積み立てシミュレーションが描くきれいな複利のカーブは、将来の資産の可能性を描き出します。しかしその一本線には、「毎年同じリターンが得られたら」という大きな前提が隠れています。
前回、前々回と、積立投資の王道であるドルコスト平均法を、バリュー平均法や一括投資と比べながら解説しました。
▼あわせて読みたい
- なぜ「ドルコスト平均法」が選ばれるのか?「バリュー平均法」との比較で考える積立投資の「真価」
- 「積立投資vs一括投資」。どちらも結局「リスク管理」が明暗を分ける理由
今回は、将来の積立投資の結果を試算するときに、多くの人が一度は目にする、滑らかな右上がりの曲線について考えていきます。
滑らかな曲線は「毎年同じ」の空想
「年率リターン5%」の積み立てシミュレーションで描かれる資産推移の曲線は、いわば「毎年ちょうど5%ずつ増え続けた世界」を想定したものです。しかし、それは現実的ではありません。ある年は+20%、次の年はマイナス10%といったように、平均すれば5%でも、その道のりは決して滑らかではないのです。
図1:シミュレーション上の滑らかな複利曲線と実際の資産額のブレのイメージ
この問題は、シミュレーションの結果である一本線が、あたかも確定した未来のように見えてしまうことです。こうしたシミュレーションを行うのに必要な入力項目は「積立金額」「想定リターン」「積立期間」の三つであり、証券価格のリターンの源泉でもある「ブレ」は考慮されていません。では、このブレの影響を消さずに将来を描くと、どう見えるのでしょうか。
シミュレーション結果は一本の線から「帯」に変わる
そこで今回は、モンテカルロ法という手法を用いて、ブレを考慮した積み立ての結果を試算していきます。
具体的には、毎月のリターンを期待値とブレ(ボラティリティ)に基づいて乱数で発生させる操作を1万回繰り返します。これにより一本の線ではなく、図2のとおり、1万通りのあり得た未来が得られ、運用状況が良かった場合から芳しくなかった場合までを想定した、幅のある帯になります。
図2:資産価格のブレを考慮した場合の積み立てシミュレーション
注目いただきたいのは、赤色の実線で示す従来の「毎年5%」の一本線は、帯の中央ではなく、やや上を通っていることです。数字で見ても、30年後のシミュレーション上の平均は2,450万円であるのに対して、その一方で、中央値は約2,058万円でした。
図1で見た、資産価格のブレを考慮しない試算では、結果は約2,497万円であり、図2の平均と近しい数値です。つまり、よく見かけるあの一本線は、ブレを考慮した場合の平均近くを描いていることになります。
そして資産額のブレは上に大きく開きます。これは、ごく一部の幸運なケースが平均をつり上げるためであり、結果として平均は、ちょうど真ん中の成績である中央値より高くなります。「中には一本線を上回るケースもある」の裏側で、実は多数派がたどり着くのは一本線より下の結果なのです。
「20年持てば負けなし」は本当か?
その他に積み立てでよく語られる通説があります。「長く持つほど元本割れしにくい」や「20年以上持てば、過去はほとんど負けなしだった」というものです。これはシミュレーションでどう見えるでしょうか。図2の帯に、元本割れした割合を重ねてみます。
図3:資産額と元本割れ確率の推移の試算
図3の青色の実線(右軸)のとおり、元本割れの割合は、積み立て年数が延びるほど確かに下がっていきます。10年で約24%、20年で約15%、30年で約10%と、長く続けるほど負けにくくなる、という通説の方向とは、たしかに整合します。
ただし、二つ注意が要ります。一つは、ゼロにはならないこと。30年でも1割ほどは元本割れする可能性が残ります。もう一つは、より本質的な区別です。通説の「過去は負けなし」は、現実に起きた一本の歴史の結果論です。
一方、図3が示すのは、あり得た1万通りの分布での確率です。つまり、前者は「たまたまその道だった」のに対して、後者は「どれだけの割合で負け得るか」という、似て見えて全く別物なのです。
同じリターンでもブレが大きいとどうなる?
図3では年率リスクを15%としていました。では、年率リターンは5%のまま、ブレだけを大きくすると、どうなるでしょうか。
図4:想定リスクを大きくした場合(右側)の資産額と元本割れ確率の比較
図4のとおり、年率リスクが15%から25%に引き上がると、帯は上下に大きく広がります。ここで見落とせないのが、想定のリターンは同じにもかかわらず、中央値はむしろ下がるという点です。
30年後の中央値は、リスク15%の約2,058万円に対し、25%では約1,551万円となり、同じ平均でも、上下を繰り返すほど幾何的な増え方は鈍ることが示唆されます。つまり、資産価格のブレそのものが、複利の効きを弱めてしまう可能性があるのです。
また、元本割れの割合も増加します。リスク25%では、30年たっても約33%と高止まりし、期間を延ばしてもなかなか下がりません。つまり「長く持てば大丈夫」という安心が、ブレの大きい資産では通用しにくくなるということです。
こうした、期待リターンが同じでもリターンのブレが結末を左右するというのは、よくある一本線のシミュレーションでは決して見えない事実です。
積み立てならではのわな―「順番」が効く
もう一つ、一本線のシミュレーションが消してしまう重要な要素があります。リターンの順番です。
一本線では、毎年同じリターンなので順番という概念がありません。しかし実際には、同じリスク・リターンでも、暴落がいつ来るかで結末が変わります。序盤の大幅下落は、資産がまだ小さい上に、その後を安く仕込めるので、むしろ追い風になり得ます。
逆に、資産が大きく育った終盤の暴落は、失う金額が大きく、取り返す時間も足りません。モンテカルロ法ではこの「順番のあや」を自然に含んでいますが、滑らかな一本線は、それを全て平らにならしてしまうのです。
シミュレーションそのもののわな
とはいえ、モンテカルロ法によるシミュレーションを万能の水晶玉のように扱うのも、また別のわなです。シミュレーションの結果は、想定のリターンやリスクをいくつに置くか、リターンの分布をどう仮定するかなどの前提次第で大きく変わります。
今回の試算は、金融実務の現場で広く採用されている標準的な手法に基づいていますが、現実より穏やかすぎるきらいがあります。
一本線のわなを別のわなで置き換えないためにも、数字は前提の上に乗った「もっともらしさ」にすぎない、という距離感を保つことが大切です。
まとめ:線ではなく幅で捉える
以下は、一本線の積み立てシミュレーションを見る際に気を付けたい点です。
- 示されているのは平均値であり、ちょうど真ん中を指す中央値とはズレがある
- 長期で元本割れ確率は下がるが、ゼロにはならず、しかもブレが大きいほど下がりにくい
- リターンの順番が考慮されない
一本の複利曲線が示すシミュレーションは、分かりやすく便利です。しかし、上記の課題があることから、将来の姿は一本線ではなく、資産価格のブレをふまえた、幅があるものとして捉えておくことが重要です。そして、リスクや資産配分について解説した回でお伝えしてきたとおり、資産額のブレは資産の組み合わせ方の工夫で、一定程度下げることができます。
ぜひ本稿とあわせて、ご自身の積立投資の振り返りの際にお役立ていただけますと幸いです。
▼あわせて読みたい
- 投資のリスクの正体。リターンを犠牲にしない「効率的フロンティア」とは?
- 「完璧はない」。5つの資産配分から考える、理想と現実の落としどころ
(上源 悠詞)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
