トランプ訪中から約1カ月のタイミングで、米国防総省が「中国軍事企業」リストを更新しました。新たにアリババ、BYD、百度といった中国を代表する企業もリストに名を連ねたことに波紋が広がっています。
米国防総省が「中国軍関連企業」を更新
5月中旬にトランプ大統領が中国を国賓待遇で訪問し、そこに米国を代表する各界の大手企業トップを同行させることで、首脳レベル、経済・ビジネスレベルで関係の改善と前進を試みた米国と中国。あれから1カ月がたとうとしているタイミングで、新たな動きがありました。
米国防総省は6月8日、中国人民解放軍を支援していると見なす「中国軍事企業」(Chinese Military Companies)のリストを更新し、リスト中の企業を2025年初時点の130社から188社に拡大しました。
このリストは2021年に米議会の命令によって作成されました。米国は、中国が「軍民融合」の観点から、民間企業の技術を軍の近代化に活用しているとみています。その意味で、国防総省が中国人民解放軍とつながりがあると見なす中国企業を特定することを目的としています。
実際、国防総省は昨年リストを更新した際、解放軍が「民間企業のように見える」中国の企業、大学、研究プログラムによって開発された高度な技術や専門知識の獲得を狙っている、と指摘していました。
このリストに掲載された中国企業が直ちに米国政府による制裁を受けるわけではありませんが、米国防総省との新規取引が制限、あるいは実質的に禁止される対象になります。
米下院の「中国共産党に関する特別委員会」は、米国の証券取引所に上場している中国のリスト掲載企業は上場廃止にされるべきであり、米国のいかなる企業もリスト掲載企業と取引すべきではないと主張しています。「さもなければ、それらの企業は中国の軍事的な台頭を可能にしてしまう」というのが主張の根拠とされています。
「ブラックリスト」入りした中国企業はどこか?
ここからは、今回新たに 「ブラックリスト」入りした企業 の内訳を見ていきましょう。
まずすぐに目につくのが、ネット通販最大手で、近年AIにも力を入れているアリババ・グループ・ホールディング、電気自動車大手・比亜迪(BYD)、ネット検索大手・百度などです。
これらの企業は同リストに掲載されて間もなく、米国側の措置に反対するコメントを発表しています。
例えば、アリババは「当社は中国の軍事関連企業ではなく、いかなる軍民融合戦略にも関与していない。当社のイメージをゆがめようとするいかなる行為に対しても、あらゆる法的措置を講じる」と断固とした姿勢で反対を表明しました。
百度も、「当社が軍事企業であるという主張は、全く根拠がない」と主張。リストに掲載された企業の立場や反論はおおむね似通っているといえるでしょう。要するに、「自社は軍事企業ではない。勝手に決めつけるな」というものです。
それ以外には、近年注目され、昨年2月の習近平総書記との民間企業座談会にも招待されたヒト型ロボット大手・宇樹科技(ユニツリー・ロボティクス)もリストに掲載されました。
同社は上海証券取引所におけるハイテク新興企業向け市場「科創板」での株式公開を目指しており、今年3月、すでに同取引所はユニツリーの株式の新規公開(IPO)申請を受理、6月初旬、申請から73日という異例の早さで上場審議を通過して現在に至ります。
中国政府は、ロボティクスやAIといった産業、関連企業を国家戦略の観点から台頭させようとしており、今後、これらの分野・企業間における米中の技術覇権争いはますます加熱していくのは必至と思われます。今回、米国防総省がこれらの企業をリストに掲載した背景には、軍事力にもつながる中国の技術力を抑え込みたいという思惑も作用していると思われます。
もう一つ、私が着目したのが半導体関連の企業です。半導体メモリーメーカー・長シン科技(CXMT)とフラッシュメモリー製造大手・長江存儲(YMTC)が新たにリストに追加されたことです。両社はともに近く上海証券取引所の「科創板」での上場を狙っているとされます。
この2社は、中国が半導体の分野で他国、他社を追随する上で鍵を握りますから、その動向は注視すべきですし、その意味で、今回、米国防総省がCXMTとYMTCを「ブラックリスト」に入れた経緯は重要でしょう。
トランプ訪中で「安定化」した米中関係はどこへ?
中国政府は米国防総省による「中国軍事企業」リストの更新と公表を批判しています。中国外交部の林剣(リン・ケン)報道官は6月9日の定例記者会見にて、次のようにコメントしました。
「中国は、米国による国家安全保障を巡る概念の過剰な汎用化、各種差別的リストの作成、そして中国企業に対する不当な抑圧に対して一貫して、断固反対してきた。我々は米国に対し、誤った慣行を是正し、中国企業に対する不当な抑圧を中止するよう強く求める。中国企業の正当で合法的な権益を断固として守るために必要な措置を講じる」
私から見て、このコメントの内容や批判のレベル自体は従来の域や程度を超えるものではなく、完全に想定内といえます。中国政府としても、米国がこのタイミングで「中国軍事企業」リストを更新、公表することは想定内だったと思います。
特筆すべきは、今年2月、米国防総省は、アリババや百度を含め、一度リストを更新し、一時的に掲載していましたが、説明もないまま撤回した経緯があります。当日は、トランプ大統領の訪中を控えていたこともあり、米国側が政治的判断をしたのだと思われます。
そして先月、イラン情勢が原因で一度は延期になったトランプ訪中が実現し、それから少し間を置いて、同じく「延期」になっていたリスト掲載を実行しました。
これは、非常に分かりやすい構図です。
私がこのような経緯からくみ取る示唆ですが、昨今、トランプ大統領と習近平国家主席は、その「個人的関係」を重視し、その一つの帰結として、先般のトランプ訪中、および9月下旬で調整されている習近平訪米といったアジェンダが組まれています。
両首脳が笑顔で向き合い、握手をして、それなりに相互に歩み寄る期間、およびその前後は、米中当局共に、相手国に対する批判や制裁措置には慎重になります。
ただ、それ以外の時期においては、従来通りの競争や攻防を繰り広げる。一方で、それらの競争や攻防が、対立や衝突、米中関係の決裂や破綻につながらないように、両首脳が定期的に会い、側近たちもハイレベル協議で支えるという構造にほかなりません。
米中関係の本質は競争であり、そこには経済、先端技術、ビジネス、軍事、および地政学なども含まれます。最も敏感な台湾問題の先行きも、米中がどう競争し、かつそれをどう管理するか次第で左右されるのでしょう。
大切なことは、競争を繰り広げながらも、両国が共存していくという点であり、先般のトランプ訪中で、この点は一定程度両首脳間で確認されたと私はみています。
その意味でいえば、今回の米国防総省による「中国軍事企業」リストの更新と公表は、(間に挟まれる企業は苦労すると思われますが)米中両政府にとっては、「想定内の攻防の一環」であるという理解が可能でしょう。これからも、この手のリスト掲載や制裁措置は、米中間で「日常茶飯事」として続いていくでしょう。
われわれもそれらの動きにあまり一喜一憂せず、アジャスト(適応)していく必要があると思います。
(加藤 嘉一)

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