米中ロシアが領土や海洋権益をめぐって強硬策を取る時代となりました。近い将来、宇宙権益をめぐって争うのは必至となるでしょう。
宇宙開発では米国が圧倒的に強く、中国が猛追しています。日本もH3ロケット打ち上げを成功させ、自前のロケット・人工衛星を持つ宇宙開発先進国の一つに食い込んでいます。日本の宇宙産業の成長に期待します。
軍事目的で、宇宙産業の重要性高まる
イラン戦争でのピンポイント攻撃に、宇宙からの観測データとAIが駆使されていることが分かっています。攻撃用ドローンの誘導や、戦闘地域での偵察でも、宇宙通信や偵察衛星が重要な役割を果たしています。近年、軍事目的での宇宙産業の重要性が極めて高くなったことを受け、米国、中国などが宇宙開発を加速させています。
今、宇宙開発では米国が圧倒的に強く、それを中国が猛追しています。日本は、米国、中国、欧州、ロシアを追う形で、宇宙開発の先進国の一つに食い込んでいます。
グラフの通り、日本の宇宙関係予算の規模は、米国などと比べてはるかに小さいのですが、それでも日本は自前のロケットを打ち上げ、自前の人工衛星を運営する宇宙開発先進国として、技術開発で高い成果をあげています。
<海外政府の宇宙関係予算>
日本では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)を中心とした宇宙開発に、民間企業が幅広く参画しています。先週、JAXAが大型で低コストのH3ロケット打ち上げを成功させ、日本の技術力の高さを改めて証明しました。今回の成功に加え、年度内あと6回、H3ロケットを打ち上げる計画です。
全て成功させれば、日本の宇宙開発に弾みをつけることとなります。
20世紀には、宇宙開発は国家主導で行われました。米ソ冷戦の最中に、国威発揚をかけて米国やソ連(現ロシア)が宇宙空間の有人飛行や月面探査を競い、達成しました。
今は民間企業が多数参入して宇宙産業ができあがっています。それでも中心的役割を果たしているのが国家であることに変わりありません。特に、軍需(防衛)目的での利用が大きなウエートを占めています。従って、防衛予算・宇宙開発予算の大きい国が、宇宙産業で主導権を握っていて、米国が宇宙ビジネスをリードしています。
私たちの生活を支える宇宙産業
宇宙産業は、軍事目的だけでなく平和利用でも欠かせないものです。私たちの生活に、宇宙産業の恩恵は幅広く浸透しています。例を挙げます。
【1】GPS(全地球測位システム)
スマホで電子地図を開いて歩く時、GPSをオンにすれば自分がどこにいるか地図上に表示され、とても便利です。これは、米国政府が運用しているGPS衛星の恩恵です。米国政府は地球から2万キロほど上空に「測位衛星(位置測定に使う人工衛星)」をたくさん打ち上げていて、世界中をカバーしています。
現状、無償で世界中の国々にGPSを使わせています。世界中どこでも、米国のGPS衛星のうち少なくとも三つから来る電波をとらえれば、地球上でどこにいるか2~3メートルの誤差で特定できます。
GPSは、インターネットがつながらない場所でも使えます。ただし、宇宙から計測するので、上空に障害物がないことが条件です。
GPSで他国に依存するのは安全保障上、問題なので、日本は自前の測位衛星「みちびき」(複数ある衛星ネットワークの総称)を打ち上げて運営を始めています。「みちびき」は今、米国のGPS衛星を補完する役割となっていますが、近い将来、日本は「みちびき」だけで測位が可能になるようにする計画です。
【2】天気予報
スマホで手軽にウェザーニューズ(4825)が提供する天気予報を利用できるようになりました。気象衛星「ひまわり」(複数ある衛星の総称)が撮影する画像データに加えて、地球上のさまざまな場所から得られる気象データを合わせて判断しているので、ピンポイントの予報精度が高まっています。
【3】テレビ放送(BS・CS放送など)
BS放送の電波は、放送衛星を経由して私たちに届きます。
世界的には、軍事目的での宇宙開発が先行していますが、日本は、さらなる平和利用での可能性を探ります。大規模農業や災害防止、ドローンの目視外飛行や自動運転の推進など、今後の我々の経済、社会活動において、通信、観測、測位などの宇宙システムの活用を広げていく計画です。
ロケット事業・衛星事業が、宇宙産業の二つの柱
宇宙産業の二つの柱は、ロケットおよび衛星事業です。主な役割は以下の通りです。
【1】ロケット事業:人工衛星を衛星軌道(地上400キロメートル以上)まで運ぶ。
【2】衛星事業:人工衛星を運営。観測・画像撮影、通信・放送、測位などを行う。
衛星事業は、さらに細かく分けると、以下三つに分類されます。
【A】静止軌道【注】(上空3万6,000キロメートル辺り)の大型衛星、あるいはさらに高軌道の大型衛星
【B】中軌道(上空2,000~3万6,000キロメートル)の衛星(大型が多い)
【C】低軌道(上空400~2,000キロメートル)の衛星(小型が多い)
【注】静止軌道
静止衛星が通る軌道。静止衛星は、地球の自転と同じ周期で公転するので、地上から見ると常に同じ位置に静止しているように見える。
ビジネスは高軌道・中軌道から始まり、近年は低軌道が中心となってきています。
以下、さらに詳しく説明します。
【A】静止軌道、さらに高軌道の大型衛星
1機で地球上の広範囲を観測できるメリットがあります。日本は気象衛星「ひまわり」(静止軌道を通る)、測位・通信などに使われる衛星「みちびき」(準天頂軌道を通る)を運営しています。
ただし、地球からの距離が遠いことによる欠点もあります。通信の遅延が大きい、観測の解像度が低い、測位の精度が低いなどの課題があります。例えば観測分野では、高軌道の大型衛星で解像度数百メートル級に対し、低軌道では解像度30cm級まで向上します。
【B】中軌道の大型衛星
米国政府が運営するGPS用の衛星があります。世界全体をカバーするため、中軌道に24機以上(バックアップまで含めると30機以上)が配置されています。
【C】低軌道の小型衛星
これからの宇宙ビジネスの中核を担うと期待されるのが、低軌道の小型衛星です。低軌道に通信衛星をおけば、通信遅延なく、地球中どこでも便利にインターネット接続が可能となります。すでに米企業によって「スターリンク」という衛星コンステレーションが構築され、日本でも利用可能となっています。
低軌道ならば、地上の極めて精密な画像が撮れます。軍事目的でも平和利用(スマート農業や防災など)でも、重要な役割を果たします。
これから、低軌道を生かした宇宙ビジネスが、日本でも広がっていくと考えられます。小型衛星の分野では、すでに複数のスタートアップが急成長していることに加え、IHI(7013)などの大手企業も参入しつつあります。
日本政府も、世界の潮流を踏まえ我が国が進めるべき技術開発のロードマップを示した「宇宙技術戦略」を策定しました。スタートアップなどの民間企業の宇宙技術開発を支援する「宇宙戦略基金」を立ち上げるなど、我が国として宇宙開発を支援する枠組みが整ってきました。
宇宙ステーションにも期待
有人の宇宙ステーションを活用したビジネス展開も広がる期待があります。米国(NASA)、ロシア(Roscosmos)、欧州宇宙機関(ESA)による国際宇宙ステーション(ISS)には、2000年11月以降、宇宙飛行士が常駐するようになっています。各国が協力して運用し、無重力空間での科学実験や地球観測を行います。
ポストISSを見据えた民間主導の宇宙ステーション開発が進んでいます。
近い将来、民間の宇宙ステーションが私たちの生活を支える重要基盤となる可能性もあります。
日本の宇宙開発企業
日本は少ない宇宙予算の中でも積極的に宇宙開発を進め、大きな成果をあげてきました。国際宇宙ステーション事業にも参画しています。
以下は、宇宙産業で活躍している代表企業です。
<日本の宇宙開発の中核企業:2026年6月15日時点> 証券
コード 企業名 業種 株価:円 配当
利回り PER:倍 PBR:倍 1株当たり
配当金:円 7011 三菱重工 機械 3,659.0 0.8% 32.4 4.0 29.0 7012 川崎重工 輸送用機器 2,905.5 1.4% 22.1 2.8 40.0 7013 IHI 機械 2,705.0 0.9% 17.4 4.4 23.0 6503 三菱電機 電機 5,858.0 1.0% 25.4 2.7 60.0 6701 NEC(日本電気) 電機 3,847.0 1.0% 17.9 2.3 40.0 9432 NTT 情報通信 146.6 3.7% 12.1 1.2 5.4 9412 スカパーJSAT 情報通信 3,220.0 1.5% 33.8 3.0 48.0 8058 三菱商事 総合商社 4,728.0 2.6% 15.7 1.8 125.0 8031 三井物産 総合商社 4,838.0 2.9% 14.9 1.6 140.0 出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成、配当利回りは2027年3月期1株当たり配当金(会社予想)を6月15日株価で割って算出
以下、簡単に解説します。
【1】造船重機3社(三菱重工、川崎重工、IHI)
この3社が日本のロケット打ち上げで中核的役割を果たしています。
三菱重工は、宇宙開発で国内最大手企業です。日本の主力基幹ロケット「H3」をJAXAと共同開発し、製造や打ち上げまで行っています。
川崎重工業はH3ロケットのフェアリング(大気圏通過時に先端部分を保護する重要部材)の開発・製造を行っているほか、人工衛星・宇宙ロボットなどさまざまな宇宙機器の研究開発を行っています。
IHIは、H3ロケットなどのエンジンの開発・製造を行うほか、さまざまな宇宙機器を開発・製造しています。低軌道の衛星コンステレーションを運用する事業では、英国企業2社と提携しました。
【2】電機2社(三菱電機、NEC)
この2社が、日本の人工衛星の開発・製造で中核的役割を果たしています。
三菱電機は、人工衛星システムの開発・製造を行っています。気象衛星「ひまわりシリーズ」、GPS補強衛星「みちびき」など開発・製造の実績があります。人工衛星に搭載される太陽電池パネル、アンテナ、通信中継器、バッテリーなどさまざまなコンポーネントの開発・製造でも高い技術力を有します。
また、衛星を打ち上げた後、その軌道制御、コマンド送信、データ受信などを行う地上管制システムの設計・構築・運用支援も行っています。さらに、宇宙から得られたデータを活用したソリューション開発にも注力しています。
NECも人工衛星の開発・製造を行っています。特に、小型・高性能の地球観測衛星に強みを有します。衛星をコントロールする地上システムの構築にも強みを持ちます。
【3】NTT
NTTは、宇宙システムを利用した通信ネットワークを構築して、地上のネットワークが届きにくい山間部・海上や、災害時の通信を提供する計画を進めています。
【4】総合商社(三菱商事、三井物産)
三菱商事は、地球観測衛星データの活用事業に投資・参画し、農業、インフラ監視、防災などでのソリューション開発を進めています。また、宇宙ゴミ除去やロケット打ち上げなどに取り組む宇宙企業や、宇宙関連スタートアップへの投資・育成を行っています。
三井物産は、衛星通信サービス事業者への投資や自社の通信衛星を活用して、ブロードバンド通信、IoT通信、船舶・航空機向け通信などのサービスに対応しています。また、衛星打ち上げ支援や、宇宙データ解析サービスを手掛けているほか、さまざまな宇宙開発事業に参画しています。
(窪田 真之)

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