“キング・オブ・ポップ”と呼ばれた伝説のアーティスト、マイケル・ジャクソンの半生を描く映画『Michael/マイケル』が大ヒット公開中だ。命日に当たる6月25日には、声出しやコスプレ、応援グッズの持ち込みが可能な応援上映も開催された。
この映画の見どころの一つとなっているのが、音楽映像の歴史を変えたとも言われる「スリラー」(83)のミュージックビデオ(MV)製作風景である。
当時のMVは新曲の宣伝素材という位置付けが強く、数分間の演奏シーンを中心とした映像が一般的だった。だがマイケルは「短編映画のような作品を作りたい」という構想を抱き、映画『狼男アメリカン』(81)を手掛けたジョン・ランディスを監督に起用する。
撮影は通常のMV製作を大きく上回る規模で行われた。特殊メーク界の第一人者リック・ベーカーが狼男への変身シーンやゾンビたちの腐敗した皮膚を表現し、マイケル率いるゾンビ軍団の革新的なダンスは、振付師マイケル・ピータースとの綿密なリハーサルによって完成した。
恐怖とユーモア、そして正確無比なダンスが融合した約14分の作品は、もはやMVではなく一本のショートフィルムだった。当初は黒人アーティスト主演の長尺作品ということもあり放送局側も扱いに慎重だったが、MTVでの放映をきっかけに世界的な社会現象となった。アルバム『スリラー』の売り上げは再び急上昇し、史上最高のセールスを記録したアルバムとして音楽史に名を刻んだ。
こうして「スリラー」のMVは、「ミュージシャンが映像で物語を語る」という発想を業界に定着させ、その後のMV制作の予算や演出手法を大きく変えることになる。
ところで、「スリラー」の全編には1950年代のB級怪奇映画への愛情もあふれている。『Michael/マイケル』の中でも、マイケル(ジャファー・ジャクソン)が母親(ニア・ロング)と一緒に『肉の蝋人形』(53)や『ハエ男の恐怖』(58)を見る場面が登場するが、いずれも主演は怪奇映画の帝王ビンセント・プライスだった。
プライスといえば、その美声と大仰な語り口で「スリラー」のナレーションを担当した人物。
また『雨に唄えば』(52)のジーン・ケリーや、『モダン・タイムス』(36)のチャールズ・チャップリンも映る。マイケルは、ケリーからはダンスとミュージカルの表現を、チャップリンからは独特の歩き方や身体表現を学んだと言われる。マイケルの創造力の根底には、常に映画への深い愛情があったのだ。
「スリラー」以降のマイケルのMVのキャリアは、「映画監督と組んで映像表現の限界を押し広げた歴史」そのものだった。
「今夜はビート・イット」(83)の監督はボブ・ジラルディ。本物のギャングたちが撮影に参加し、『ウエスト・サイド物語』(61)をモチーフにした世界観の中、対立するストリートギャング同士の抗争がダンスによって終結するという構成は、ギャング映画とミュージカルの融合だった。
「バッド」(87)では、『ウエスト・サイド物語』への憧れをさらに押し進める。監督は『タクシードライバー』(76)や『レイジング・ブル』(80)ですでに有名だったマーティン・スコセッシ。約18分のショートフィルムとして製作され、若者のアイデンティティーや仲間との葛藤を描く青春映画の趣を持っていた。共演したウェズリー・スナイプスの出世作としても知られる。
「スムーズ・クリミナル」(88)は、映画『ムーンウォーカー』(88)の中核をなす作品であり、往年のギャング映画やフィルムノワールへの愛情に満ちていた。
マコーレー・カルキンも登場する「ブラック・オア・ホワイト」(91)では、ランディスと再びタッグを組み、世界各地の民族舞踊を取り込み、人種や文化の壁を越えるというメッセージを映像化した。特に終盤のモーフィング技術によって人々の顔が次々と変化していくシーンは、当時最先端のデジタル映像表現として大きな話題を呼んだ。
恋人を失った男の孤独を描く「フー・イズ・イット」(92)は、映像詩とも呼ぶべき作品だった。監督は、当時すでにMVやCM界で注目を集めていたデビッド・フィンチャー。後の『セブン』(95)や『ファイト・クラブ』(99)につながる、都会的でスタイリッシュな映像美がこの時点ですでに見られる。
「リメンバー・ザ・タイム」(92)は、古代エジプトを舞台にした歴史スペクタクルだった。監督はジョン・シングルトン。エディ・マーフィやマジック・ジョンソンも出演し、ハリウッド大作を思わせるスケールで製作された。マイケルが黄金の砂へと姿を変えて消えるラストシーンは、当時のCG映像の象徴的なカットとして知られる。
「ゼイ・ドント・ケア・アバウト・アス」(96)では、社会派監督スパイク・リーと組み、二つの異なるバージョンのMVが製作された。
振り返れば、「スリラー」が切り開いた「音楽映像は映画になれる」という可能性を、マイケルはその後20年近くにわたって拡張し続けたことになる。第一線の映画監督たちがマイケルの作品に集まったのは偶然ではない。彼らにとってマイケルのMVは単なる宣伝映像ではなく、「数分間で一本の映画を作る」という挑戦の場でもあったのだ。
(田中雄二)

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