足元の金の国際価格は、今年の1月から3月にかけて付けた史上最高値水準からおよそ20%安い水準にあります。こうした様子を見て、しばしば「もう金相場の上昇トレンドは終わったのではないか」といった声を耳にします。
「金(ゴールド)は戦略的資産」と認識
世界的な金(ゴールド)の調査を手掛ける「ワールド・ゴールド・カウンシル(World Gold Council以下、WGC)」は、YouGov(ユーガブ:英国に拠点を置く、世界規模の調査機関。米大統領選や国を挙げた選挙などの際に世論調査を手掛けることもある)と協力し、2026年2月5日から5月19日にかけて「中央銀行調査」を行いました。
9年連続の実施となった今年の有効回答は76件(昨年は73件)で、連絡を取った中央銀行のうち51%から回答が得られました(制裁の対象となっている国には連絡をしていない)。全ての質問は任意回答であるため、各質問の回答数は異なる場合があります。
回答した中央銀行の名前は伏せられていますが(一意のURLでアンケートが行われ、回答は匿名化されている)、全体の結果のほか、国際通貨基金(IMF)の定義に基づく先進国および新興市場・開発途上国(EMDE)ごとに分類された結果が公表されています。
もともと、中央銀行は「銀行の銀行」と呼ばれている、通貨を発行したり、物価と雇用を安定させるために金融政策を検討・決定したり、外貨準備高を保有したりする公的な機関です。例えば、日本では日本銀行が、米国では連邦準備制度理事会(FRB)が、それに当たります。
こうした中央銀行が、対外的に何かあった場合への備えとして積み上げている外貨準備高(金(ゴールド)を含む)を、どのようなトピックに基づいて管理をしているのかを尋ねた問いへの回答結果が、図1です。
図1:外貨準備高管理の意思決定に関連するトピックは何ですか?(複数回答可)
アンケートの結果から、近年、中央銀行は全体として、外貨準備高を管理する際、地政学的リスクを意識する傾向を強めていることがうかがえます。金利水準やインフレ懸念なども、引き続き大きなトピックであることに変わりはありませんが、近年は同リスクも、それらと同じくらい、大きなトピックになっています。
また、ほとんどの中央銀行は外貨準備高の一部を金(ゴールド)で保有しており、その管理の仕方は他の資産と分けています。その理由を尋ねた問いへの回答結果が、図2です。
図2:なぜ金(ゴールド)を他の準備資産と分けて管理するのですか?(複数回答可)
ここで言う「歴史的資産」とは、Historical legacy asset、つまり、昔から持っている資産、伝統的な資産、長年保有してきた資産、長年持つべき資産、という意味です。一方、「戦略的資産」とは、Strategic asset、つまり、積極的かつ戦略的に保有する、地政学的リスクや制裁リスクへの備え、という意味です。
当該質問は複数選択可であるため、同一の中央銀行が金(ゴールド)を、歴史的資産であり、戦略的資産である、と認識しているケースもあります。
近年、中央銀行は全体として、金(ゴールド)を「戦略的資産」だと認識する傾向を強めています。「歴史的資産」という認識も根強いですが、それ以上に「戦略的資産」であると認識する中央銀行が増えていることが分かります。
中央銀行の間で「金(ゴールド)は戦略的資産」、という認識が広がりつつあることは、外貨準備高管理の意思決定に関連するトピックにおいて「地政学的リスク」を選択する中央銀行が増加していることと符合します。
全需要の20%前後が中央銀行の保有増加分
近年、中央銀行の間で、金(ゴールド)は「歴史的資産」だけではなく、「戦略的資産」という認識が広がっていると、述べました。
歴史的資産は、言い換えれば「メインの資産の補助として(当たり前のように)持っているもの」ですが、戦略的資産は先述のとおり、何かあった場合に備え、積極的に保有する意味が強い資産です。
その意味で、中央銀行の間で、金(ゴールド)は、積極的な意図を持って保有する資産、という認識が広がっているといえます。こうした流れを反映してか、図3のとおり、中央銀行全体として、外貨準備高に占める金(ゴールド)の割合が上昇しています。
図3:中央銀行全体の外貨準備高の構成(2019~2025年の第3四半期)
2025年は金(ゴールド)の国際価格が大きく上昇した年であったため、大きく割合が上昇しましたが、それ以前の2019年から2024年においても、徐々に割合が上昇していたことを考えれば(戦略的資産と認識する中央銀行の増加が続いてきた可能性あり)、同割合の大幅上昇が金(ゴールド)の価格上昇だけが原因ではないと考えられます。
また、価格上昇自体が、「戦略的資産」を求める動きを加速させ、割合上昇の一因となった可能性もあります。
米ドルの構成比が大きく低下する中で、金(ゴールド)の構成比が大きく上昇した様子は、さながら、中央銀行全体の「米ドル離れ・金(ゴールド)寄り」であるといえます。こうした流れは図4の通り、2010年から始まっています。図4は、中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移を示しています。
図4:中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移 単位:トン
特に買い越し量が多くなった2022年以降、中央銀行による買い越し量は金(ゴールド)の全需要のおよそ20%に達しています。長期視点で市場に大きな資金を流入・流出させる投資家の例えである「クジラ」という言葉が当てはまります。
金(ゴールド)市場におけるクジラは、後に述べる金(ゴールド)相場を長期視点で支える大変に重要な存在です。
「米ドル離れ・金(ゴールド)寄り」加速
図3の中央銀行全体の外貨準備高の構成(2019~2025年の第3四半期)で触れたとおり、近年の金(ゴールド)市場は、ドル離れ・金(ゴールド)寄りの傾向が鮮明になっています。
この傾向の今後を占う直接的なヒントが、中央銀行調査の回答結果から得られます。図5は、5年後、中央銀行全体として米ドルの保有比率がどうなるかを尋ねる問いの回答結果です。
図5:5年後、中央銀行全体として米ドルの保有比率はどうなると思いますか?
近年、「緩やかに減少」と回答した中央銀行の割合が上昇し、同時に「緩やかに増加」と回答した中央銀行の割合が低下していることが分かります。中央銀行全体として「ドル離れ」が進むことを、中央銀行ら自身が示唆しているといえます。
一方、図6は、5年後、中央銀行全体として金(ゴールド)の保有比率がどうなるかを尋ねる問いの回答結果です。
図6:5年後、中央銀行全体として金(ゴールド)の保有比率はどうなると思いますか?
近年、「緩やかに増加」と回答した中央銀行の割合が大きく上昇していることが分かります。
「土台」に支えられ長期上昇は継続か
中央銀行の「ドル離れ・金(ゴールド)寄り」の姿勢は、図7の下部に示した「非伝統的な有事」によって強まっていると考えられます。
図7:ドル建て金(ゴールド)価格の変動イメージ
非伝統的な有事とは、以前のレポートで述べたとおり、2010年ごろから世界で目立ち始めた、自由民主主義指数(スウェーデンのV-Dem研究所公表)の低下が示している世界の民主主義後退、世界分断深化、そしてそれらがきっかけで目立っている資源の武器利用の横行(出し渋り)、これらがきっかけで目立っている長期視点のインフレ、通貨の流通量の膨張が加速させている通貨の不確実性の増大などです。
いずれも、2010年ごろから目立ち始めた事象です。それゆえ「非伝統的な」有事としています。こうした有事が目立ち始めたタイミングと、図4で示した中央銀行による金(ゴールド)買い越し量が増加しはじめたタイミングは、ほとんど同じです。
つまり、中央銀行は全体として、2010年ごろから目立ち始めた「非伝統的な有事」の存在を察知し、それらへの対策として「戦略的」な意味で金(ゴールド)を保有し始め、その結果、買い越しが目立ち始めたといえます。
非伝統的な有事はある意味、社会の「影」だといえます。この影が2010年ごろ以降、非伝統的な有事を大きくし、中央銀行の買いを誘い、それにより、金(ゴールド)市場を長期視点で支える「土台」が大きくなり、その結果、図8のような急騰劇を生み出したといえます。
図8:S&P500種指数、金(ゴールド)の価格推移
しばしば、「光が強いところには、濃い影がある」と言われます。光の強まりを手掛かりに株価指数は大きく上昇していますが、その光がもたらす影が「非伝統的な有事」を大きくし、中央銀行の買いが増え、金(ゴールド)相場が長期視点の上昇を演じていると考えられます。
冒頭で述べたとおり、足元、金(ゴールド)相場が大きく下落していますが、それは図7のドル建て金(ゴールド)価格の変動イメージで述べた、短中期視点の材料(1)~(3)の影響が大きく、(6)(7)の中長期・超長期視点の「土台」はほとんど揺らいでいないと考えられます。
今後も、金(ゴールド)相場は「土台」に支えられ、長期視点の上昇トレンドを継続すると、筆者は考えています。
[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例
純金積立
純金積立・スポット購入
投資信託
三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
楽天・ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし/あり)
楽天・プラチナ・ファンド(為替ヘッジなし)
中期:関連ETF
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
GXゴールド(425A)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
短期:商品先物
国内商品先物
海外商品先物
短期:CFD
金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム
(吉田 哲)

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