バレーボール男子・アジア選手権。日本は予選ラウンドでオマーン、バーレーン、オーストラリアに3連勝を飾った。

オマーンに1セットを落とすなど、完璧ではないが、順風満帆と言えるだろう。予選ラウンド全体1位で進んだ準々決勝インド戦も、セットカウント3-0(25-17、25-15、25-19)とストレートで勝利し、準決勝へと駒を進めた。ロサンゼルス五輪出場権獲得まであと2勝だ。

 今やお家芸になった堅牢なブロックディフェンスは全開。ミドルブロッカーの小野寺太志、エバデダン ラリーはブロックポイントを重ねているし、ふたりのリベロ、山本智大と小川智大は神がかったレシーブを見せ、髙橋藍もそれに匹敵する守備力を誇る。一方、攻撃も、髙橋が背面ショットを見せるなどここまでチーム最多得点を挙げ、他のスパイカー陣も石川祐希、西田有志などが次々に得点を決めている。

 ここまで、攻守の両輪が噛み合っていると言えるだろう。

 それを生み出しているのは、セッターの深津英臣(36歳)ではないだろうか。2本目のパス=トスで攻守を連結。組立てや配球を含めて、その技術やビジョン、計算が問われ、チームメイトには「オミさん」と信頼される。

【男子バレー】ロス五輪へあと2勝 36歳セッター・深津英臣の...の画像はこちら >>
 深津は2010年代には日本代表のキャプテンを任されたこともあるなど、アジアでも屈指のセッターとして名を轟かせている。年齢を重ねることで円熟を迎えた。
SVリーグが開幕した2024-25シーズンには11年在籍したパナソニックパンサーズ(現大阪ブルテオン)をあとにし、新天地ウルフドッグス名古屋で心機一転、ベストセッター賞を受賞した。左利き独特の感性もあるのか、コートで世界を回しているように映る立体的トスワークだ。

「今日はトスが悪かったんで、修正していいトスになるように......」

 開幕のオマーン戦後、深津はそう言って試運転を強調していた。

「初戦は難しいところがあって、試した部分もありました。(大会での)感覚をつかむためのトス配分というか、質、精度のところですね。そのなかで、相手は横に手を出してタッチを取ってくるし、『しつこい相手だな』と(笑)」

【ラリーが語った手応え】

 次のバーレーン戦では、日本の攻撃精度は確実に増していた。スパイカーがブロック1枚で打てる機会も多く、決定率も上がった。敵の裏をかいた配球で、スパイカーを優位に立たせることに成功したのだ。

 試合後の深津に問うた。

――今日は西田選手がブロック1枚、1.5枚で打つ機会が多かったです。1枚で打たせる、というのはやはりセッターとして会心なのですか?

「いえいえ、どこでも上げられる状態を(1本目の)パスの選手が作ってくれているんで。僕が1枚にしたというよりも、まずはレセプションしてくれた選手がよかったなと思っています」

 深津は謙虚に言った。

自らに絡みつくようなエゴは、長いキャリアで"卒業"しているのだろう。だからこそ、頼りにされるのだ。

 ミドルブロッカーのラリーも、深津とのコンビに手応えを感じているようだった。

「オミさんとは、『トスがここに来る』というのを信じられるような仲になってきました。うまくコミュニケーションを取れています。(河東)祐大さんもですが、(コンビが)合うセッターだからこそ信じて入っていけていて。そのおかげで、自分の打点も上がってるのかなと」

 もっとも、その話を深津に向けると、年長者として「ラリーはまだまだです!」と冗談っぽく言ってから、こう続けた。

「もうちょっといいコンビを作れたらってところで、今日(バーレーン戦)は(クイックの)決定率が高くなかったです。彼のよさはまさに(ポジションを取って跳ね上がる)速さのところで。それが最高のおとりになり、パイプ攻撃(ミドルがおとりで、後衛の選手がバックアタックする時間差攻撃)も、両サイドも生きる。自分が打てない場合はフラストレーションもあるかもしれないですけど、彼が1枚飛んでくれるのは、やっぱりセッターとしてはありがたいって思います」

 深津の滋味のある笑顔からは、若いラリーへの期待感が伝わってきた。ポテンシャルを信じることで、才能を覚醒させる。

 事実、ラリーは今大会でも尻上がりに調子を上げ、準々決勝インド戦では5本のクイックを決め、50%というアタック決定率を誇っている。高い打点でのアタックは雄壮だった。また、彼が警戒されることによって、他のスパイカーはブロック枚数が減った状態で打つことができていた。

 同じくミドルの山内晶大も、パナソニックパンサーズ時代にチームメイトだった深津の"対話力"を称賛した。

「オミさんはうまいし、『トスちょうだい』と言いやすいですね。VNL(ネーションズリーグ)の時も、『1セット目、2セット目で1本しか打ってないんですけど...』と伝えて......。もちろん、オミさんの配球もあるだろうし、シチュエーション次第なのは承知のうえなんですけどね」

 セッターとスパイカーは対話を重ねることでコンビの精度を上げる。試合がない日の練習でも、午前、午後とスパイクのクオリティーを高めているという。今後、山内との旧知のコンビが噛み合うこともどこかであるはずで、対話は基本だ。

 セッターは、頭をフル回転で使うポジションと言える。高いトスが好きなスパイカー、速いトスが好きなスパイカーなどさまざまな個性が混在するなか、それぞれのよさを引き出さなければならない。同時に敵のブロッカーの高さやスピードや癖を見極め、状況に適応させる必要もある。

また、組み立ても重要で、いくら石川や髙橋が優れていても、一辺倒では通じない。そして、膨大なデータからベストの選択ができたとしても、決まらないこともあるのだ。

「(ロラン・ティリ)監督からも、『コミュニケーションを取り続けることが大事』と言われているので。そこは大切にしていますね」

 深津はそう言って、コートに立つことを楽しむという。

「プレッシャーもあるので、楽しいだけではないです。でも、緊張感も含めて楽しめていますね。どう楽しむのか、というところを自分に問いかけて。自分はバレーが好きだし、この舞台でやれるありがたみを感じながら」

 12日、準決勝の韓国戦でも、深津のトスワークがカギを握るのは間違いない。
 

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

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