩るものとの出会いを、とことん真面目に追い求める。その真面目な姿勢が、お店づくりにもそのまま表れています。
「100円の商売にシステムは割に合わない」という常識を破った
セリアが100円を守れる理由の1つ目は、データです。
かつて100円ショップの業界では、「商品が100円と安いのだから、高価なシステムに投資しても元が取れない」というのが常識でした。セリアはその常識に挑み、2004年、インターネットを使った販売管理の仕組みを全国の直営店に導入します。どのお店で、どの商品が、いつ、いくつ売れたのか。コンビニでは当たり前だった一品ごとの販売データの管理を、「1品100円の商売」で本気でやり始めたのです。
いまでは、そのデータをAIと組み合わせて、お店ごとの発注を自動で提案する仕組みまで動いています。1回あたり30分、40分とかかっていた発注作業は、最大で9割減ったそうです。さらに販売データはメーカーとも共有され、売れているものを、ちょうどいい量だけつくる体制ができています。
他社が100円から離れるほど、セリアは強くなる
理由の2つ目は、「残存者利益」です。最後まで生き残った者だけが得られる利益、という意味の経営の言葉です。
他社がみんな「脱・100円」で高い価格帯へ移っていくと、「純粋に100円で、安心して買い物がしたい」というお客さんが、市場に取り残されます。そのお客さんは、ぜんぶセリアに集まってくる。つまり、競争相手が自分から手放していった市場を、独り占めできるわけです。
セリアの河合映治社長は、もともと銀行で企業を数字で見極める審査の仕事をしていた人物で、この「残存者利益」という言葉をはっきり使っています。「100円で利益が出ない商品は、そもそも売らない」とも言い切っていて、ビニール傘のような定番商品でも、割に合わなくなれば思い切ってやめてしまう。100円を守っているのではなく、100円で勝てる形に、会社ぜんぶを合わせているのです。
約9人のチームが、月500~700点を入れ替える
興味深いのは、セリアの代名詞である「高見えする」おしゃれな商品を、ごく少人数で生み出していると報じられていることです。少し前になりますが、2024年11月のテレビの取材によれば、当時、商品を企画する部署はわずか9人ほど。それで毎月500点から700点もの商品を入れ替えています。
なぜ可能なのか。セリアの社員がゼロからすべてを設計しているのではなく、多くのメーカーと直接取引し、販売データを共有しながら共同開発する体制をとっているからです。売れ筋のデータをにらみながら、メーカーからの提案を選び、商品化までともに磨き上げていく。プラスチックメーカーの山田化学と組んだ1個110円の精巧なミニチュアシリーズは、フィギュアや「推しぬい」の撮影を楽しむ人たちの心をつかみ、月に50万個を超えるヒットになりました。
売れなくなったら、さっと引っ込めて、次を出す。この回転の速さも、データの裏付けがあってこそです。
「100円を守る」は忍耐ではなく、戦略である
こうして見ると、セリアの100円は、無理を重ねて守っているものではないことがわかります。データへの投資、残存者利益の見極め、メーカーとの共同開発。「100円」というたったひとつの制約に、会社の力をぜんぶ集中させた結果なのです。
値上げの時代には、「値上げしないこと」そのものが、強力な差別化になります。みんなが同じ方向に動くときこそ、あえて動かない選択に価値が生まれる。セリアの棚に並ぶ100円の雑貨には、そんな資本主義の逆張りの知恵が詰まっています。
<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本読むビジネス系VTuberのリサーチャーであるコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。
(TBSラジオ『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』より抜粋)

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