ゴールドマン・サックス証券のヘッドトレーダーを経て日本株運用を手掛けるインベストメントLabの宇根尚秀代表は資産運用では銘柄選びの前に「三つの把握」が重要と指摘する。加えて「資産形成の基本は『全世界株式』で十分」という。

女優で投資家、FPの資格を持つ陽和ななみ氏が宇根氏に「資産運用の考え方」を聞いた。


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元ゴールドマン、ヘッドトレーダーの提言 まずは「三つの把握」、基本は「全世界株式」で十分 インベストメントLab 宇根氏インタビュー
陽和ななみさん、宇根尚秀さん

陽和ななみ氏(以下、陽和):宇根さんのご経歴とどのような思いでマーケットと向き合っているか、まずはお伺いしたいと思います。


インベストメントLabの宇根尚秀代表(以下、宇根):ゴールドマン・サックス証券に就職してからは「トレーダー」という仕事に従事し、株式や金融派生商品のデリバティブの分野でマーケットと向き合ってきました。


 その後はゆうちょ銀行の市場部門常務執行役員として投資戦略改革に参画し、2020年には日本株の買いと売りを組み合わせたロング・ショート戦略の投資運用会社を立ち上げました。


 キャリアを通じて投資というアングルから世の中に関わらせていただいていますが、相場を当てるというよりも「退場しないためにどうすれば良いか」と考えています。むしろ「長くマーケットに残っていればチャンスは訪れる」とも考えてきた人間です。投資にあたってご自身の判断軸を持つための考え方を共有したいと思っています。


銘柄選びより重要な三つの把握

陽和:まず資産運用をする上で何から始めれば良いのでしょうか。


宇根:投資に関心を持ち始めた方からはどの株式を購入すれば良いのか、とよく問われます。つまり銘柄選びの質問を受けることが多いのですが、資産運用のフレームワークを大事にしてもらいたいと考えています。相場が急落すれば「退場」を余儀なくされるケースも少なくありません。資産を運用して退場しないために大事なのはリスク量の工夫です。


 具体的には三つの把握です。

一つ目は「自分の資産の全体額および現在の配分」、二つ目は「投資の目的と期間」、そして最後の三つ目が「自分自身のリスク選好度」です。この3点を適切に把握していけば検討するべき資産配分や投資対象の候補が絞られます。


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出所:インベストメントLab

陽和:一つずつ具体的に伺いたいと思います。資産の全体額と現在の配分というのはどういう意味でしょうか。


宇根:現金と金融資産、その他の資産をどれほど持っているのかを正確に知ることが重要です。資産運用の基本目的は資産の絶対額の最大化となります。その前にご自身が持っている銀行口座、持ち家、自家用車など自分がどのような資産に大切なお金を振り向けているのかを確認するべきでしょう。


 会社に勤務している方であれば経済や相場にどれほど業績が左右されるのかも点検し、どれほどの投資の余力があるのかといった確認も重要です。資産を把握した上で、資産と逆側にある負債と純資産に分けて、いわばバランスシート(貸借対照表)の観点で純資産の最大化を目的にするとより金融のプロの見方に近づく形になります。


陽和:次に投資の目的の明確化ですが、どのように考えていけば良いでしょうか。


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陽和ななみさん

宇根:どのような目的で資産形成をしていくかですが、多くの場合は老後のための資金、家族やご自身に何かあったときの「もしも」のときの安心のためではないでしょうか。この場合、運用資産は世界最大級の投資家であるGPIF、年金積立金管理運用独立行政法人のポートフォリオが参考になります。


 GPIFは国内株式、外国株式、国内債券、外国債券の4資産を均等配分して投資しています。GPIFの過去20年の収益率は年率でみると3%台半ばとなります。


 個人投資家の資産運用では目的や期間、リスクの許容度が違うため実際の配分は年齢や家計の収入、家族構成、運用目的によって調整が必要になるとみています。それでもGPIFのポートフォリオにした場合は世界の潜在成長率ほどの収益を期待しても良いと思います。


陽和:最後の三つ目であるリスク選好についてもお伺いします。


宇根:投資をすると運用資産は相場環境によって変動します。運用資産の増減によって「どれくらい資産が減っても自分自身の生活と心が壊れないか」を決めることが重要です。


 一般的には投資家の最大リスク許容度は投資元本の20~30%程度といわれています。過去の大きなショックに当てはめてみると、四つの資産に均等に配分した手法であればおおむね許容度内に収まってきた計算になります。


陽和:四つの資産の均等配分を基本ということですが、私のようにもう少しリスクを取りたいという人はどのようにしていけば良いでしょうか。


宇根:まずは「三つの把握」でどれだけ投資に振り向ければ良いか決め、その後にリスク量を調整すれば良いとみています。株式の比率の目安としては「100-年齢」%、積極的にリスクを取りたいという人であれば「120-年齢」%を基準にすると良いと考えています。


 あくまでこの基準は目安ですし、それぞれの状況によって違います。相場の下落でどれくらいの運用資産への影響があるか点検は必要でしょう。


やっぱり全世界株式が基本?4均等+「お楽しみ枠」の手法も

陽和:宇根さんは三つの把握をした上で、投資の基本としては「全世界株式」で良いとお考えですか?


宇根:長期投資の場合、「全世界株式」を基本にする考え方は合理的だと考えています。私自身はアクティブファンドを運営する投資家ですが、金融教育の場では「パッシブ(受動的な運用の形態)で十分です」と伝えています。なぜかというとまず一般論として手数料を控除した後に長期で市場平均を上回り続けるアクティブ運用は簡単ではないためです。


 そのため多くの投資家にとって低コストのパッシブ運用を基本とした資産運用が合理的だと考えています。それでもアクティブファンドに投資をしたいという声はよく聞きます。アクティブ運用を選ぶ場合、手数料や運用哲学、リスク、期間をよく確認してもらいたいと思います。


 日本株という観点でみれば日本で暮らし、企業動向を肌で知っている強みを生かして余裕資金の枠内でご自身がアクティブに選んでみるというのも一つの手です。


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宇根尚秀さん

陽和:先ほど四つの資産の均等配分を基本とも伺いましたが、宇根さんが考えるその他の投資手法はありますか?


宇根:最近は5資産での投資も良いのではないかと考えています。4資産均等は基本ではあるのですが、第5の枠として「お楽しみ」枠を作るものです。もっと相場を勉強したい、または投資の面白さや醍醐味(だいごみ)を味わいたいという方は第5の枠の中で個別株やその他の投資に挑戦すれば良いと考えています。


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出所:インベストメントLab

 第5の枠は余裕資金と学習枠という位置付けです。たとえこの枠で損失が出たとしても基本の4資産があるため、資産形成というフレームワークの土台には影響が出にくくなります。


陽和:具体的に第5の枠ではどのような投資をすれば良いでしょうか。


宇根:例えば投資哲学を理解した上でアクティブファンドへの投資、日本株で自分なりの持ち高を組むのも一つの楽しみになります。2026年夏の相場や半導体関連のボラティリティ(変動幅)が大きい状況ですが、枠を守りながら集中投資するというのも一つの選択肢になります。


 不動産投資をするという手法もあります。最近は不動産価格が上昇していて容易ではありませんが、私自身は「ローンの返済までを含めてキャッシュフローがマイナスにならないようにすること」とルールを課し、最近都内で1件投資をしました。


 不動産投資はローンという長期間でのレバレッジがかかる一方、金利の上昇や空室、価格下落のリスクも増幅されると考えた方が良いでしょう。


陽和:2026年夏の日本株は大きく動きましたが、どうご覧になっていましたか。


宇根:私自身にとって教材のような期間になりました。6月には日経平均株価が7万円の大台を上回り、マーケットでは一気に強気の見方が広がりました。


 一方、7月は人工知能(AI)や半導体関連株が高値から1~2割ほど調整。

米国では米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利の据え置きを決めた後、ダウ工業株30種平均が1日で1,100ドル以上も下げる場面もありました。想定外の為替介入での円の急伸という場面もありました。


 イベントの予測はプロでも困難であること、AIに関してはAI関連とひとくくりにせず、どの層をどんな理由で保有しているかを自覚する大切さ、そして過去の経験則(アノマリー)は裏切ることがあるという三つの学びを得ました。


 そのため私自身は「次に何が起きるか」と当てにいくのではなく、「何かが起きた時に自分が耐えられるか」という点検、守りの部分を大切にしています。


陽和:守りとは具体的に何をすれば良いのでしょうか。


宇根:地味な話ではありますが、自分の資産のポートフォリオの「偏り」を知ることです。


 例えば保有銘柄を30に分散していた場合、1銘柄ずつ業種やその銘柄のスタイル、例えばモメンタム系、バリュー系かクオリティ株なのか高配当かといった分類、為替や金利の感応度をラベル付けしてみることです。ラベル付けはいわば金融のプロの得意とする部分でしたが、今は生成AIに相談すれば誰でもたたき台を作れるようになっています。


 偏り自体は個性でもあり構わないのですが、「同じリスクを何重にも重ねている」ことに気付かないことが問題になります。偏りの「可視化」が重要であり、偏る場合は偏りの仕方とリスク量への留意が必要となります。加えて「ストレステスト」も重要です。手順は五つですのでぜひトライしていただきたい。

いわば自分自身が投資において耐久力を探る点検作業です。


陽和:ストレステストはどのようにすれば良いでしょうか。


宇根:具体的には


(1)保有銘柄とそれぞれの金額(ウエート)を書き出す
(2)過去のストレス局面を選ぶ(リーマンショック、コロナショックなど)
(3)保有銘柄がその局面でどれだけ下げたかを調べる(過去の局面で未上場の銘柄は同業種の類似銘柄で代替する)
(4)ウエート×下落率を計算し、過去のストレス局面を当てはめた場合の「概算の1カ月の損失額」を算出する
(5)その金額に自分自身が耐えられるか点検し、耐えられる状況まで保有を落とす


というものです。


 資産運用においては守りを固めた人が安心して攻めが可能です。個人投資家は期間を決めない長期投資ができることが大きな武器になります。相場に長く居続ければチャンスは巡ってくるものです。ご自身の判断軸をもってどうか長くマーケットに居続けていただきたいと思います。


元ゴールドマン、ヘッドトレーダーの提言 まずは「三つの把握」、基本は「全世界株式」で十分 インベストメントLab 宇根氏インタビュー
陽和ななみさん、宇根尚秀さん

(中山 桂一)

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