F1 2026シーズン前半戦総括&後半戦展望
中野信治インタビュー(中編)

◆中野信治・前編>>41歳のハミルトンが完全復活できた理由

 新しいレギュレーションが導入された2026年シーズンの前半戦は、若いドライバーたちの活躍が目立った。

 ポイントリーダーのキミ・アントネッリ(19歳)だけでなく、レッドブルのイザック・アジャ(21歳)、アウディのガブリエル・ボルトレート(21歳)、レーシングブルズのアービッド・リンドブラッド(19歳)など、10代後半から20代前半の若い才能が躍動した。

 なぜ若いドライバーたちが結果を出せるようになったのか? ベテランドライバーはもはやF1で不要な存在なのか? 元F1ドライバーで解説者の中野信治氏に聞いた。

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【F1】若手ドライバー大躍進の2026シーズン AI時代の今...の画像はこちら >>
 マクラーレンが2023年シーズンからランド・ノリス(当時23歳)とオスカー・ピアストリ(当時22歳)という若いドライバーふたりのラインナップで戦い、2024年シーズンと2025年シーズンには2年連続でコンストラクターズチャンピオンに輝きました。

 それまでのF1では、ベテランと若手という組み合わせをするチームが多かった。けれども、マクラーレンの成功により、ほかのトップチームでも有望な若手を抜擢する動きが本格化してきました。その代表例がメルセデスのキミ・アントネッリですが、今シーズンは彼以外にも若手ドライバーの活躍が目立っています。

 その大きな理由のひとつは、さまざまなチームや自動車メーカーが運営する若手ドライバー育成プログラムの存在だと思います。プログラムのなかでいろんなやり方を試し、ドライバーをどういうふうに育成していけば早いタイミングで能力を発揮できるかを学んできています。

 加えて、ここでもAIの影響は少なからずあると思います。ベテランの強みである開発能力や経験値の高さは、AIでほぼ代用できるようになりました。ベテランが不要とは言いませんが、若い才能よりもベテランの経験が重宝されるという時代は終わったかな、という印象があります。

【アントネッリがフェラーリに乗ったら】

 今の時代は、チームがAIを活用して開発したマシンに若いドライバーがパパッと乗って、新しいマシンの動かし方を素直に学んで、タイムに反映させていったほうが速く走れます。だから各チームは新しい知識や技術に対する吸収のスピードが速い、スポンジのようなドライバーを求めているのです。

 もちろん、ドライビングの能力が高くないといけないのですが、新しい環境を早い段階で受け入れ、実行に移せるドライバーでなければ勝てない時代が、もう目の前に来ていると感じます。

 だから僕は、シーズンが始まる前から「今年のチャンピオンは若いアントネッリだ」と思っていました。

 ただ、誤解してほしくないのは、彼がほかのドライバー、ジョージ・ラッセルやマックス・フェルスタッペン、ランド・ノリスなどに比べて圧倒的にうまい、ということではありません。彼のドライビングが新しいレギュレーションのもとで開発されたメルセデスのマシンに合っていて、うまく対応できていることが大きいんです。

 だから、アントネッリがフェラーリのマシンに乗って、すぐにハミルトンをやっつけられるかというと、それは難しいと思います。昨年までのレギュレーションのマシンにもう一回戻って、「よーい、ドン!」でシーズンをスタートしたら、前半戦のような圧倒的な成績を残せるかと言えば、それもちょっと違うと思います。何度か勝てるかもしれませんが、今みたいな印象的な活躍はできないでしょう。

 今のレギュレーションやマシンに合って活躍しているところから、アントネッリは本物の強さを備えたチャンピオンに成長していくことができるのか? そこが後半戦の見どころですが、僕はやってくれると思っています。

 アントネッリはもともとマシンを操る能力は高いですが、彼の本当の意味でのすごさは、マシンを降りた時のコメントや、周りに敵を作らないキャラクターだと感じます。

 僕も彼と鈴鹿で話しましたけど、10代特有のチャーミングさがあります。スポーツの世界では、若い頃からずる賢さというか、いやらしい部分を覚えていくのですが、アントネッリはそういうところが一切ありません。すごく素直で、自然体なんですよね。

【追い込まれても慌てず冷静な21歳】

 別に勝ったからといって"ドヤ顔"をするわけでもなく、謙虚ですし、さらにその上を見ています。うまくいかない時もネガティブにはならず、ポジティブシンキングで言い訳をしない。

そういう振る舞いは、若いドライバーが伸びるためには欠かせない資質ですが、彼はナチュラルに持っているんですよね。そこが見ていて清々しいというか、気持ちがいい。

 だから味方やファンだけでなく、ライバルも応援したくなる。でも、本人はそう見せようと努力しているわけではないですし、特に意識していないと思います。親御さんの影響や育った環境が大きいと思いますが、彼を見ているとみんなが応援したくなるので、スポンサーやサポートする人も集まり、夢を叶えやすくなりますよね。

 日本でドライバーの育成に携わる人間として、アントネッリの言動や行動も含めたレースに取り組むスタンスは、日本の若いドライバーたちにとって学ぶべきところがたくさんあるなと感じますね。

 レッドブルのイザック・アジャも、前半戦は絶対的エースのマックス・フェルスタッペンを上回るパフォーマンスを何度か披露してくれました。彼もすごくいいヤツですし、面白いキャラクターですが、感情を十分にコントロールしきれないところがあります。それが時には、ドライビングにも悪い影響を及ぼしています。

 たとえば、エンジニアとのコミュニケーションでも、ネガティブな方向に行ってしまうことも多いので、結果を出すうえで、それが足かせになっています。超一流のドライバーに成長するためには、ピーキーな部分をもう少し抑える必要があると思います。

 その点、アウディから参戦するガブリエル・ボルトレートは、自分自身をしっかりとコントロールできています。

彼はデビュー2年目の21歳ですが、追い込まれた時にも慌てず、冷静に考えて行動できます。こういう人間が一番強い。これはどのスポーツでも、どんな仕事でも共通して言えますよね。

 自分も長い間レースをやってきて、自分をコントロールするのがいかに難しいか、身をもってわかっています。しかも、大きなプレッシャーのかかる世界最高峰のF1という舞台で、アントネッリやボルトレートのような若いドライバーが平常心で戦っているのはすごいなと思います。

【元気のないピアストリが心配】

 あと、今後の可能性を感じるのは、レーシングブルズのアービッド・リンドブラッドですね。今年デビューしたばかりの19歳は、前半戦はチームメイトのリアム・ローソンと争う場面が多かったですが、5歳年上のローソンを相手にしても何とも思っていないような図々しさというか、物おじしない姿勢はすごいですね。

 ローソンはドライビングがうまいし、強さもあります。鼻っ柱も強い。そんなローソンでさえ、「もう、コイツと争ってもしょうがないな」と思わせるくらい、リンドブラッドには人を変えてしまうエネルギーや芯の強さがあります。

 今年のレーシングブルズはマシンがよく、どのサーキットでも安定して速いこともありますので、リンドブラッドは後半戦、中団グループをかき回してくれる存在になると思います。

 一方、昨シーズンの最終戦までチャンピオン争いを演じたマクラーレンのピアストリは、ちょっと元気がないのが気になります。

 その原因はメンタルにあると、僕は思っています。やっぱりチーム側がピアストリを昨年ほど応援してないな、という雰囲気が伝わってきます。そんな空気や居心地の悪さが、感情の起伏が少なく、どんな時も冷静沈着なピアストリの心を揺さぶっているのかなと感じます。

 デビュー3年目の2025年シーズン、チームメイトのノリスやレッドブルのフェルスタッペンと激しいチャンピオン争いを展開し、ドライバーズランキング3位で終えたピアストリ。昨シーズンの成績が偶然ではないことを証明するために、今年は何が何でも結果を出さなければならなかったのですが、移籍の噂やチームとの不仲説などネガティブな話題ばかりが出てきています。 

 おそらく、チームとの関係が昨年までのようにうまくいっていないことが彼の気持ちに影響し、それが走りにも現れてしまっているような気がします。でも、物事がうまく回り始めれば、ピアストリは昨年のようにトップ争いをすると思います。彼自身が遅くなっているわけでは決してありませんから。

 実際に前半戦を締めくくるハンガリーGPのパフォーマンスは悪くなかった。最終的にはマシントラブルでリタイアしましたが、うまく戦っていれば勝てた可能性はありました。

 物事の流れは、ちょっとしたことで変化します。夏休み明けにピアストリがノリスとともに、昨年のように優勝争いに加わってくる可能性は十分にあると思っています。

(つづく)

◆中野信治・後編>>「レーシングブルズと争うレースができれば大成功」


【profile】
中野信治(なかの・しんじ)
1971年4月1日、大阪府生まれ。父の影響で11歳からカートを始め、1987年に国際カートGPで日本人初優勝を飾る。全日本F3、全日本F3000などを経て、1997年にプロストから日本人5人目のF1フル参戦ドライバーとしてデビュー。翌年はミナルディに所属し、F1通算33戦に出走、1997年に2度の6位入賞を果たす。2000年から米国のCARTに参戦し、2003年にはインディ500へ出場。2005年にル・マン24時間へ初参戦し、日本人で初めてモナコGP、インディ500、ル・マン24時間の「世界三大レース」すべてに出場した。現在はレース参戦に加え、F1解説や若手ドライバーの育成にも取り組む。

川原田 剛●取材・文 text by Tsuyoshi Kawarada

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