森保ジャパンの実像(後編)
「ワールドカップ優勝」を目標に掲げた森保ジャパンの旅は、そのかなり手前で終わることになった。「史上最強」とも言われた日本代表にとって、いま何が課題になっているのか。
選手たちも「優勝」と言っていたじゃないですか。チャンピオンズリーグに出る選手も増えて、彼らはレアル・マドリードやバルセロナ、マンチェスター・シティ、リバプールといったところはまたちょっとレベルが違うということを肌で感じている人たちのはずです。そこから「優勝を狙っている」という話が当たり前に出てきてしまう。「何を言っているんですか。トップの選手たちはこんなものじゃないですよ」という話になってもいいと思うんだけど、選手も「優勝」になってしまった。
杉山 優勝は無理だということはみんなわかっていると思うけど、なかなか言えないのかな。テレビに出てくる元日本代表の解説者たちも、人気商売だから、「優勝なんてできるわけがない」とは言えないんでしょう。そうするともう「優勝」が増幅していくしかない。それを止める仕組みがいまの世の中にはないんですね。
【ワールドカップ予選をどう戦うべきか】
杉山 「言わない」「言えない」ということに関してつけ加えると、似たようなことは、たとえばワールドカップ予選でも起きています。アジアの出場枠が増えたなかで日本が勝ちまくり、それも「日本強し」のイメージが強くなった理由のひとつですが、そもそもあれだけのメンバーで戦う必要があったのかという疑問があります。「このあたりのメンバーで戦っても、最悪アジア3位ぐらいで出場権を獲得できるだろう」という考え方ができれば、本大会から逆算していろいろな選手起用にトライすることで、もっと選手層を厚くすることはできたはずです。でも予選の期間中、そういう議論はほとんどまったく聞こえてきませんでした。
浅田 ヨーロッパの選手は試合数が増えて負担が大きくなっているのに、毎度、ベストメンバーを招集して長距離移動をさせている。ワールドカップを前に最終的にあれだけのケガ人が出たのは、全部が日本代表の責任だと言うつもりはありませんが、まったく責任がないとは絶対に言えない。もう少し選手を守るということを招集においても考えるべきでした。そのツケが最後になって回ってきたと、少なくとも日本サッカー協会は考えないといけないでしょう。特に筋肉系に不安を抱えている選手は慎重に扱わないといけない。
そもそもワールドカップ予選を、きれいな戦いをして全勝で突破する必要はまったくない。予選を戦うことが強化につながると言う人もいますが、相手との力関係を考えると難しいでしょう。もちろん試合内容が悪ければ我々は「出来が悪い」と言いますが、そこはうまく立ち回らないといけない。
杉山 日本代表がホームで試合をする際の選手の移動距離は世界でも有数の長さだということを、選ぶ側がどれだけわかっているのか。選ばれる側の選手たちからは「行きたくない」とは言い出せないでしょう。だから本来は、森保一監督が招集したいと思っても、人権的な意味でも山本昌邦技術委員長兼ナショナルチームダイレクターや宮本恒靖会長が止めなければいけないのですが、結局、オールスターキャストが代表戦に参加することは、日本のサッカー産業にとってはこのうえなくうれしいことなんです。だから、サッカー産業に組み込まれている人は「三笘を呼ぶ必要はない」とは言えないわけです。こういう日本代表をとりまく構造自体、そろそろ見直すべき時期にきていると思うし、来年のアジアカップなども、もうベストメンバーを揃えて臨む時代ではないと思います。
【日本代表に対して発想の転換を】
浅田 ブラジル戦後、「個の力を上げなければいけない」と話す選手がいましたが、個の力を上げるなら、アジアカップよりヨーロッパで活躍したほうがいい。
杉山 メディアが「日本代表を落選」などと言うのも時代にそぐわないですね。紅白歌合戦じゃないんだから。
浅田 その話は五輪代表にも通じます。パリ五輪に鈴木唯人や鈴木彩艶がクラブの要請で出場できなかったというのは、残念な話ということになっているけれど、ヨーロッパのクラブで頑張っていればそれでいいという話です。
「4年をかけて代表チームをつくっていく」という発想自体、時代にそぐわなくなっているのかもしれません。考え方を変えていかなければいけないのかもしれない。もちろんチームコンセプトみたいなものはしっかり持つ必要はあるけど、選手はどんどん入れ変わっていっていい。感覚的に、同じメンバーでたくさん試合をやったほうがコンビネーションは熟成されるという話になりがちだけど、それも違ってきているのかもしれません。
杉山 「コンビネーションの熟成」は死語でしょう。うまい選手同士でやれば新しいコンビネーションが生まれる。おなじみのメンバーを歓迎して、新しい人が加わることをネガティブに報じることは、やめたほうがいい。
浅田 同じ監督と選手でやっていたから限界を感じてしまい、「やはり守って勝つことを考えないといけない」となった結果が、今回のワールドカップだったとも言えるかもしれません。4年間のチームづくりを考えてしまったから難しくなった、という部分もあるのではないでしょうか。監督をコロコロと変えるほうがいいとは思わないけど、もう少し柔軟にチームをつくっていかないと、結局はどこかでマンネリも息切れも出てくる。
杉山 根本的に考え直したほうがいいことはいくつもあると思います。そのためにもサッカー協会の会長を筆頭に日本サッカー界の幹部には、今回のワールドカップについて時間をかけて深く反省していただきたい。9月に親善試合があるからといって、「そのために新監督を選ぶ必要がある」なんてことはまったくないですから。
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