今週末のイギリスGPは、久々に非難の声が吹き荒れるレースになるかもしれない。

 2026年型パワーユニットにとって、最も厳しいサーキットのひとつがシルバーストンだ。

長い全開区間があり、コプスやマゴッツ~ベケッツといった高速コーナーの走り方によっては、その先のストレートでエネルギーが足りずにディプロイメントが切れる。

 鈴鹿の130R手前で車速が落ちていき、シケインまで車速とエンジン回転数が戻らないまま走り続けるという致命的な挙動が、このシルバーストンでも起きる可能性が高い。

【F1】アロンソも苦笑い「今年は充電スタンドだよ」 超高速シ...の画像はこちら >>
 アストンマーティン・ホンダのフェルナンド・アロンソはこう語る。

「ここからの2戦は、去年までとはまったく違ったものになるだろう。これまではシルバーストンは本当にすばらしいサーキットだったし、特にグラウンドエフェクト規定のマシンには最高に合っていたけど、今年のマシンではまったく違って、ドライブしていても楽しくないだろう。

 シミュレーターで走ったかぎりでは、本当に悲しい結果になってしまっている。ドライバーにとっても、ファンにとってもだ」

 時速200kmを超える高速コーナーが連続するセクションを、マシンの限界と戦いながら抜けていくのがシルバーストンだった。勇敢なドライバーが差を生み出せるサーキットだ、と形容するドライバーもいる。

 しかし、今年は違う。

 コーナーに到達する前にエネルギーが切れ、350kW(約475馬力)の電動アシストがなくなって車速が落ちた状態で、コーナーにアプローチすることになる。つまり、これまでのような限界を攻める興奮は得られないだろうというのが、シミュレーターで準備をしてきたドライバーたちの感想だ。

「今まではとてもチャレンジングで、すごいGフォースを感じながら飛び込んでいったことを身体が覚えているのに、今年はそれよりも格段に遅いスピードでコーナリングしていくことになる。

かなり違う感覚だ。

 ストレートエンドのコーナー手前でディプリート(ディプロイメント切れ)が起きれば、最悪の気分になる。今年はチャージングステーション(充電スタンド)だよ(笑)」(アロンソ)

【高速セクションがコーナーになった】

 アロンソが「充電スタンド」と揶揄したのは、高速コーナー進入前に電気を使い果たすと、マシンは減速せざるを得ず、その減速中に回生ブレーキでバッテリーを"充電"することになるからだ。攻めるべき場所が、電気を溜めるための場所に変わってしまう──それが2026年型シルバーストンの姿だ。

 この問題については、これまでに散々言われてきた2026年パワーユニット規定が原因であり、パワーユニットメーカーがどうにかできることではない。

 限られたエネルギーをいかに使うか、それが悩ましい課題のひとつではある。

 ホンダの折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネジャー兼チーフエンジニア(GM)はこう説明する。

「ドライバーがスロットルをどのくらい踏み込むか、予想するのが一番難しいですね。しかも、今回はスプリント週末でフリー走行が1回しかないので、そのなかでどこまで合わせ込めるか。

 その対策として、アストンマーティンのファクトリーにあるドライビングシミュレーターで準備をしてきました。しかし、マシンや天気の状態によってタイヤのグリップ力は変わってきますので、そうすると踏み方も全然変わります。

 事前に予想はしますが、やっぱり走ってみないとわからない部分はすごく大きいです。FP1のなかでいかに(持ち込んだディプロイプランとの)差分をアジャストしていくかが、今週末のチャレンジだと思います」

 かつては全開で抜けていくことができたターン1~2や、コプス(ターン9)、マゴッツ~ベケッツ(ターン10~12)といった高速セクションが、今年は"コーナー"になる。

それも場合によっては、1速落とさなければならないほど車速を落としてアプローチすることになる。

 それはドライバーたちが絶賛するかつてのシルバーストンとは、まったく異なるコース特性だ。

 1週間前のオーストリアGPで、アストンマーティン・ホンダのパワーユニットは挙動がラップごとに一貫したものになり、ドライバーたちからも「限界まで攻めやすくなった」と評価された。刻々とマシンやタイヤ、路面状況が変化していく決勝には、予選と違う難しさもあるが、ドライバーからはポジティブな評価が得られたという。

【明るい雰囲気が漂っている理由】

 しかしシルバーストンでは、またまったく別の挑戦に直面することになるというわけだ。

「(オーストリアGP)決勝のあとにドライバーに聞いたかぎりでも、『決勝も一貫性がある』とポジティブなフィードバックでした。ただ、シルバーストンはまた違うサーキットで、コーナーの特性も異なるので、再びポジティブなコメントが出るかというと、FP1を走って、そのなかでどこまでデータを合わせ込めるかにもよります。

 オーストリア(のコース)は比較的、合わせ込みやすいですが、ここ(シルバーストン)はすごく難しい。なので、走ってみないとわからないところです」(折原GM)

 サーキットから道路1本挟んだところにファクトリーを構えているアストンマーティンにとって、シルバーストンは地元レースだ。

 だからといって何かが変わるわけではなく、圧倒的に最下位というポジションは変わらないだろう。何もアップデートはなく、2戦後のハンガリーGPに大型アップデートを投入するため、ファクトリーはフル稼働中だ。

 地元レースで苦戦にあえぐことは火を見るより明らかだが、チーム内にはこれまでになかったほど前向きで明るい雰囲気が漂ってきている。

 空力面のアップデートパッケージの投入が2戦後のハンガリーGPと決まり、自分たちが抱えている問題点の改善が目の前に見えてきたこと。そしてパワーユニットのアップデート投入も夏休み明けのオランダGPに決まり、それらふたつが揃って本領を発揮するようになれば、中団グループに追いつけそうな手応えがつかめてきていること。

 ポジティブな未来があれば、このシルバーストンの苦しい週末も2戦後の飛躍の糧(かて)にすることができる。シルバーストンが突きつける厳しい要求に揉まれて対処していくことで、アップデート投入までに改善しておくべきことがさらに洗い出せる。

 苦しいなかにもトンネルの出口がはっきりと見えているからこそ、全力で突き抜けられる。アストンマーティン・ホンダにとってのイギリスGPは、そんなレース週末になりそうだ。

編集部おすすめ