花巻東といえば、大谷翔平(ドジャース)の母校であると同時に、原則として岩手県出身者のみを受け入れる「オール岩手」の選手構成で知られていた。
しかし、近年は劇的な方針転換が図られた。
花巻東の視野は、「県内」「県外」の小さな枠にとらわれていない。アメリカやヨーロッパからの留学生も受け入れ、多様な文化が混じり合っている。新時代の到来を予感させる、スケール感のある野球部と言える。
【かつては野球留学生=ヒールの時代も】
花巻東の転換に際して、ひとつ思い出される光景があった。
今から14年前の夏。岩手大会決勝戦終了後の閉会式は、異様な雰囲気に包まれた。直前の準決勝で花巻東のエース・大谷翔平が最速160キロを計測したこともあり、盛岡大付との決勝戦は多くの観衆とメディアが押し寄せた。
球場に集まった多くの人が、大谷がどんなパフォーマンスを見せるのかと、期待に胸を膨らませていたはずだ。ところが、試合は打倒・花巻東に燃える盛岡大付が優位に進める。物議を醸す判定も花巻東にとって逆風になり、試合は5対3で盛岡大付が勝利した。
閉会式の主将インタビュー中に「事件」は起きた。
藤田は後年になって、観客から「ガイジン部隊」という声も浴びたと明かしている。学校には誹謗中傷のファックスが多数届いた。これから岩手代表として甲子園に向かうチームに対して、あまりに寂しいはなむけだった。
高校野球は、地域性が強調される文化だ。馴染み深い地元出身選手の多いチームが、人気を集めるのは理解できる。その一方で、「野球留学生」と呼ばれる越境入学生がヒール扱いされる風潮も根強かった。
あれから14年の時が経ち、時代は変わりつつある。野球留学生に対する世間の風当たりは、やわらいできたように感じる。
地元選手が集まるチームも、越境入学生が集まるチームも、「その土地を選んだ」という意味では共通している。
花巻東の門戸開放は、岩手の魅力を全国へ、そして世界へ発信することにもつながっていく。
【ドイツからの留学生も入部】
それでは、実際に高校生活を送る選手たちは、どんな実感を得ているのだろうか。
花巻東の背番号9をつけ、内外野をこなせるユーティリティプレーヤーの大和田瞬平(3年)は、岩手県出身。入学当初は「どうなるのかな?」と不安もあったと明かす。
「自分の同期から県外出身者が増えてきて、1学年下からかなり割合が増えました。最初は関西弁を間近で聞いたことがなかったので、ちょっとビックリでした。方言があまり聞き取れないこともあって、戸惑いました。自分は今まで県外の人と関わったことがなかったんですけど、いろんな地域からいろんな性格の人が集まってきて、『面白いな』と感じるようになりました」
アメリカ・カリフォルニア州から入学した宇野太陽(1年)とは、学校生活では英語でコミュニケーションをとることもある。世界で通用する語学力を身につけるためだ。大和田も「なるべく英語で会話をしようとしています」と証言する。
ドイツ・ミュンヘンから半年間の予定で留学したマイヤー拓(2年)という選手もいた。大和田は「マイヤーはまったく日本語を話せないわけではないですが、こちらが教えるなどして交流していました」と語る。
岩手にいながら、さまざまな国と地域で育った人間と交流できる。開かれた高校生活を過ごしているわけだ。
そもそも「オール岩手」時代から、さまざまな人材が集う土壌はできていた。岩手と一口に言っても、本州最大の面積を誇る県なのだ。同じ岩手県出身でも、内陸部と沿岸部では雰囲気や言葉が微妙に異なると大和田は言う。
「自分は内陸部出身なんですけど、沿岸部出身の人は何となく雰囲気や言葉のイントネーションが違うので、すぐに『沿岸部出身だな』とわかります」
【おとなしいと感じたことはない】
それでは、岩手県外から花巻東へやってきた選手たちは、どんな感想を抱いているのだろうか。とくに文化の違いがありそうな、近畿地区出身者に聞いてみた。
大阪府出身の本多皓晶(てるあき/2年)は、北摂シニア時代にジャイアンツカップでベスト4という実績がある。関係者を通じて花巻東との縁が生まれ、岩手へとやってきた。
「花巻東は野球だけじゃなく、人間性を重視すると聞いて魅力に感じました。社会で輝ける人間になるために、いい環境だと思いました」
一般的に「東北人はおとなしい」と見られがちだが、本多は花巻東の選手に対して「おとなしい」と感じたことはないそうだ。
「練習中から赤間さん(史弥/3年/岩手県出身)がチームに対して強く求める声を出しているのを聞いて、迫力を感じました」
むしろ岩手県出身者から影響を受け、自然とイントネーションが岩手なまりになることもあるそうだ。岩手の魅力について聞くと、本多はこう答えた。
「自然が豊かなところだと思います。県外出身だからといって嫌な思いをしたこともないです。花巻東に入らなければ縁のなかった土地かもしれませんが、すごくいい環境で学ばせてもらっています」
ややおっとりした性格の本多は、「地元にいた時から『関西人っぽくない』と言われていました」と笑う。一方、2年生の控え選手ながら、高校通算14本塁打をマークしている川本健人は、佐々木洋監督から「関西弁が強い」と苦笑される選手である。
川本は兵庫県出身で、アメリカ人の父をもつ。幼少期は英語も話せたが、「今は忘れてしまいました」。そこで、帰国子女の宇野から英語を教わっているという。
「一緒にウエイトトレーニングをする時に、洋楽を流して聴いています。(宇野)太陽も洋楽好きで、話が合うんです」
【標準語を使えたほうがいい】
また、川本は英語とともに「標準語」の習得にも勤しんでいるという。
「高校を卒業したあとに大学に行ったり、就職したりすると、標準語が使えたほうがいいと監督さんからアドバイスをもらいました。本多と比べると、自分はまだ関西弁が出ちゃうんですけど。でも、岩手で過ごした影響なのか、『言葉が柔らかくなった』と言われますね」
関西と東北では、ノリが違うのではないか。
「でも、今はこっちのノリも楽しいですよ。いろんな文化を経験した人が集まっていて、一人ひとりに個性があって。それだけチームが豊かになっていくと感じます」
花巻東の選手たちの話を聞きながら、私はかつて野球留学生の取材をするなかで聞いた、ある人物の言葉を思い出していた。
「どこから来たかが問題なんじゃない。どこで汗を流したかが大事なんだ」
この言葉は盛岡大付の元校長・赤坂昌吉さんが、越境入学生の受け入れに反対する学校職員に言い放ったものだという。
その地で汗を流す、すべての高校球児に拍手が送られる世界であってほしい。花巻東の変革を目の当たりにして、そう願わずにはいられなかった。
菊地高弘●文 text by Takahiro Kikuchi










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