「賃貸に住み始めて3か月。暑くなってきたので冷房をつけたら、生乾きのような臭いがひどかったため管理会社へ連絡したところ、『自分でなんとかしてください』と言われた」――。

そんな投稿がSNSで話題となり、「貸主が対応すべきでは」「契約書を確認した方がいい」「自腹でクリーニングした」といったさまざまな声が寄せられている。
賃貸物件に備え付けられたエアコンに異常や故障がある場合、清掃や修理の費用は誰が負担するのだろうか。また、もし管理会社や大家などが対応してくれない場合、借主はどのような対応を取ればいいのだろうか。
民法に詳しい雨宮知希弁護士は「まず契約書の内容を確認したうえで、貸主や管理会社とのやり取りは証拠が残る形で進めることが重要です」と語る。

借主に落ち度がないなら貸主が修理すべき 

そもそも、賃貸物件の貸主(大家など)は「賃貸物の使用・収益に必要な修繕をする義務」を負っている(民法606条1項)。
そして備え付けのエアコンは、通常、その部屋を貸すための「設備」の一部と考えられる。そのため、経年劣化や自然故障による不具合であれば、原則として、貸主や管理会社が費用を負担して直すべきとされている。
ただし、借主側の落ち度で修繕が必要になった場合には、貸主側は修繕義務を負わない。たとえば「フィルター清掃を長期間まったくせず放置してカビを悪化させた」といった場合には、清掃・修理の費用は借主の負担とされる可能性がある。
「今回のケースについては、入居からわずか3か月で生乾き臭がしているとのことなので、借主の使い方が原因とは考えにくいでしょう。
むしろ、入居前からエアコン内部にカビや汚れが残っていた可能性が高いといえます。その場合には、民法の原則通り、貸主・管理会社が清掃費用を負担すべき方向になります。
管理会社による『自分でなんとかしてください』という回答は、法的な根拠を欠いている可能性が高いといえます」(雨宮弁護士)
ただし、契約書に「エアコンは前の入居者が残していったもの(残置物)であり、貸主は修理しない」「現状のまま貸す」といった特約がある場合には、貸主が修理・清掃の費用を負担しなくてもよいケースや、貸主の負担範囲が限定されるケースもある。

したがって、借主側に落ち度がないケースであっても、まずは契約書の内容を確認することが大切だ。

修理を求める際には「記録」を残すのが大切

では、借主側に落ち度がなく、さらに契約書に特約が記載されていないにもかかわらず、貸主や管理会社が修理・清掃の対応をしない場合、借主はどのような対応を取るべきだろうか。
雨宮弁護士によると、まずは記録に残る形で、修繕を求めるのが重要だという。口頭だけで対応を求めると、後から『言った・言わない』の争いになりがちであるためだ。

具体的には、メールや書面など記録が残る方法で、以下の点を明確に伝えるのが望ましい。

  • 不具合の内容(生乾き臭・冷房の効き具合など)
  • 清掃や修理を求めること
  • いつまでに対応してほしいか

そして、借主に落ち度がないのに賃借物の一部が使えなくなった場合には、使えない割合に応じて賃料が減額されることが法律で定められている(民法611条1項)。そのため、エアコンが使えず日常生活に支障が出ているのであれば、賃料の減額を主張できる余地もある。

また、貸主が修繕義務を果たさないことで、エアコンが機能せず暑すぎて部屋内で過ごすことも困難になるようなケースも考えられる。

このようなケースでは、そもそも部屋を借りた目的(=その部屋に住むこと)も達成できないため、債務不履行として契約の解除や損害賠償を検討する余地もある。ただし、雨宮弁護士によると、実際に債務不履行が認められるまでのハードルは高いという。
 なお、自治体の消費生活センターや法テラスなどの第三者を介して働きかけることで、状況が動く可能性もある。どうしても貸主や管理会社が対応してくれない場合には、これら公的な機関に頼ることも検討してみよう。

修理費用を立て替えた場合、後から請求できる? 

冒頭のケースでは、住み始めて3か月の部屋でエアコンに異常があった。

いくら連絡しても貸主や管理会社が対応してくれない場合であっても、とくに引っ越し直後は、また別の物件を探して転居するのは困難だ。現実的には、借主が自分でエアコン業者に依頼して、費用を支払って清掃・修理をしてもらうことになるだろう。
この場合、一度は借主が立て替えたエアコンの清掃・修理費を、後から貸主に請求することはできるのだろうか。
エアコンは賃貸物件の設備であるため、以下のいずれかの場合には、自分で修理して、直ちにその費用の償還を家主に請求できる(民法607条の2、608条1項)。

(1)借主が貸主に修繕の必要を通知した(または貸主がそれを知った)のに、相当の期間内に貸主が修繕しないとき

(2)急迫の事情があるとき

とくに近年の猛暑日や酷暑日のなかでは、エアコンの故障は1日でも放置していると命に関わる。

厚生労働省によると、全国で記録的猛暑に見舞われた2013年には、熱中症による死亡者の約8割が住居で発生していた。とくに65歳以上では住居での死亡割合が約9割に上り、0~44歳でも約6割を占めていた。 

したがって、貸主に連絡できない、または対応を待っていては健康や生命に危険が及ぶような状況下でエアコンの修理を手配した場合にも、上記(2)の要件が当てはまる可能性があるだろう。

ただし、実務的には「いきなり高額な修理をするのではなく、まず貸主に通知し、相当な期間対応を待つのが安全です」と、雨宮弁護士は助言する。

さらに、エアコン業者に依頼する際には、やりとりの記録・見積書・領収書は必ず残しておくようにすべきだ。

もっとも、エアコン修理に関するトラブルは増加傾向にある。全国の消費生活センターなどに寄せられた相談件数は、2025年度には1251件と、2024年度(975件)の約1.3倍、2021年度(451件)の約2.8倍に増えている。
 

相場からかけ離れた高額な業者に依頼した場合には、全額の返還が認められない可能性があるため注意が必要だ。

法的に整理すると、借りている部屋のエアコンが故障しているのに大家や管理会社が対応しない場合でも、民法上は一定の要件を満たせば借主が修理を手配し、費用の償還を求められる可能性がある。

とはいえ、契約書の内容を確認したうえで、貸主とのやり取りや支出の記録を残しながら対応を進めるように気を付ける必要はある。

また、やむを得ず借主自身で修理を依頼する際には、事前に貸主へ通知するとともに、見積書や領収書などの資料を保存しておくことが大切だ。



編集部おすすめ