「終活専門」の司法書士、福村雄一さんによる、終活事件簿と解決方法をひも解きます。今回は、「平等に遺そう」という親心が、残念ながらマーケット次第では反映されづらい現実を解説。
「平等な相続」のはずが、「不平等相続」に!どうすれば?
数年の闘病の末、父が亡くなりました。保有している金融商品の評価額が平等になるように、闘病期間中に遺言書を作成してくれていました。兄にはA銘柄とB銘柄、合計で500万円相当。真ん中の私はC銘柄とD銘柄で約500万円相当。弟もE銘柄とF銘柄で約500万円相当を残す、と、平等になるように銘柄を分けてくれていました。
ただ、いざ亡くなり、相続の段階になると、遺言書作成時とは株価が全く違っており、平等のはずが、真ん中の私に安定して株価が上昇中の優良銘柄が集中。兄が相続する銘柄の一つは倒産して価値0円に。弟の保有銘柄は上下落が激しく日々評価が変わる状態です。
父が遺言書を書いた時の株価は確かに平等だったため、誰も悪くありませんが、3人兄弟で微妙な雰囲気になっています。
この場合、再び平等になるように割り振りしなおすことなどは可能なのでしょうか? 母は早くに亡くなっているため、相続権があるのは私たち兄弟3人のみとなります。
株価は変動するもの!金融商品を相続する際に知っておきたいこと
金融商品の相続は、預貯金の相続と大きな違いがあります。それは、
[1]価格が変動するという点
[2]遺す側と受け取る側の、金融知識や経験に差があるという点
[3]受け取り方の希望にも大きな違いがある点
です。
金利が付くとはいえ、預貯金は金融商品のように日々価格が大きく上下動することはありません。
一方、金融商品は、日々価格が変動します。
NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で資産を運用している人も多いと思いますが、NISA口座自体の相続ができないことや、相続人が保有しているNISA口座へ商品を移管できないという点は、意外と知られていません。
銘柄をそのまま相続したほうが得なのか、銘柄を一括売却して現金化して相続したほうがいいのか。金融商品に関する知識と経験の有無によって、相続に影響が出てくることも多いです。また、受け取り方の希望も、相続する側の気持ちにバラつきがあります。投資に詳しくないから現金でもらいたいという声も多く聞かれます。
遺言書を作成する時に多い相談は、銘柄のまま残すのか、割合で残すのか、という相談です。
積極的に投資を行っている人は、優良銘柄をよく把握されており、「この銘柄は長女に、これは長男に…」などの希望を持っていることがあります。
ただ、亡くなる直前で遺言書を作成する場合は別として、すぐに相続が発生するわけではありませんから、将来もその銘柄を保有し続けるのか、利益を確定するタイミングがあるのか、といった点は注意点として伝えています。
銘柄を具体的に特定して記載しない場合は、証券口座を特定して遺言書に記載したり、相続人が共有することにならないように文言に注意したりしています。
最近あった依頼では、子どもの性格や経済状況を考慮して、預貯金と金融商品で分け方をハッキリして遺言書に記載した親御さんがいらっしゃいました。
親子別!今からできること!
[親目線]:どこの証券会社に何をいくら投資しているのか、IDやパスワードもセットで伝える!
親ができることは、証券口座と金融商品の内容、その取引形態が分かるようにしておくことです。パソコンや携帯、証券会社のIDやパスワードも、分かるようにしておきましょう。それが分からないと相続人は身動きが取れません。配当金の通知や、取引残高報告書をまとめて保管しておくとよいです。
もし、FXや信用取引を行っている場合は、そのことを子どもや相続人が分かるようにしておくことも大切です。大きな利益を生むこともあれば、逆に大きな損失を生じさせることもあります。相続放棄の手続を取るかどうかの選択に影響を与えることにもなるので、子や相続人のために最低限、相続後すぐに分かるようにしておきましょう。
生前にこれらのことを子どもに伝えておけば、その過程で子どもの気持ちも見えてきます。金融商品のまま渡してもらいたいのか、現金化してもらいたいのか。それが分かると、事前に準備をすることができます。親が売却した方がいいのか、子が売却したほうがいいのか。生前に一部を売却し、孫に贈与するといった相続対策を行うことにもつながります。
金額の変動が大きいからこそ、全ての子どもに伝えることも大切です。一部の子どもだけに伝えていると相続時に争続トラブルになってしまうリスクがあります。金融商品の終活は、親にとって、関係者の気持ちと財産承継方法の棚卸しをするキッカケになるのです。
[子ども目線]:親御さんと同じ証券会社に子供も口座をつくっておくとスムーズ!
遺言書がある場合でも、相続人の全員の合意によって遺言書の中身と異なる遺産分割協議を行うことは可能です。もっとも、全員による合意なので、一部の子どもが納得しないと成立しません。
親が遺言書を作る際に、全員で希望を話し合うことが理想ですが、それが難しい場合は、金融銘柄の価格変動に注意しなければならない局面として、以下の四つがあるということを知っておきましょう。
[1]相続開始時点
[2]遺産分割協議時点
[3]受け取り時点
[4]その後の売却時点
親の金融商品の価格が[1]~[4]の全てで上昇していれば特に問題になりませんが、上下動が大きい場合は、「あの時だったら損はしなかったのに…」という感情が湧いてくることがあります。移管手続も時間がかかりますので、感情の振れ幅も大きくなります。
預貯金の相続は、[1]~[4]の間ずっと金額が変動しないので、こういったことがありませんが、金融商品を相続する際、価格の変動が感情に直結する、ということをあらかじめ知っておくことが、子ども側の備えになるといえます。
そして、親の証券会社と同じ会社に自身の口座をつくっておくことも重要です。相続するには子ども自身の口座を開設することが必要です。口座開設には一定の期間が必要になるので、親が健在のうちに受け取る準備を済ませておくことができます。親が金融商品を持っているかどうか、確認するところからスタートしてみてください。
まとめ:親も子も、準備する時間をしっかり設けておこう!
金融商品の相続は、他の財産以上に感情の交通整理が必要だと感じます。それは、やはり価格が変動する点が大きな要因となります。投資に積極的な相続人と、そうでない相続人が銘柄をめぐってトラブルになることも少なくありません。
銘柄のドラフト会議が開催され、相続する銘柄を一度決めたのに、遺産分割協議書にまとめる前に価格が大きく変動し、やり直しの声が出て、遺産分割協議がまとまらなくなった家族がありました。逆に、子どもの性格や経済状況をふまえ、1人に金融商品を多めに相続させる遺言書を作成し、そのことを子ども全員に説明し、円満な相続を迎えた人もいました。
私自身は、金融商品の相続は、現金化して分けるのではなく、金融商品のまま相続させ、相続した後にそれぞれの相続人がどうするかを判断するのがベストだと考えています。親の意思と子の意思の、どちらも両立させられる点で優れていると思うからです。
もっとも、それ以外の選択肢も価値があります。大切なことは、親も子も準備する時間を設けるということです。時間をかけることが感情の調整期間となり、財産も気持ちも交通整理できるようになります。1人でも多くの人が、納得感のある相続を迎えてもらいたいと思います。
「終活専門」司法書士・福村雄一さんプロフィール
(福村 雄一)

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