作家の乙武洋匡氏は、中田敦彦氏夫妻の移住や帰国をめぐる批判には、他人の家庭の事情をわかったように断じる危うさがあるとみる(以下は乙武氏による寄稿)。
移住も帰国も自由なのに、なぜ外野はここまで口を出すのか
中田敦彦さんとは少なからず因縁がある。今から10年前、私は不倫スキャンダルで世間から厳しい批判を浴びていた。当時、中田さんはワイドショーでコメンテーターを務め、スキャンダルを報じられた芸能人に対して忖度のないコメントを繰り出していた。私も例外ではなく、ずいぶん手厳しい言葉をいただいた記憶がある。
もちろん、当時の私には反省すべき点が大いにあった。おごり高ぶっていた部分があったことも認めざるを得ない。ただ、同時に拭えない疑問もあった。なぜ家庭内のこと、夫婦間のことを、事情を知らない外野からここまで言われなければならないのか。私だけのことではないのですべてをつまびらかにすることは控えるが、重度障害者の婚姻生活には固有の課題や困難が生じていたことも事実だった。そうした事情を知らない人たちからの批判を、私は正面から受け止めきれずにいた。
あれから10年がたち、今度は中田さんが批判される側に立っている。
妻でタレントの福田萌さんが、移住先のシンガポールから一家で帰国したことを明かした。これについて、ネット上では「税金逃れで国を出ていったくせに」「妻子を振り回している」といった声が飛び交っている。
他人の家庭を断罪する空気の息苦しさ
だが、私はこうした批判の多くに違和感を覚えている。そもそも中田さんは、何ら法を犯しているわけではない。私たちには、ルールの範囲内で、どこに住み、どこで働き、どう子どもを育てるのかを選ぶ自由がある。日本を出たから裏切り者のように扱われ、戻ってきたら「失敗した」と笑われる空気があるのだとすれば、あまりに息苦しい。
ご家族にまつわる事情についても同じだ。福田さんが本当に「振り回された」のかなど、私たちには知る由もない。お子さんたちの教育方針についても、外野が軽々しく口を出せる話ではない。
「移住について語っていたことと辻褄が合わない」という声もある。だが、5年前と考えが変わることは誰にだってある。実際に異国で暮らしてみて、初めて見えてくることもある。
人は、行ってもいいし、戻ってきてもいい。
10年前、私は外野から家庭の内側まで語られることに強い戸惑いを覚えた。その矢がどこに向かおうとも、私の考えは変わらない。
他人の家庭に、わかったような顔で口を挟むべきではないと強く思う。
【乙武洋匡】
1976年、東京都生まれ。大学在学中に執筆した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。ニュース番組でMCを務めるなど、日本のダイバーシティ分野におけるオピニオンリーダーとして活動している
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