森保ジャパンの実像(中編)

 ブラジルに先制しながら逆転負けを喫し、ラウンド32で姿を消すことになった日本代表。だがそのブラジル戦は、それまでの4年間の「結果」でもあった。

現地で取材を続ける杉山茂樹、浅田真樹の両氏が、決勝トーナメント1回戦敗退までのプロセスを語り合う――。

浅田 ブラジル戦の試合後、選手たちは「ここまで攻められたことはなかった」と言っていました。3月のイングランド戦でもずっとボールを持たれるなど、優勝候補のチームとやった場合、ある程度ボールを持たれる展開になるのは、みんな想像できていたと思うので、「それにしてもここまで何もできないのか」ということだと思います。とにかく後退して必死に守ってクリアしかないとあっては、どこかでやられるのは当然でしょう。「マイアミの奇跡」みたいなことはそんなに都合よく起きない。

 あえて言えば、先制するのが早すぎたかもしれません。ブラジルの攻撃ももたついていて、スタンドでブーイングが起き始めていた時間だったんです。あのままずっと0-0でいって、佐野海舟のゴールが70分か80分に決まっていたら、もしかしたら違う結果になっていたかもしれません。早い時間にブラジルに本気になられて、成すすべもなく力負けしました。

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杉山 イングランド戦も最後は守りっぱなしになったけど、逃げきれたわけです。前回大会のスペイン戦やドイツ戦もそういうところがあります。それに味をしめたのかもしれませんが、いまのサッカーでは、ひたすら守って逃げきれる確率は低いんです。
後ろに下がって守りきるということができにくくなっていて、王道を行くチームはやりません。それをやって負けた時に選択ミスを問われるからです。もしブラジルに逃げきれたとしても、あのサッカーをやっている限りひとつ上のランクには行けない。サッカー的に得るものはない。あのブラジル戦に対して「惜しかった」「よくやった」と言うのは、サッカーが非常に弱い国の話だと思います。

【「負けるにしても......」という悔い】

杉山 ラウンド32でフランス対スウェーデン戦を観ました。やはりフランスは圧倒的に強かったのですが、スウェーデンは0-3にされても、最後まで1点を取ろうと攻めていました。ああいう試合は観客から拍手をもらえる。

 もうひとつ言いたいのは、ブラジル戦のような試合をすると、両国の差がわからなくなってしまうことです。ただ「ブラジルは強かった」で終わり。日本はどのへんまで行っているのかを測るためには、ちゃんとサッカーをしないといけない。昔は40台だった日本の偏差値がいまは55、56に上がったかもしれないと言うなら、偏差値60のブラジルに対して「57ぐらいあるんだぞ」という見せ方をしないといけないのですが、あれでは日本が強いのか、弱いのかもわからないわけです。

浅田 それも、1-0を守りきろうとしたならまだわかります。

それで試合終了直前にあのゴールが決まって同点にされたのなら、仕方がない。でも、1-1に追いつかれた時点で、勝つためには点を取らなければいけないのに、それをほぼ放棄しました。そうなるともう延長も守ってPK戦を目指すしかなくなってしまった。

杉山 後半21分に中村敬斗と堂安律を下げて菅原由勢と鈴木淳之介を入れた瞬間、もうベタな5バックでいくしかなくなった。選手たちにも「もう下がるしかない」というサインになったことでしょう。それでは選手も攻めません。

浅田 パンチを出したら結果的にはノックアウトされるかもしれないけど、なぜそれをしなかったのか。それを言い出すと、杉山さんが言った、それをやるためのメンバー選考をしなかったという話に戻ってしまうけど、それも含めて「負けるにしても......」という悔いは残ります。

【カタール大会の経験はどう生かされたのか】

杉山 ひと言で言えば、負け方が恰好悪すぎました。日本は、2006年ドイツ大会で玉田圭司のゴールで先制して1-4で敗れた時より、これだけ差を詰めたというところを見せなければいけなかった。試合を観ているのは日本人だけではありません。日本対ブラジルは、ブラジルはもちろん、アメリカでも多くの人がテレビで観ていました。ブラジル人には「日本は負けたけどだいぶ強くなったな」と思わせなければならなかったし、それ以外の国の人にも日本のサッカーを宣伝するいい機会だったはずです。

森保一監督は「勝つことが最大のプレゼント」と言いますが、負けたらどうするんだろう、と。そもそも勝つ可能性が低いブラジルに、負けた時のことを考えていないのだろうかと思います。

 だから、ブラジルに敗れたこと自体は結果にすぎない。ここに至る4年間を検証することこそ重要ではないかと思います。

浅田 森保ジャパンのこの4年間を振り返ると、カタールワールドカップでドイツ、スペインに勝ったというけれど、言ってみれば守り倒したわけです。前半からボールを持たれて攻められまくって失点。それが、後半はイチかバチかで攻めだるまになって反撃すると、たまたまうまくいって逆転することができた。ただ選手たちからは、このサッカーでは進歩はないという基本的なスタンスが感じられました。

 そこからどう進んでいくのかというのが、本来ならこの4年間であるべきだったはずです。実際、それを目指していた時期もあったとは思うけど、最終的には同じようなところに戻ってしまった。4年前のワールドカップの経験はどう生かされたのか。個々の選手は成長したはずなのに何をやっているのか。

「結局、これですか」という印象は否めません。

杉山 続投の記者会見の際、森保監督の隣に座っていた当時の反町康治技術委員長は「次の4年間は攻撃的にいくようにお願いした」と言っていました。あれはいったい何だったのか。アジアカップまでは4バックをやっていたのがだんだん3バックばかりになっていき、そのうちに反町氏も退任して、全然違う方向に向かい始めた。

 あの約束はどうなったのかも問題だけど、それについて誰も何も言わないことが、より問題だと思います。堂安や久保建英といった4年前からいる選手は、ブラジル戦をどう思ったか。彼らには思うところがあるはずだけど、選ばれる側だから何も言えないのでしょう。でも、表情を見たら何となくわかります。あのサッカーはやっていても面白くないんだから。

【「目標は優勝」としたことの是非】

浅田 そういう選択をしたにもかかわらず、「目標は優勝」などと言うから話がややこしくなる。

杉山 あのサッカーで優勝なんてできないということは、これまでサッカーを見てきた人はわかるでしょう。ワールドカップのダークホースにさえなり得ない。

ダークホースはもっといいサッカーをします。ノルウェーやモロッコはもうダークホースとは言えないかもしれないけど、その下ぐらいに位置するチーム、一発何かやるんじゃないかというところに日本は入りたかったけど、あのサッカーではあり得ない。

浅田 「目標は優勝」と公言しておいてラウンド32で負けて、それで続投要請という話が出てくるのは意味がわかりません。野球のWBCで「目標は優勝」と言いながら東京ラウンドで敗退したら、「惜しかった」という話にならないでしょう。「あそこでブラジルに当たったのは運が悪かった」というのは、目標がベスト8の時の言い訳です。「優勝する」というのはブラジルに勝つということ。そこで負けたことに対する反応の鈍さにはちょっと驚きます。結局、日本サッカー協会も本気で言っていたわけじゃなかったのね、という気がします。

杉山 森保監督が「優勝」と言っても、サッカー協会の山本昌邦技術委員長兼ナショナルチームダイレクターや宮本恒靖会長が「協会としてはベスト8が目標」「個人的にはベスト8でいいと思う」と言ってもよかったと思いますよ。そういう発言もないから、大手メディアは「おいしい言葉をいただきました」とばかり、「優勝」「優勝」と言い出した。

「ベスト8が無理だから優勝と言うようになった」という話をしましたが、一方で、森保監督はもしかしたら本当に優勝できると思っていたのかもしれないという気もします。前回大会でドイツ、スペインに勝って、親善試合でブラジル、イングランドに勝って、その流れで「いける」と思ったのかもしれない。

だとしたら、あまりにも世界のサッカーを知らないのではないかと話になってしまいます。

 守田英正をワードカップの本大会登録メンバーから外した時に、会見でその理由について、ポルトガルは「5大リーグでないから」と説明しましたが、この人はチャンピオンズリーグを観てないなのかなと思いました。日本でテレビを見ていてもわからないこと、現地に足を運ばないと肌で感じられないことはあります。その意味で、世界がどれだけ強いか、わからなかったのではないかと疑ってしまうほどです。

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