今夏移籍市場でのプレミアリーグクラブの選手獲得総額は、なんと34億6530万ポンド(約7399億円)にも及んだようだ。W杯後のシーズンには移籍が活発になるのが常だが、ついに過去最高額を更新した。
26-27シーズンのプレミアリーグを俯瞰するうえで、まずはこのような莫大な金額が費やされ、選手たちの移動が多くあったことを認識する必要がある。
 
新たに就任した監督も9人と、こちらも歴代最多を更新している。つまり、今季のプレミアリーグは1つのフェーズの始まりであると位置付けることができる。
 
新たな選手と、新たな監督。多くのクラブが再構築の途上となるなか、W杯終了からわずか1カ月あまりで慌ただしくスタートした新シーズンは、ファンに何を見せてくれるだろうか。このテキストを執筆している時点ではまだ3節が終わっただけだが、急速に形を固めつつあるチームやサプライズを見せる昇格組もおり、今季もプレミアは波乱含みであるという予感が漂っている。

優勝筆頭候補はアーセナル 流動性増し圧倒的な強さ

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3節チェルシー戦で決勝ゴールを決めるアーセナル主将ウーデゴー。今季のアーセナルは連携の練度が段違い Photo/GettyImages

英メディアがこぞって優勝候補に挙げるのが、昨季王者アーセナルだ。今季は多くのクラブで主力の入れ替えや指揮官の交代が起こったが、アーセナルだけはそうではない。MFブルーノ・ギマランイスやDFエズリ・コンサの獲得は純粋な「戦力の積み増し」であり、スカッドの入れ替えが起こったのはウインガー2人を放出し、新たにFWクリストス・ツォリスを獲得した左アタッカーのみ。指揮官ミケル・アルテタは、プレミアリーグ優勝経験を持つ唯一の監督となっている。
 
やりすぎではないかと思えるほどの分厚いスカッドとなったが、コンサには2節アストン・ヴィラ戦でDFクリスティアン・モスケラの負傷交代という形でさっそく出番が回ってきた。今のところ素晴らしいパフォーマンスを披露していて、負傷離脱中のDFウィリアム・サリバの穴をまったく感じさせない。

アルテタ監督は「我々のプレイスタイルで4つの大会すべてを戦うには、選手層が非常に厚くなければならないことはわかっていた」と語っており、プレミアリーグだけでなく、CLも含めた4つのコンペティションをすべて取りにいくつもりであるようだ。
 
昨季と明らかに違うのが、チームの流動性の高さだ。昨季は攻撃面で手詰まりになることがあり、セットプレイに頼って勝ち点をもぎ取った試合がいくつかあった。しかし今季は選手たちが柔軟に立ち位置を入れ替えながら戦っており、様相が違う。FWカイ・ハヴァーツはボールをもらいに降りてきたり、サイドに流れることで他の選手のためのスペースを空ける。左のツォリスと右のFWブカヨ・サカは頻繁にサイドを交代する。DFリッカルド・カラフィオーリはMF化するだけでなく、積極的にラインブレイクにチャレンジして危険なアタッカーにも変貌する。そして絶好調のMFマルティン・ウーデゴーがそれらを操る。結果、コミュニティ・シールドとCLナポリ戦を含めた今季10ゴールすべてがオープンプレイから生まれたものとなっている。3節チェルシー戦はスコアこそ2-1と僅差だったが、チームの練度・連動性の高さに差があることは誰の目にも明らかだった。
 
不安材料がないわけではない。巨大なスカッドは、裏を返せば試合に出られない選手が何人もいることを意味する。
ナポリ戦でアルテタ監督はスタメン4人を入れ替えたが、それでもギマランイス、MFマルティン・スビメンディ、FWノニ・マドゥエケといった他のクラブでは一線級であろう選手たちが未だにスタメン出場できていない。昨季チーム得点王のFWヴィクトル・ギェケレシュも出場機会が少ない。DFユリエン・ティンバーもほどなくして戻ってくると思われ、ここにサリバが復帰したときにどうなるのか。選手たちの不満やコンディションを鑑みて、これまでになく繊細なマネジメントがアルテタ監督には求められることになる。連覇の可能性が高いことは間違いないが、放出したFWガブリエウ・マルティネッリの扱いに一部選手たちが反感を示したとの報道もあり、マネジメント1つでチームが崩壊する危険性も孕んでいるといえそうだ。
 

強豪3クラブは構築途上 監督交代は吉と出るか

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短髪となったハーランドは、今季もリーグ得点王の座を争うはずだ Photo/GettyImages

アーセナルの連覇を阻みたいマンチェスター・シティ、チェルシー・リヴァプールは、すべて今夏に新監督を迎えた。いずれも構築の途上にあり、現状でチームの練度はアーセナルには及ばない。エンツォ・マレスカをペップ・グアルディオラの後任としたシティは、MFロドリ、MFベルナルド・シウバといったペップ体制で中核となった選手たちを放出。新たにMFエリオット・アンダーソン、MFエンソ・フェルナンデス、MFアイユーブ・ブアディを獲得し、中盤はまるっと入れ替わったと言っていい。他にもFWイリマン・エンディアイェなどを獲得しており、獲得総額は実に4億5800万ポンド。エンソの移籍金はプレミア歴代最高額となった。
 
マレスカ監督は最適解を見出すために、開幕から試行錯誤を続けている。アンダーソンは当初、少し高めの位置で使われていたが、現在はやや低めの位置でプレイさせることで視野と配球能力が活かされるようになってきている。

2節クリスタル・パレス戦では、DFマーク・グエイを中盤起用するという奇策も披露。これも功を奏した。加入間もないエンソはDFニコ・オライリーのアップ中の負傷を受けて3節コヴェントリー戦で急遽先発したが、タイミングの良いボックス内への侵入など“らしさ”を見せていた。しかしペップ時代ほどの連動性にはまだ及ばず、攻撃が手詰まりになるところも散見される。ブアディもまだ試運転といった感じで出場時間は多くなく、マレスカ監督はエンディアイェについても「まだ動き方がわかっていない」と発言していた。
 
しかし、それでもFWアーリング・ハーランドの決定力、MFラヤン・チェルキのアイデアで得点できてしまうところがシティの強さだ。3節を終えて、順位表ではアーセナルを得点数でわずかに凌いでトップ。今季もやはりアーセナルの最大の障害はシティになると考えられる。
 
シャビ・アロンソを指揮官に迎えたチェルシーは、MFコール・パーマー、FWジョアン・ペドロ、そして今夏加入のMFモーガン・ロジャーズからなる攻撃ユニット、通称「J.P.Morgan」が猛威を振るっている。3節までの得点数8はブライトンと並んで最多。しかし失点も7と多く、不安定な印象も同時に抱かせる。
 
3節のアーセナルとのロンドンダービーでは開始2分たらずでロジャーズが先制ゴールを挙げたが、その後はアーセナルの攻撃を抑えきれずに敗北した。
エンソをシティに引き抜かれたうえ、MFモイセス・カイセドが負傷離脱したこともあり、アーセナル戦では中盤を支配された。
 
DFリース・ジェイムズ、MFロメオ・ラヴィアの能力は折り紙つきだが、負傷歴が気になる選手たちだ。アーセナル戦はDFマロ・グストを中盤にコンバートして使う場面もあり、現状では不安が大きい。また、DFマクサンス・ラクロワも加入間もなく、連携はこれからといったところ。GKにエミリアーノ・マルティネスというプレミア屈指の実力者を獲れたのは大きいが、アロンソ監督の特徴的な3バックシステムが浸透するには今しばらくの時間が必要だ。
 
リヴァプールは開幕3戦で1勝2分となっており、スタートダッシュにはやや失敗してしまった。アルネ・スロットに代わり、新たに指揮をとるのは昨季までボーンマスを率いたアンドニ・イラオラ。今夏はDFジェレミー・ジャケ、FWビクトル・ムニョス、そして1億ポンドを超える移籍金を投じてパリ・サンジェルマンからFWブラッドリー・バルコラなどを獲得した。
 
鍵となるのはボーンマスで猛威を振るったプレッシング戦術だが、中盤の強度不足を露呈する場面もあった。2節ノッティンガム・フォレスト戦ではMFドミニク・ショボスライ、MFアレクシス・マクアリスター、MFフロリアン・ヴィルツが中盤の三角形を形成したが、ボール奪取は貧弱な印象があり、保持の場面では逆に何度もボールを奪われてカウンターを喰らうなど物足りなさを感じさせた。クラブレジェンドであるスティーブン・ジェラード氏は「闘争心が欠けている」と後輩たちを叱責した。
 
しかし3節イプスウィッチ戦では中盤の運動量も上がり、バルコラとFWコーディ・ガクポがサイドで躍動。
これに合わせてFWアレクサンデル・イサクもパフォーマンスを上げて、2ゴールを挙げている。チームは急速に形を成しつつあるように映った。イラオラ監督は若手の起用にも積極性を見せており、先が楽しみなチームであることは間違いない。

ユナイテッドは昇格組に敗戦 トッテナムは最悪のスタートに

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2年目のキャリックは真価が試されるシーズンとなる Photo/GettyImages

マンチェスター・ユナイテッドとトッテナムはどちらも昨季途中就任の指揮官のもとで戦うことになり、やはり成熟途上であることは否めない。ユナイテッドは補強ポイントとされていた中盤にMFユーリ・ティーレマンス、MFアンドレイ・サントス、そして昨季からのターゲットだったMFカルロス・バレバをついにブライトンから引き抜き、編成を刷新した。
 
MFコビー・メイヌーやティーレマンス、バルセロナから帰ってきたFWマーカス・ラッシュフォードはコンディションが良さそうだ。しかし開幕戦では躓き、昇格組のハル・シティに2-0と敗北を喫して厳しいスタートとなってしまった。続くイプスウィッチ戦では5-2と大量得点で勝利したものの、3節エヴァートン戦は終了間際にMFエインズリー・メイトランド・ナイルズの強烈なミドルシュートを被弾して2-2となり、勝ち点を取りこぼしてしまった。この3クラブと対戦して1勝1分1敗は、満足できる戦績ではないだろう。
 
昨季就任後、大きく成績を上向かせたマイケル・キャリック監督だが、今季はCLを並行して戦わねばならない。しかし期待のバレバは足首を負傷してしまい、デビューはお預け。左SBもニューカッスルのDFルイス・ホールなどを狙ったが、結局獲得は叶わず、選手層にはやや不安がある。

攻撃面もチェルシーやシティのように決定的なゴールを決めてくれる選手がおらず、キャリック監督にはチームとしての「型」を早急に見出すことが求められる。
 
昨季終盤にロベルト・デ・ゼルビ監督を迎えたトッテナムは今夏、3億2200万ポンドを投じて大型補強を敢行した。1億ポンドで獲得したMFサンドロ・トナーリほか、FWオマル・マルムシュ、FWサヴィーニョ、MFマテウス・フェルナンデスなどを加えたが、どうにも結果が出ていない。開幕3戦で1分2敗、無得点と最悪といえるスタートとなってしまった。
 
新加入選手が多いチームは連携に乏しく、スタメンは手探り状態。開幕からスタメンをすべて変えているが、最適解が見つかるにはまだまだ時間がかかりそうな様子で、大型補強も「期待外れ」と現地メディアは手厳しい。デ・ゼルビ監督はFWマティス・テルを名指しで批判するなど、雰囲気もどうもよろしくない。
 
デ・ゼルビ監督は明確なビルドアップの「型」を持っている指揮官で、ポケット侵入までは行けているのだが、そこからのクロスやシュートが精度を欠いている。3節フォレスト戦は無得点に加え、枠内シュート0に終わっている。2年連続の17位という屈辱を払拭するための大型補強だったはずだが、今季も3節を終えて同じ17位と、かなりまずい立ち上がりとなってしまったトッテナム。デ・ゼルビ監督には、今季の解任第一号となりそうな気配まで漂いはじめてしまった。
 
このようにアーセナル以外の「BIG6」が軒並み不安を抱えるスタートとなったが、その分存在感を見せ始めたチームもある。MF守田英正所属の昇格組ハルは開幕戦でユナイテッドを破ると、続くコヴェントリー戦も勝利。未だに失点0はハルだけであり、まだ3節とはいえ3位は驚きだ。今夏主力を次々と抜かれたニューカッスルは降格も心配されたが、蓋を開けてみればマティアス・ヤイスレ新監督のもと活力あふれるサッカーで健闘しており、6位につけている。アストン・ヴィラは開幕から1分2敗と降格圏に沈んでいるが、新たな守護神として獲得されたGK鈴木彩艶が得意のロングフィードと反応の良いセービングで出色のパフォーマンスを見せており、早くもウナイ・エメリ監督とファンの心をつかんだ様子だ。
 
序盤は王者アーセナルにばかり追い風が吹いているように見えるが、プレミアリーグがアーセナル連覇で簡単に終わるはずがない。新たなフェーズを迎えたクラブたちが成熟していけば力関係は確実に変わってくるはずで、ここから何が起こっても不思議ではない。
 
 
文/前田亮
 
 
※電子マガジンtheWORLD324号、9月15日配信の記事より転載

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