F1第11戦ハンガリーGPレビュー(前編)

「通過したぞ、フェルナンド! Q1通過だ、よくやった!」

 7月25日の土曜に行なわれたハンガリーGP予選。フェルナンド・アロンソが今シーズン初めてQ1の壁を突破した瞬間、アストンマーティン・ホンダのピットガレージは沸いた。

「よかった、みんなよくやった。次のアタックではもっと引き出せるはずだ、レッツゴー!」

 アタックを終えてピットに戻ってきたアロンソはコクピットのなかで、右手で小さくガッツポーズをした。

【F1】アロンソは喜びを抑えて小さくガッツポーズ アストンマ...の画像はこちら >>
 まだ大喜びする場面ではない。大喜びするべきではない。

 しかし、アストンマーティン・ホンダにとってはあまりに大きな前進であり、それだけ大きな苦難を乗り越えてきたということを物語っていた。

 水曜の深夜にマシンが届き、木曜も日付が変わる夜半にパーツの到着を待ってからの作業。ファクトリーから何度も、何度もパーツを運び込み、現場のスタッフも夜間作業禁止時間の適用除外措置を使って作業を行ない、なんとか金曜フリー走行に2台の"新車"を間に合わせた。

「キャラクター自体が大きく変わったというわけではなくて、単純にダウンフォースが増え、コーナリング中のグリップレベルが上がった。コーナーごとの挙動や、コーナーの入口から出口までの挙動が今までよりも少し安定していて、許容範囲が広くてドライブしやすくなっている。今まではドライブするのがトリッキーだったけど、ドライブしやすくなっているのは間違いない」

 Q2に進出したのち、最終的に予選を16位で終えたアロンソは、目の前の結果に一喜一憂することもなく、冷静に淡々と語った。

 それでも、圧倒的な最下位ポジションから抜け出し、ライバルと戦える位置まで挽回できたことは、たしかだった。しかも、「キャデラックと最下位を争えれば御の字」というほどの差がついていたポジションから、ウイリアムズを飛び越え、ハースと戦えるようになった。

【0.01秒を縮める議論も白熱】

 争うのが何位であろうと、ライバルと戦えるということがアドレナリンを与えてくれる。それがレーシングドライバーであり、レース屋たちだ。

「バイザーを閉めて予選アタックに向かう時に、アドレナリンはしばらくずっと感じることができていなかった。どんなことをしようとも、グリッド最後列というのは変えられない状況が続いていたからね。だから、こうしてライバルと戦えるようになったのはうれしいよ」(アロンソ)

 それは、チームのエンジニアやメカニックたちも同じことだった。

 ホンダもこのアップデート投入を実現させるため、多大に協力し、チームを支えてきた。

 それだけに、「金曜の朝に走行できる状態までこぎつけた時には感慨深いものがあった」と、ホンダの折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネジャー兼チーフエンジニアは語る。セッションが始まれば、パフォーマンスを追求するチームの熱にも変化を感じたという。

「チームがものすごくがんばって準備してきたのを見ていたので、まず無事に2台走り出した時は感慨を覚えました。タイムを見ても、今までずっと下のほうにいたのが上のほうに来て、戦いの集団のなかに戻って来たのをすごく感じました。

 前とのタイム差も詰まってきましたので、ボディワークのクーリング設定(※)を議論する時も、『ここをもう少しがんばれば、あと0.01秒は縮められるよね』という会話にも熱を帯びてきます。

※マシンのカウル(外装・ボディワーク)の開口部を調整して、エンジンやパワーユニット(PU)などの冷却レベルをセッティングすること。

 今までは1秒離れたところを走っていたので、当然(オーバーヒートの)リスクを取って0.01秒を詰めに行くのはあまり意味がありませんでした。

ですけど、こういうタイトな争いの集団のなかにいると、やはり熱量が違いましたね」

【次のステップに進む準備は整った】

 開発陣が少しでも多くのアップデートを投入し、現場のメカニックたちが遅くまでマシンを組み立て、エンジニアたちがセットアップを煮詰めて0.01秒単位でタイムを削り、ドライバーたちが限界まで攻めてライバルの前に行く──。

 それが「レース」だ。アストンマーティン・ホンダは、チーム全員が一致団結して、ようやく再びレースができる場所まで戻ってきた。

「我々は『レースに戻ること』を最大の目標に据えて今週末のレースに臨んだが、それは達成できたと思う。アップデートパッケージはきちんと機能し、次のステップに進む準備は整ったと言えるだろう」

 アストンマーティンのチーフトラックサイドオフィサーのマイク・クラックがそう語るように、この6カ月間、苦しみに耐えながらやってきたことが正しかったと、ついに証明された。

 その結果として、ライバルたちと戦える場所まで戻ってこられた。アストンマーティン・ホンダにとって、それが何よりも大きかった。

◆つづく>>

米家峰起●取材・文 text by Mineoki Yoneya

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