F1 2026シーズン前半戦総括&後半戦展望
中野信治インタビュー(後編)

◆中野信治・前編>>41歳のハミルトンが完全復活できた理由
◆中野信治・中編>>ベテランの経験が重宝される時代は終わったのか?

 メルセデスとキミ・アントネッリの活躍が目立ったシーズン前半戦だが、第11戦のハンガリーGPではマクラーレンのランド・ノリスが圧倒的な速さを披露し、今季初勝利を挙げた。昨年のチャンピオンがようやく優勝争いに加わってきたわけだが、アントネッリを追走するルイス・ハミルトン、ジョージ・ラッセルとともに、逆転王座の可能性はあるのか。

 また、日本のファンが後半戦で注目しているのは、やはりアストンマーティン・ホンダだろう。今季は開幕から低迷しているが、ハンガリーGPでは車体のアップデートに成功し、競争力が大きく向上した。

 後半戦のスタートとなるオランダGPには、ホンダが改良型のパワーユニット(PU)を投入する。アストンマーティン・ホンダはどこまで浮上するのか? 元F1ドライバーで解説者の中野信治氏に聞いた。

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【F1】中野信治が語る2026後半戦展望 「アストンマーティ...の画像はこちら >>
 現在、19歳のキミ・アントネッリがチャンピオン争いで大きなリードを築いていますが、タイトルの行方はまだまったくわからないと思います。新レギュレーション初年度ということもあり、前半戦はマシントラブルでのリタイアが多かったですからね。

 アントネッリが後半戦のレースで2戦連続リタイアを喫して、その間にランキング2位のルイス・ハミルトンとランキング3位のジョージ・ラッセルが勝ったら、ポイント差は一気になくなります。

 精度の高いマシンのアップデートを行なっているマクラーレンのランド・ノリスにも、逆転の可能性はまだ残っていると思います。ドライバーズランキング5位のノリスとアントネッリの間には91ポイント差がついていますので、どこまでアントネッリに近づけることができるのか。そこが現実的な目標だと思いますが、タイトル獲得の可能性もゼロではないと思います。

 ただ、アントネッリはメンタル的にも波の少ないドライバーですので、絶不調に陥るとは考えにくい。レースは何が起こるのかわかりませんが、普通にいけばアントネッリがチャンピオンの最有力候補だと思います。

【困難に直面しているラッセル】

 後半戦に入ってタイトル争いが本格化してくると、予想外のミスやトラブルが重なり、勝てなくなることもあると思います。その時、これまでどおりに冷静に対処できるのか? そこでアントネッリの真価が問われます。

 でも、ドライバーとして成長できるのは、物事がうまくいっていない時なんですよね。いい流れが途切れた時にどう対処し、立て直すことができるか。そこでの経験が、彼の成長に直接的につながっていくと思います。

 そういう意味では、いろいろな問題が発生してたくさん苦労したほうが、彼の将来にとってはいいのかもしれませんね(笑)。そうはいっても、アントネッリはラッセルに比べると、気持ちの面ではかなりラクだと思いますよ。チャレンジする側の立場なので、圧倒的に有利です。

 逆に、ラッセルのほうは追われる立場なので、精神的にかなり苦しいと思います。今シーズンのラッセルの戦いを開幕からずっと追いかけてきましたが、見ている側がつらくなるくらい、「大変だろうな。追い込まれているだろうな」と感じる場面が多かった。

 ラッセルは完璧主義者です。走りだけでなく、周りのすべてをコントロールして、自分が優位に立つような状況を作り上げていくタイプです。

でも、今年はアントネッリが基本的に前を走っていますので、自分が理想とするスタイルで戦うことができていません。

 むしろ、彼がもっとも嫌なシチュエーションのなかでレースをしています。ラッセルは今、困難に直面していますが、アントネッリと同様にドライバーとして成長するという意味では、大きなチャンスだと思います。

 現在28歳のラッセルが、今の苦境を打開することができれば、ドライバーとして一段上のレベルに進み、これから10年はキャリアを続けられるかもしれません。でも、この局面を打破できず、アントネッリの後塵を拝したままだったら、彼のキャリアはあと数年で終わってしまうかもしれない。彼は今、そういう分岐点に立っていると思いますね。

 うまくいけば、それこそハミルトンのようになれるかもしれません。彼は41歳という年齢になっても、自分に足りないものを受け入れて、自分自身が変えられるところは変えて、新しいレギュレーションのシーズンに臨んでいるように見えます。それは本当にすごいことです。

【ニューウェイの代表就任は失敗】

 長いキャリアのなかで酸いも甘いもすべて経験し、今は達観しているように見えるハミルトン。今シーズンは若いドライバーたちの活躍が目立っていますが、彼らに交じって元気いっぱいにコースを走り回っています。

 今年のレギュレーションのマシンがハミルトンに合ったという面もありますが、もともとのドライビング能力が圧倒的に高いので、今もトップ選手として現役を続けられていると思います。普通のドライバーが同じ年齢になって、あれだけのパフォーマンスを発揮できるかといえば、やっぱり難しいと思います。

 そして何よりレースが好きで、モチベーションと情熱、そして自分自身に対する自信も失っていない。史上最多8度目のチャンピオンを目指すハミルトンが、果たしてアントネッリを相手にどんな走りを見せてくるのか? 後半戦最大の見どころですね。

 そのハミルトンと同様に、この夏に45歳になったアストンマーティンのフェルナンド・アロンソも、後半戦の注目ドライバーのひとりです。前半戦を締めくくる第11戦のハンガリーGPではアストンマーティンが車体をアップデートしてきて、現役最年長のアロンソが久しぶりに気持ちよく走っている姿を見ることができました。 

 今年のアストンマーティン・ホンダは、シーズン序盤から大きくつまずいてしまった。昨年の11月末に、2026年からマネージングテクニカルパートナーを務めていたエイドリアン・ニューウェイがチーム代表に就任したことが、失敗だったように感じます。

 本来、ニューウェイは技術部門の責任者として、新しいレギュレーションでのマシン開発やホンダとのパートナーシップの強化に集中しなければいけなかった。それなのに、政治やチーム運営に時間と能力を割かなければならなくなり、結局いろんなことがうまくいかなくなってしまった。

 それは、アストンマーティンにとって大きな誤算でもあり、学びでもあったと思います。でも、このチームには実業家であるローレンス・ストロールをはじめ、優秀な人たちが集まっていますので、もう同じ失敗はしないと思います。

【ハースは来年以降が楽しみ】

 ハンガリーGPでの車体のアップデートに続き、夏休み明けのオランダGPでは、ホンダがPUのアップデートも実施します。これによって中団グループのなかで安定して戦えるようになると思いますが、最終的にはメルセデス、フェラーリ、マクラーレン、レッドブルに続く「ベスト・オブ・ザ・レスト(中団グループのトップ)」を、レーシングブルズと争えるところまで来てほしい。

 

 今年のレーシングブルズは、どんな特性のサーキットでも安定して速いですし、アウディやアルピーヌのマシンも決して悪くはありません。中団グループに追いつくことは簡単ではないと思います。

 しかも、バジェットキャップ(予算制限)がありますので、車体とPUの両方でやれることは限られています。そのなかでどこまでベスト・オブ・ザ・レストに迫ることができるのか。サーキットによって何回かレーシングブルズと争えるようなレースができたら大成功だと思います。

 僕自身は、後半戦のアストンマーティン・ホンダは目先の結果よりも、来年を見据えていろんなデータをしっかりと取って、確実にマシンを進化させていく姿を見せてほしい。同じことは、小松礼雄代表が率いるハースにも言えると思います。

 開幕直後のハースはすごくいい走りをして、何度も入賞を飾っていたのですが、中盤戦に入ってほかのチームがアップデートを入れてくると、中団グループのなかに埋もれてしまったという印象です。

 後半戦の巻き返しを期待していますが、この夏休みに小松代表とお話しさせていただいた時に、数年先を視野に入れながらチームを強化するために精力的に動いているように感じました。そういう意味では、むしろハースは来年以降が楽しみです。

(了)


【profile】
中野信治(なかの・しんじ)
1971年4月1日、大阪府生まれ。父の影響で11歳からカートを始め、1987年に国際カートGPで日本人初優勝を飾る。

全日本F3、全日本F3000などを経て、1997年にプロストから日本人5人目のF1フル参戦ドライバーとしてデビュー。翌年はミナルディに所属し、F1通算33戦に出走、1997年に2度の6位入賞を果たす。2000年から米国のCARTに参戦し、2003年にはインディ500へ出場。2005年にル・マン24時間へ初参戦し、日本人で初めてモナコGP、インディ500、ル・マン24時間の「世界三大レース」すべてに出場した。現在はレース参戦に加え、F1解説や若手ドライバーの育成にも取り組む。

川原田 剛●取材・文 text by Tsuyoshi Kawarada

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