証券アナリスト・エコノミストの経歴を持ち、高齢者の課題解決に努めている黒澤史津乃が、現役世代に向けて「親の介護に直面する前の心がまえ」の第一歩を解説。今回のテーマは「エンディングノート」。

終活に不可欠ですが、なぜ必要なのか、筆が進まないのか。その理由をひも解きながら、一緒に考えていきましょう。


親の9割は「エンディングノート」を書けない。終活「最重要項目...の画像はこちら >>

1.終活に欠かせない「エンディングノート」

 終活といえば「エンディングノート」と言っても過言ではないくらい、終活を意識する人々にとって「エンディングノート」は重要なアイテムです。


 街の書店ではいろいろな種類のエンディングノートが山積みされているし、100円均一ショップでもなかなかよくできたエンディングノートが販売されているとか。わざわざ買わなくても、全国各地の自治体では無償でオリジナルエンディングノートを配布していることも多いようです。


 筆者も全国各地で講師を務める終活セミナーの中で、「エンディングノートをお持ちの方は?」と尋ねると、8~9割の方がすでにお持ちだと手を挙げてくださいます。


 続いて「エンディングノートを書き終えた方は?」と尋ねると、逆に手を挙げる方は1割にも満たないという傾向は、全国どこのセミナー会場でも同じです。


 そもそも、どうして「エンディングノート」を書かなければならないのか、そしてなぜ「エンディングノート」の筆が進まないのか、ご一緒に検証してみましょう。


2.そもそも「エンディングノート」とは?

 一般的に「エンディングノート」というと、万が一のときや病気、認知症などにより意思疎通が難しくなった場合に備えて、自分自身の住所や本籍地などの基本的な情報に加えて、財産、収入・支出、病歴、お墓などに関する情報や、医療や介護、療養場所や老後の住まい、死後の手続きなどに関する希望・要望をまとめて記載しておくもののことを指します。


 最近では、スマホのパスワードなど、デジタル遺産と呼ばれるものの情報を書き記しておくことも必要になっています。


「エンディングノート」には法的拘束力はありませんから、ここに希望を書いたからといって、全てがその希望どおりにかなえられるわけではありません。


 しかし、「エンディングノート」によって情報を開示して、こういう場合にはこうしてほしいという希望を伝えておくことで、少しでも自分の希望に沿った老後とその先を迎えることができるように準備をしておくことが可能になります。


 一般的な「エンディングノート」の具体的な記載項目としては、下記のようなものがあります。


  • 自分の基本的な情報
    住所、本籍、相続人、伝えてほしい連絡先、遺言書の有無など
  • 収支状況、資産状況に関する情報
    定期的な収入・支出(家賃、保険料、サブスク代など)、銀行預金、有価証券、保険、不動産、借入など、死後に解約や連絡が必要な事項の情報
  • 医療・介護に関する情報・意向表明
    既往歴、かかりつけ医、服薬情報、アレルギー情報
  • 家財に関する情報・意向表明
    形見分けの希望、処分してほしくないものの希望
  • 葬儀・お墓に関する情報・意向表明
    葬儀の希望、宗教・宗派、戒名、墓地の情報
  • その他、デジタル遺産やペットに関する情報・意向
    各種ID・パスワード、ペットの情報
  • 家族やその他の大切な人へのメッセージ

3.今こそ「エンディングノート」が必要な理由

「エンディングノート」の発祥は、1990年代に葬儀関連会社が製作したものだといわれていますが、2009年に週刊朝日で「現代終活事情」という連載が始まって、「終活」という言葉がブームになりました。その頃から「終活」を支える重要なツールとして、「エンディングノート」が脚光を浴びるようになりました。


 では、どうして「エンディングノート」が必要とされるようになったのでしょうか。「エンディングノート」が世の中に登場する前は、それがなくて困ることはなかったのでしょうか。


 そのヒントは、黒電話と郵便ポストからスマホへの移行にあると思います。


 その昔、スマホがない時代には、電話と郵便ポストが一家に一台ずつありました。


 家族で一つの電話番号を利用して、家族の誰にどこの誰から電話がかかって来たのか、皆が把握しました。また、電話帳も各家庭で一冊だけでしたので、五十音の行ごとにページが分かれている電話帳を見れば、「同じ名字の氏名が集積しているのでこれは親戚だな」というのが一目瞭然でした。


 また、手紙も年賀状も全て郵便は一家に一つの郵便ポストに配達されるので、家族それぞれの人間関係や状況が手に取るように自然に分かり合っていたのです。


 ところが今はどうでしょう。同居している家族であっても、電話も手紙も全てそれぞれのスマホの中に閉じ込められています。家族同士の情報が、一人一人遮断されてしまいがちになっているのです。


 親子や夫婦だとしても、よほど丁寧な対話と意思疎通を紡ぎ続けていなければ、何でも通じ合う関係は成立しにくくなっています。いざというときに必要となる情報や希望や意向が、以心伝心で伝わるものだと思ったら大間違いです。


 今や、銀行口座の通帳も紙ベースで発行されなくなっている時代。


 もし読者の皆さんが、今日、いきなり脳梗塞で倒れて意識不明の状態になってしまったとき、皆さんの療養に必要なお金の情報、もらえるはずの入院保険の情報、伝えなければならない関係者の連絡先など、ご家族は瞬時にどこまで把握できるでしょうか。逆にもしかしたら、ご家族には知られたくない情報もあるかもしれません。


 だからこそ、皆さんがいずれ何らかの支援が必要になったときに、必要な情報を必要な人に必要な範囲で共有できるように、自分の情報や希望・意向を、あらかじめ自分自身でコントロールできるよう備えておくことが求められているのです。


 これは、老後に備える高齢者向けの終活としてだけではなく、どの年代の人にもいつ何が起こるか分からないという意味では必要ですし、特に自然災害が起こったときにも役立つはずです。


4.スマホの中身をどうやって伝えるか

 スマホの中の情報は、ロック解除が可能となる情報を伝えていない限り、家族や第三者がたとえ業者に依頼したとしても完璧に突破できるとは限りません。


 しかも、スマホの持ち主は、業者にロック解除の依頼をしてまで、自分がスマホの中に蓄積した情報全てを家族や第三者の白日の下にさらすことを望んでいるでしょうか。


 筆者が高齢の父親を看取ったとき、父親はまだロック機能を利用せずにフィーチャーフォン(ガラケー)を使っていましたから、「お父さん、この人とこんなLINEをしていたんだ」「お父さん、こんな写真を撮っていたんだ」と、相続人としてそのガラケーの解約手続きをする前に、感傷的になりながら娘として父親をしのんでいました。しかし、はっと我に返りました。


「私自身は、私のスマホの中身を、こんな風に娘に全て見られたいだろうか」


 答えは、NOです。


 別にやましいことを隠してあるわけではありませんが、息を引き取った後に、自分の全てを自分の知らないところで晒されている感覚は、私には拒否感があります。


 だからこそ、たとえスマホのロック解除ができなくても大切な人が困らないように、スマホの中に閉じ込められている情報のうち、大切な人に伝えておきたいこと、伝えておかなければ周囲が困るであろうことを、「エンディングノート」に残しておく必要があるのです。


5.「エンディングノート」ではなく、「人生デザインノート」

 今のこのご時世、もちろん「エンディングノート」が必ずしも手書きのノートである必要はありません。

形式は自由ですから、メモ書きでも、クラウドにファイルとして保存しておいても、音声や動画に残しておいても構いません。


 大切なのは、「エンディングノート」は自分では決して使わないものだということです。
つまり、どんな形式のものであっても、その「エンディングノート」を使ってくれる人に託しておかなければ意味がないのです。


 しかし、「エンディングノート」を託すとなると、いよいよ死期が近いのではないかと意識することとなり、家族であっても、いや、家族だからこそ、託す方も託される方もちゅうちょしてしまいがちになるのではないでしょうか。


 きっと、「エンディング」という言葉の響きがそうさせるのでしょう。


「エンディングノート」は、高齢者が死を意識して準備するだけのものではありません。


 年齢に関係なく、誰もがいつ何が起こるか分からないのが人生ですから、自分の人生を自分の大切な尊厳を守り希望を実現するためにデザインしておくためのノート、つまり「人生デザインノート」とでも言い換えて、残りの人生を前向きに不安なく生きるために常にアップデートしながら、大切な人と共有していただきたいと思います。


 読者の皆さまも、「まだ早すぎる」なんておっしゃらずに、ご両親と一緒にぜひ「人生デザインノート」をご準備ください。


(黒澤 史津乃)

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