株式投資で企業を見る目が、少しずつ変わってきている。かつては「利益をどれだけ伸ばせるか」が最大の注目点だったが、いまはそれだけではない。

では、今の市場で投資家が重視している「銘柄選定のポイント」とは? 具体的な5銘柄とともに見ていこう。


投資のプロ厳選「株主還元」と「成長投資」のバランスが絶妙な日...の画像はこちら >>

利益を伸ばすだけでは、株主は満足しない

「業績が伸びれば株価も上がる」


 以前は、このロジックが当たり前のように考えられていました。


 もちろん、利益は今でも企業にとって最も重要なものです。しかし、最近は、「いくら利益を稼いだのか」だけでは十分ではありません。市場は、その利益を何に使うのかまで見ているのです。


 設備投資に回すのか、研究開発を強化するのか、新しい事業へ挑戦するのか…それとも、配当や自社株買いを通じて株主へ還元するのか。利益をどう使うかで、企業に対する市場の評価も大きく変わってきました。


 この背景には、日本企業を取り巻く環境の変化があります。日本企業は長い間、「内部留保が多い」と指摘されてきました。利益が増えても現預金を積み上げる企業が多く、株主からは「もっと資本を有効に使うべきではないか」という声も少なくありませんでした。


 こうした流れを後押ししたのが、東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営」の要請です。「株価純資産倍率(PBR)1倍割れ企業への改善要請」と説明されることもありますが、実際の対象は、PBR1倍割れ企業だけではありません。


 東証はプライム市場とスタンダード市場に上場する企業に対し、自社の資本コストや資本収益性を分析・評価し、それを踏まえた改善策の策定や開示、投資家との対話を継続するよう求めています。


 企業はただ利益を出すだけではなく、その利益をどう生かして企業価値を高めるのかまで説明することが求められるようになりました。


 とはいえ、もちろん内部留保そのものが悪いわけではありません。サブプライムショックや関税ショックなど想定外の事象への備えにもなりますし、大型投資を行うための資金にもなります。ただ、利益が積み上がる中で株主還元がほとんど行われなければ、「資本を十分に活用できていない」と受け止められることがあるのも事実です。


 そのため近年は、利益を設備投資や研究開発、新規事業へ振り向けながら、増配や自社株買いにも積極的な企業が増えてきました。数年前と比べても、「利益を株主へ返す」という考え方は、かなり浸透してきたように感じます。


「高配当企業=安心」ではない

 もっとも、「配当利回りが高い会社なら安心」と考えるのは少し早いでしょう。利益が伸びていないにもかかわらず、無理に配当だけを引き上げれば、将来は減配を迫られる可能性があります。


 反対に、利益を着実に積み上げ、その利益を将来の成長へ向けた投資と株主還元の両方へ振り向けられる企業は、昨今重視される「持続的な成長」も期待しやすくなるでしょう。


 また最近は、「累進配当」を掲げる企業も増えました。原則として減配を行わず、利益成長に合わせて配当を増やしていく考え方です。さらに、自社株買いを組み合わせて株主還元を強化する企業も目立つようになりました。


 一方、利益を全て株主へ還元すればよいというものではありません。

企業が持続的に成長するには、研究開発や設備投資、人材育成など、未来への投資も欠かせないからです。


 だからこそ投資家が見るべきなのは、「利益が増えた」という結果だけではありません。利益をどう使っているのか。将来の成長につながる投資を続けながら、株主にも利益を還元できているのか。こうした利益の使い方を見ると、その企業が何を大切にしているのかがおのずと見えてきます。


 こうした流れは、日本が再び「金利のある世界」を意識する局面に入ったこととも無関係ではないでしょう。超低金利の時代は、将来の成長期待が高い企業ほど評価されやすい環境でした。一方、金利が上昇する局面では、足元で利益をしっかり稼ぎ、その利益を成長投資と株主還元へバランスよく配分できる企業にも市場の関心が集まりやすくなります。


 そこで今回は、「利益をどう使っている企業なのか」という視点から5社を見ていきます。


利益の使い方が「巧み」な5銘柄

銘柄名 証券コード 株価(円)
(7月7日終値) 特色 ヒューリック 3003 1,771 利益成長と連続増配を続ける不動産会社 全国保証 7164 3,141 安定収益を着実な株主還元につなげる保証会社 東京センチュリー 8439 2,537.5 設備投資需要を取り込むリース大手 オリックス 8591 6,418 多角化経営で利益を積み上げる総合金融グループ ソフトバンク 9434 211.6 安定利益を成長投資と株主還元へつなげる通信大手

1.ヒューリック(3003)

 同社は、東京都心の好立地に強みを持つ総合不動産会社です。2025年12月末時点では250棟の賃貸用不動産を保有し、その約6割が駅徒歩3分以内に立地しています。オフィスビルを中心に安定した賃料収入を積み上げており、景気の変動局面でも高い稼働率を維持している点が特徴です。


 こうした安定収益を土台に、買収や合併(M&A)も活用しながら事業領域を広げ、ホテルや高齢者施設、観光関連施設など、収益源の多様化を進めてきました。


 加えて、同社は株主還元にも積極的で、2008年の上場以来「17期連続」増益・増配、現在も継続中です。さらに、2029年に向けて、配当性向を45%まで段階的に引き上げる方針も公表しています。


 利益を成長投資と株主還元の両方へ振り向ける姿勢が、同社の強みと言えそうです。


2.全国保証(7164)

 同社は、住宅ローン保証を主力とする独立系保証会社です。保証残高は21兆円を超え、全国700を超える金融機関と提携するなど、国内最大級の事業基盤を築いています。住宅ローン残高が積み上がるほど保証料収入も増えるストック型ビジネスであり、景気変動の影響を受けにくいことが強みです。


 急成長する企業ではありませんが、安定した利益を積み重ねられる収益構造は大きな魅力と言えます。高い収益性を背景に、利益を着実に積み上げてきました。


 さらに同社は、継続的かつ安定的な配当を基本方針に掲げており、自己株式の取得も機動的に実施。利益を成長のための内部留保だけに回すのではなく、株主にも還元する姿勢が明確です。


 決して派手さのある事業ではありませんが、中長期投資では安心感のある銘柄と言えるでしょう。


3.東京センチュリー(8439)

 同社は、リース事業を出発点としながら、航空機や物流、不動産、再生可能エネルギーなど、幅広い分野へ事業を拡大してきました。現在ではリース会社という枠を超え、投資や事業運営まで手掛ける総合サービス企業へと変化しています。


 近年は設備投資需要の取り込みに加え、有力企業との資本・業務提携やM&Aに積極的です。

国内だけでなく海外事業も拡大しており、収益源の分散が進んでいる点も評価できます。


 そんな同社の株主還元方針は明確です。中期経営計画では累進配当を基本とし、利益成長を通じた増配と配当性向35%以上を掲げています。将来に向けた投資を続けながら、株主還元も後退させない姿勢は、中長期投資という視点でも注目できるポイントでしょう。


4.オリックス(8591)

 もともとはリース会社として創業した同社ですが、現在では不動産や環境エネルギー、空港運営、事業投資、銀行、保険など、多角的な事業を展開しています。一つの事業に依存しない収益構造を築いたことで、景気や個別業界の影響を受けにくい経営基盤を確立してきました。


 同社はこうした幅広い事業から安定した利益を生み出し、その利益を次の成長分野への投資へ振り向けながら、インフラや海外事業など、新たな収益源の育成にも継続的に取り組んでいます。


 そんな同社の株主還元姿勢は、安定配当を基本としながら、自己株式取得も機動的に実施してきました。利益を成長投資だけに使うのではなく、株主にも適切に還元する姿勢を長年続けています。こうした経営を長く続けていることが、同社の強みと言えるでしょう。


5.ソフトバンク(9434)

 同社は、通信事業を中核としながら、法人向けDX、AI、データセンター、IoT、キャッシュレス決済など、新たな成長分野への投資を積極的に進めています。通信事業が生み出す安定したキャッシュフローを土台に、新しい収益源を育て続けていることが強みです。


 また近年は、AI時代を見据えたデータセンターやネットワークへの投資も本格化しています。成熟した通信事業を守るだけではなく、次の成長分野へ利益を振り向ける姿勢が明確です。


 そんな同社は、株主還元にも積極的です。通信事業で生み出した利益を、AIやデータセンターなど次の成長分野へ投資しながら、安定した株主還元も続けています。利益を「成長」と「還元」のどちらか一方に偏らせるのではなく、両立を目指す経営姿勢は高く評価できるでしょう。


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(田代 昌之)

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