福田正博 フットボール原論
■サッカー日本代表がW杯のグループステージを突破。森保一監督の選手への信頼に基づいた起用がチーム一丸の戦いを生み出し、それが強みになっていると福田正博氏は指摘する。
【積み上げの象徴だったオランダ戦の2点目】
森保一監督のもとで積み上げてきたものを、存分に発揮したグループステージだった。
日本代表は初戦でオランダと2-2で引き分け、チュニジアを4-0で圧倒。スウェーデンとは1-1で引き分けて、グループ2位で決勝トーナメントに駒を進めた。
スタメンはオランダ戦とチュニジア戦で4人を替え、チュニジア戦からスウェーデン戦では3人。5人交代枠もしっかり使ってチーム一丸となって戦えたのも、選手層に厚みを持たせてきたからだ。森保監督は2017年10月に東京五輪代表監督に就任し、2018年7月からはA代表も率いてきた。そのなかで多くの選手たちを日本代表に招集し、成長への刺激を与えてきた。
だからこそ、このW杯では遠藤航、南野拓実、三笘薫という主力選手たちを欠き、久保建英もオランダ戦でのケガで2戦目以降はベンチ外という状況にあっても、臆することなく戦えた。過去の日本代表のようにスタメン11人とベンチに座る選手で力の差が大きければ、チームはガタガタに崩れていたはずだ。
「誰が出ても遜色なくやれる」「チーム一丸となって戦う」と、言葉にするのは簡単だが、実践するのはかなり難しい。だが、森保監督のもとでは単なるスローガンではなく、実際にいろんな選手の組み合わせでコンビネーションを発揮でき、これが強みとして機能している。それは森保監督が特定の個人に依存しないチームをつくりあげてきたからだ。
ここまでのチームづくりの象徴的なシーンだと感じたのが、オランダ戦の2度目の同点ゴールのシーンだ。
前回のカタールW杯に至るまでの日本は、「いい守備からいい攻撃」をコンセプトにしてチームづくりを進めた。ただし、代表活動の限られた時間のなかでは、チームづくりの優先順位の兼ね合いでセットプレーは後回しにせざるを得なかった。
それが今回は前回W杯メンバーを基盤にできたことで、セットプレーにも時間を割けるようになり、前田遼一コーチなどのもとで磨いてきた。それが実を結んだのが、オランダ戦のコーナーキックからのゴールだったのだ。
あのゴールは、伊東純也が蹴ったボールをクリアしにいくフィルジル・ファン・ダイクの動きを、鎌田大地がうまくブロックした。ファン・ダイクの頭がわずかに届かなかった後ろから、小川航基がヘディングしたものだ。身長195センチの世界屈指のセンターバックに対し、技術とアイディアで物理的ハンデを上回れることを示してくれた。
空中戦で言えば、日本の選手個々が海外クラブに所属し、Jリーグではなかなか経験を積めない身体サイズが大きな外国人選手と日常的に空中戦をするなかで、ヘディングで競り負けない技術を磨いてきたことも大きい。スウェーデン戦ではロングボールを蹴り込んでこられる展開になったが、慌てずに対応できたのはそのおかげだろう。
【選手たちへの信頼を感じる起用】
森保監督の立ち居振る舞いや采配でも、この4年間で得た自信が今回はよく表われている。前回W杯でドイツ、スペインを破り、その後もドイツに勝ったのをはじめ、直近ではブラジル、イングランドに勝利した。そこで得た"選手たちへの信頼"があるのだろう。
それが顕著だったのが、オランダ戦の右ウイングバック(WB)のスタメンに堂安律を起用したことだ。チームのために献身的に守備をする選手だが、背番号10が物語るように堂安はもともと攻撃的な選手だ。
その堂安が対峙したのが、左ウイングのコーディ・ガクポ。所属のプレミアリーグ・リバプールでは、2022年からの180試合で50得点をマークする世界トップクラスのアタッカーだ。
ガクポを自由にさせないために、より守備力の高い選手を右WBに置く手はあったが、森保監督は堂安をいつも通りにスタメンに起用した。堂安も右シャドーの久保建英のサポートを受けながら、ガクポに必死に食らいついて期待に応えた。
行き当たりばったりとか、いつもと違うよそ行きの選手起用をしない。それが森保監督の築いてきた日本代表ということだろう。
今回のW杯は出場国が48カ国に増えた兼ね合いで、グループステージの試合間隔は5日前後が確保されたため、他国はメンバーを固定して戦っているケースが多い。そのなかで森保監督は毎試合スタメンを入れ替えながら多くの選手をピッチに送り出した。グループステージ3試合を終えて、日本のフィールドプレーヤー23人のうち町野修斗以外の22選手は、一度は試合に出場している。
つまり「チーム一丸となって戦う」を具現化しながら、選手個々のコンディションを見つつ「今日勝つ」と「次の試合の準備」を同時に遂行してきたのだ。
【長友の起用で日本の勢いはさらに加速】
それでも長友佑都をスウェーデン戦のピッチに送り出したのは驚きだった。1-1の試合終盤で投入され、試合を引き分けで終わらせることに貢献した。
もちろん、しっかりプレーできることが大前提でメンバーに選ばれているのだが、外野はなかなかそう見ないものだ。点差がついたチュニジア戦ではなく、スウェーデン戦の、しかも相手に押し込まれた展開での投入だった。ここに森保監督の選手への信頼も見てとれる。
そして、長友の起用によって、勝点1を得た以上の意義が日本にもたらされるのは間違いない。超ポジティブにチームの士気を高め、チームのスローガンである「共闘」の精神を行動で示せる長友が、ブラジル戦に向けた日本の勢いをさらに加速させてくれるはずだ。
グループステージを1勝2分け、7得点3失点で2位通過した日本にとって、いよいよ真の意味でのワールドカップが始まる。故障者がいたり、試合間隔が中3日でブラジルより1日少ないなどの不安材料はあるものの、苦しい状況になるほど一致団結して戦える日本が、世界を驚かせる結果を残すことを信じてやまない。
>>後編「ブラジル戦勝利のポイントとキーマンは?」につづく

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