F1 2026シーズン前半戦総括&後半戦展望
中野信治インタビュー(前編)

 新しいレギュレーションが導入された2026年シーズン前半戦で、一気にスターダムにのし上がったのは、メルセデスのキミ・アントネッリだ。F1デビュー2年目の19歳は、第2戦中国GPで初優勝を達成すると、前半戦の11戦中6勝を挙げてチャンピオン争いをリードしている。

 前半戦を盛り上げたもうひとりのドライバーは、41歳のルイス・ハミルトン。フェラーリ移籍2年目となる今シーズン、開幕から元気な走りを見せ、第7戦カタルーニャGPではフェラーリでのグランプリ初勝利を手にしている。

 若いアントネッリの躍進とベテランのハミルトン復活の理由とは? 後半戦、チャンピオン争いのカギを握るのは? 元F1ドライバーで解説者の中野信治氏に聞いた。

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【F1】ハミルトンが完全復活できた理由 メルセデス時代のスタ...の画像はこちら >>
 前半戦は大方の予想どおり、ワークスのメルセデスとフェラーリが優勝を争う展開となりました。ただ、多くの人は「ジョージ・ラッセルとシャルル・ルクレールの勝負になるんじゃないか」と予想していたと思います。実際はキミ・アントネッリとルイス・ハミルトンがドライバーズランキング1位と2位でシーズンを折り返すことになりました。 

 そこはある意味、うれしい変化でしたね。昨シーズン、フェラーリに移籍したハミルトンはマシンに合わずにとても苦しみました。でも、今年に入ると復調し、第7戦カタルーニャGPではフェラーリ移籍後の初優勝を挙げるなど、元気な走りを見せ続けています。

 19歳のアントネッリも、デビューを飾った昨シーズンはいい時もありましたが、けっこう苦しむ場面も多かった。伸びしろはありますが、メルセデスのエースとして成長するまでにはどれくらい時間がかかるのか、正直、未知数でした。

 しかし、第2戦の中国GPでF1初優勝を挙げると、勢いに乗って前半戦は11戦中6勝。

ランキング2位のハミルトンに50ポイント差、チームメイトのラッセルに59ポイント差をつけて、チャンピオンシップを独走しています。

【2026年は全員が横一線でスタート】

 今年からレギュレーションが大きく変わるなか、脂が乗っている28歳のラッセルがチャンピオン争いを有利に進めていくだろう、という大方の予想を完全に覆してしまった。

 その要因のひとつは、レギュレーション変更によってマシンの走らせ方が変わったことでしょう。その結果、アントネッリというドライバーの能力が引き出されてしまったと言ってもいいかもしれません。 

 でも僕は、シーズンが始まる前からアントネッリが活躍すると予想していました。もちろん半面では、ラッセルがチャンピオン争いの主役のひとりになるとも見ていましたが、やっぱり大きなレギュレーション変更は若いドライバーにとってはチャンスなんです。これまでの経験に左右されず、全員が横一線でスタートを切ることができますから。

 それに新しいレギュレーションのマシンは、従来のドライビングスタイルをずっと追いかけていると、絶対に速く走れない。開幕前のテストの時から、F1での経験が豊富なドライバーたちが新しいマシンに対して不満を口にしていましたが、若いアントネッリからネガティブな言葉を聞いたことがなかった。

 新しい環境をすんなり受け入れて適応していこうとするのか、それとも文句を言い続けてレギュレーションを変えようとしながら、何とか新たな環境に合わせ込んでいこうとするのか。この姿勢の違いは大きいと思います。気持ちの部分でもそうですし、従来までのスタイルにこだわってしまうと、適応するスピードが絶対的に遅れます。

 実際、オンボード映像を見ていると、アントネッリとラッセルの運転の仕方が明確に異なっています。

 エネルギーマネジメントの仕方は、基本的には一緒です。そこはPU(パワーユニット)サイドから「こういう使い方がもっとも効率的だ」というシミュレーションデータが出ていて、どこでアクセルを抜いて、どこでダウンシフトするかという細かい指示があると思います。それにドライバーは合わせ込んでいるはず。にもかかわらず、両ドライバーの間にはあれだけのタイム差が出てしまう。

 ラッセルのマシンには、PUに関連するソフトウェアのトラブルがあったようですが、オンボードの映像を見ていると、「それだけが原因ではないな」と感じるぐらい、アントネッリは今年のマシンにうまく対応しているんですよね。

【ダメなドライビングが意外と速い】

 あと、ハミルトンが復活したのも、すごくわかりやすい例だと思います。

 長く在籍したメルセデスでドライビングスタイルを築き上げてきたハミルトンですが、メルセデスのマシンはリアがしっかりとグリップしているので、リアの安定感を信じて思いきってコーナーに突っ込んでいくことができました。

 ところが、フェラーリのマシンはリアが軽くて、すごくピーキーな動きをしますので、昨シーズンのハミルトンは散々、手を焼きました。でも、レギュレーションが変わってマシンのピーキーさがかなり減ったことで、ハミルトンは思いきってコーナーに入っていけるようになった。

 逆に、ルクレールが少し苦しんでいましたね。その結果、フェラーリ内の立場が逆転したとまではいきませんが、本当に五分五分になっていった。すごく面白い変化だと思いますね。

 新しいレギュレーションでは、たとえば高速コーナーはギリギリまでアクセルを踏んでいくというより、ちょっとアクセルを抜いてエネルギーマネジメントをしつつ、同時に横方向にあまりGをかけずに走るほうが直線で速くなり、結果的にタイムが出ます。

 これまではダメだと思われていたドライビングが意外と速く走れ、逆に申し分がないとされていたドライビングが、むしろネガティブな方向に働いてしまう──。そういうことが現実に起こっています。

 だから、従来までのスタイルにこだわり過ぎていると、速く走るための正解を見つけるのが遅れてしまう。レッドブルのマックス・フェルスタッペンも新しいマシンに戸惑っていたと思いますが、最近はちゃんと理解し対応してきています。さすがですし、後半戦はすごく楽しみなドライバーのひとりです。

 マクラーレンも後半戦、非常に面白い存在になると思います。今シーズンは開幕からメルセデスとフェラーリの「2強」が優勝争いを展開していますが、第11戦のハンガリーGPで昨年のチャンピオン、ランド・ノリスがようやく今季初優勝を飾りました。

【AIによってマシン開発が急加速】

 カスタマーのマクラーレンが前半戦で苦しむことは、事前に予想はしていました。やっぱり新しいレギュレーション初年度はPUの開発当初からサイズ、重量配分、特性など、いろんなことを知り尽くしたうえでマシン設計ができるワークスが圧倒的に有利だからです。

 逆にPUの仕様が決まったあとに情報を渡されて、それから車体を作り上げていくカスタマーは、どうしても開発に後れを取ってしまう。

 また、エネルギーマネジメントという部分でも、前半戦で圧倒的に有利だったのはメルセデスのワークスチームだと思います。電気の使い方に関するデータがカスタマーに渡るのは、やっぱりワークスのあとだったはず。

そこも時間差があったと思っています。

 でも、シーズンが進むにつれて、どのPUメーカーもデータが出尽くしてきて、差が少なくなってきた。そうなると、純粋にマシンの競争力の勝負になってきて、マクラーレンが徐々に浮上してきたという流れだと思います。

 マクラーレンのすごさは、アップデートするたびにマシンが確実に速くなってくることです。新しいレギュレーションの入口で苦労はしましたが、マシン開発の次の一手をしっかりと持っていて、アップデートをかなり正確に当ててきます。

 それは「AIの影響」が大きいと思います。今、F1ではAIを活用したマシン開発が急速に進んでいます。

 ちょっと前までは「新しいアイデアを10個ぐらい試して1個当たったらいいな」という状況でした。しかし現在では、「ふたつ試したら絶対にひとつは当てなければならない」、あるいは「何かひとつ試したら100%じゃなくても70%くらい当てて当然」というほど、マクラーレンをはじめとするトップチームのアップデートの精度が上がってきています。

 しかも、今年は新レギュレーション初年度ということもあり、まだ開発の余地がたくさん残されています。アップデートに成功した際は、タイムの上がり幅が大きい。

 たとえば、開幕直後のマクラーレンやレッドブルは、予選でトップ10に入ることはできますが、優勝争いには絡めない状況でした。

あれくらいのポジションだったら、復活してくるのはシーズン後半戦かなと思っていましたが、両チームともに前半戦のうちにメルセデスのかなり近くまで追い上げてきました。以前とは開発スピードがケタ違いです。 

 シーズン前半戦、アントネッリの躍進とともに、AIの活用によってF1マシンの開発が大きく変わりつつあることも、僕の印象に残りました。

◆中野信治・中編>>ベテランの経験が重宝される時代は終わったのか?


【profile】
中野信治(なかの・しんじ)
1971年4月1日、大阪府生まれ。父の影響で11歳からカートを始め、1987年に国際カートGPで日本人初優勝を飾る。全日本F3、全日本F3000などを経て、1997年にプロストから日本人5人目のF1フル参戦ドライバーとしてデビュー。翌年はミナルディに所属し、F1通算33戦に出走、1997年に2度の6位入賞を果たす。2000年から米国のCARTに参戦し、2003年にはインディ500へ出場。2005年にル・マン24時間へ初参戦し、日本人で初めてモナコGP、インディ500、ル・マン24時間の「世界三大レース」すべてに出場した。現在はレース参戦に加え、F1解説や若手ドライバーの育成にも取り組む。

川原田 剛●取材・文 text by Tsuyoshi Kawarada

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