前編:在米記者4人が占う「井上拓真vs. 那須川天心」再戦
楽しみな再戦が間近に迫っているーー。WBC世界バンタム級王者・井上拓真(大橋)が9月27日、トヨタアリーナ東京で現代の風雲児・那須川天心(帝拳)の挑戦を受ける。
この両者は昨年11月、同じ会場でWBC世界同級王座決定戦として対戦。その際は井上が3-0 (117-111、116-112が2人) の判定勝ちを収め、スキルの確かさとボクサーとしての成熟度を示した。それから10カ月あまりで迎えるリターンマッチで両者はどんな戦いを見せるのか。
5月には5階級制覇を狙った井岡一翔(志成)との対戦でも2度のダウンを奪って快勝し、30歳にして最盛期に入ったことを感じさせる井上が返り討ちにするのか。4月の復帰戦で軽量級のレジェンド、ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)に9回終了TKO勝ちを飾り、復活を印象づけた那須川がリベンジを果たすのか。
興味深い一戦の行方を見極めるべく、今回は軽量級に精通する4人の在米ベテラン記者に4つの質問をぶつけてみた。その答えから、国内ライバル戦の焦点が見えてくる。
【パネリスト】
◆エイブラハム・ゴンサレス(ロサンゼルス在住。FightsATW.comの創始者であり、リングマガジンのランキング選定委員 X : @abeG718)
◆スティーブ・キム(ロサンゼルス在住。元ESPN.comのシニアライターで現在もフリーランスライター/ポッドキャスターとして活動 X : @SteveKim323)
◆ブレンダン・テイラー(ノースカロライナ在住。YouTubeチャンネル「TRU SCHOOL SPORTS」を運営する X : @TRUSCHOOLSPORTS)
◆カーラン・バティア(ニュージャージー在住。ESPN、DAZNなどでインタビュアー、ホスト、実況を務める X : @CurranBhatia)
1.拓真vs.那須川の初戦をどう振り返るかゴンサレス : 昨年11月の第1戦では試合を通して拓真がよりクリーンで効果的なパンチを当てていた。
2024年10月に堤聖也(角海老宝石)に敗れて以降、拓真は確実に復調を遂げている。あれは当時の彼にとって必要な敗戦だったのだろう。それまでの拓真には物事があまりにも簡単に進みすぎていた部分があったのかもしれない。あの挫折を経て、もう一度世界王者になるためにはもっと多くのものが必要だと理解するようになり、それが実際に形になったのが天心との第1戦だった。
キム : 前戦は非常に緊張感があり、多くのラウンドで競った展開になった。それでもふたりのうち、より多くのラウンドでコンスタントに戦っていたのは拓真だったと思う。接戦になったラウンドでは、ジャブを軸にした手数が拓真にアドバンテージを与えた。天心は時に慎重になりすぎてしまい、拓真ほど精力的に動いていないという印象をジャッジに与えてしまった。
テイラー : 初戦を迎えるにあたって、私は天心が拓真を下すと思っていた。天心は元世界王者のジェイソン・モロニー(オーストラリア)戦で貴重な経験を積んだし、非常に学習能力の高い選手だからだ。拓真は1年のブランク明けで、堤聖也には手数で上回られて敗れていた。
拓真がノルディーヌ・ウバーリ(フランス)と堤に負けた2敗は、どちらも攻撃面で圧倒されたことが原因だった。だから天心も同じことができると思っていたので、試合結果には驚かされた。拓真はすばらしいアジャストメントを見せ、ただアウトボックスして勝ったわけではない。前に出てアグレッシブに戦いながら天心を圧倒した。すばらしいゲームプランを考えた井上真吾トレーナーには大きな称賛を送りたいし、試合の途中で見事な修正を加えた拓真も評価しなければならない。
バティア : 私は2024年2月、東京・両国国技館で行なわれたジェルウィン・アンカハス(フィリピン)戦で拓真の試合の実況を担当する機会に恵まれた。その夜の試合を見て、彼がどういうボクサーかわかったような気がした。アンカハスは長年にわたって世界王者だった選手で、本物のパンチ力も持っていた。それに対して拓真は忍耐強く、頭を使って戦った。
拓真は相手をじっくり研究し、ラウンドごとに問題を解決し、決してパニックにならない優れたボクサーだ。前戦の天心戦でもまさにそのように戦った。天心はスピードと動きを生かして最初の2ラウンドを制し、拓真をぐらつかせる場面もあった。それでもそこからアジャストし、ボディーを攻め、右を当て、試合を支配していった拓真の姿は印象的だった。
2.拓真はここ2試合でキャリア最高とも言えるパフォーマンスを見せている。再戦でそのレベルを維持するために、何を意識すべきかゴンサレス : 拓真は序盤からジャブを使って距離を詰め、さらにボディーをもっと攻める必要がある。初戦では、そのふたつが十分にできていなかった。おかげで天心は試合終盤までスタミナを残すことができた。拓真が序盤から左フックをコンスタントにボディーに打ち込めば、天心の動きを徐々に鈍らせることができる。
キム : 拓真は兄(尚弥)の存在によって大きく影に隠れているが、彼自身も本当にしっかりとしたプロボクサーへと成長した。兄ほどのパワーはないかもしれないが、非常に優れたスピードと俊敏性がある。自分には試合の流れを一発で変えてしまうようなパワーがないことを理解しているからこそ、1分、1秒を通して動き続けなければならないこともわかっている。再戦でも拓真は初戦でうまくいったことを続けるべきだ。つまり、賢く、そしてコンスタントにボクシングをすることだ。
テイラー : 拓真はすばらしい中間距離のファイターだ。兄・尚弥より爆発力や身体能力では劣るが、スタイルは似ている。だから彼にとってカギになるのは、焦らずに、天心が焦り始めるまで戦うこと。
今回の再戦では挑戦者のほうが証明しなければならないことが多く、天心はほかの日本人選手と比べても非常に感情を表に出すファイターだ。それが拓真にとって有利に働く可能性がある。天心が序盤からより慎重に戦うのであれば、拓真が意識すべきは、ジャブを起点にしたうえで、すべてのパンチの交換で先に仕掛け、自身のパンチで最後に終えること。
バティア : すでに青写真はある。距離を詰め、ボディーを攻め、天心をインサイドで戦わせる。そこはキックボクサーが最も居心地の悪さを感じる距離だ。私が見てみたい唯一の修正点は、もっと早いスタートだ。初戦では、序盤のラウンドを譲ってしまった。天心のように速く、自信を持っている選手を相手にそれは危険なことだ。1ラウンドからボディー攻撃を確立できれば、3ラウンドからギアを入れ始めた初戦よりも、拓真にとって試合は楽になる。
経験の差も重要だ。初戦を迎えた時点で、拓真はプロで203ラウンドを戦っていたのに対し、天心はわずか50ラウンド。その差が試合後半になると明らかに表れていた。
後編につづく:「在米記者4人の勝敗予想は? 天心に逆転の条件はあるか」
杉浦大介●取材・文 text by Daisuke Sugiura



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