「HIS」400億円M&Aで旅行会社の枠超えへ

エイチ・アイ・エス(HIS)<9603>が、旅行会社の枠を超えた収益源づくりに乗り出した。

2026年6月12日に公表した、2030年10月期を最終年とする4年間の中期経営計画で、グループ全体のM&A戦略として25社への投資に総額400億円を充てる方針を明示した。

売上高全体の80%以上を占める旅行事業で創出する資金を成長領域に振り向けることで収益源の多層化を進め、「既存の枠組みを越え、多様な事業がシナジーを生むポートフォリオ(事業の組み合わせ)の構築を実現する」計画だ。

旅行事業依存のリスクが顕在化

収益源の多層化を進める背景には、旅行事業に偏った収益構造への危機感がある。

2025年10月期のセグメント別売上高を見ると、旅行事業は全体の82.5%を占めた。

このほかにホテル事業や九州産交グループ事業を手がけるが、いずれも売上高構成比は6%台にとどまっている。

こうした状況を踏まえ、同計画では、パンデミック(感染症の世界的流行)や地政学リスク(戦争・紛争などに伴うリスク)の影響を受けやすい旅行事業の変動を補うため、安定収益の柱づくりを課題に挙げた。

また、日本発海外旅行の回復鈍化や少子化により、国内需要だけに頼る成長モデルには限界があるとするとともに、AI(人工知能)やテクノロジーの進化により、旅行会社の提案・コンサルティング業務が代替されることもリスクとして挙げる。

実際に同社はコロナ禍による旅行需要の急減で、業績不振に陥った時期がある。

2019年10月期に8085億1000万円あった売上高は、2021年10月期に1185億6300万円まで落ち込んだ。

営業損益は2019年10月期に175億4000万円の黒字だったが、2020年10月期に311億2900万円の赤字、2021年10月期に640億5800万円の赤字となった。

その後は回復の軌道に乗ったものの、足元では再び業績見通しの見直しを迫られており、2026年6月12日に、2026年10月期の業績予想を下方修正した。

中東情勢の緊迫化が長期化したことや燃油サーチャージの高騰に伴う新規予約の鈍化などが理由で、売上高は前回予想を250億円下回る3950億円(前年度比5.9%増)、営業利益は前回予想を20億円下回る120億円(同3.2%増)に引き下げた。

旅行需要の変動が業績に与える影響の大きさが改めて浮き彫りになった。

「HIS」400億円M&Aで旅行会社の枠超えへ
エイチ・アイ・エスの業績推移

M&Aで売上高450億円を上積み

同計画では、2030年10月期に売上高5000億円、営業利益250億円を目指す。

この計画を支える一つがM&Aで、2030年10月期までに25社への投資に総額400億円を充て、投資先による売上高450億円の上積みを見込む。

コア領域(日本人向け旅行事業、海外拠点での日本人旅行者対応、保険事業、広告事業など)で創出した資金を、高い成長が見込める「ネクストコア領域」(世界の宿泊市場と国内宿泊市場など)と、「グロース領域」(金融や生成AI、EC市場など)に配分することで計画達成を目指す。

同社は、これらの取り組みにより、営業利益構成比について、ネクストコア領域を2025年10月期の29.5%から2030年10月期に38.0%へ、グロース領域を同1.0%から同9.1%へ高める見通しだ。一方、コア領域は同期間に69.5%から52.8%に低下する。

M&A戦略では、大型・中型・小型案件に分散するほか、国内外、地域、業種の偏りを抑え、特定の事業や地域に依存するリスクを軽減する。

このうち、グロース領域では、独自の技術や商圏を持つ企業や、景気変動や地政学リスクの影響を受けにくく、ライフスタイルに根付く事業を手がける企業、さらに今後10年で成長が見込まれる業種を対象に、10社に合計100億円を投資し、半数以上でIPO(新規株式公開)の実現を目指す。

同社はCVC(事業会社がスタートアップなどに出資する取り組み)にも取り組む計画で、旅行や宿泊など既存事業の強化につながる領域に加え、AI、宇宙、ヘルスケア、エンターテインメント、金融、教育などの新たな成長領域を対象に出資する。

総投資額25億円、投資社数50社を目標に掲げており、新規事業の創出や、将来のM&A候補の発掘につなげる。

「HIS」400億円M&Aで旅行会社の枠超えへ

成長領域に投資対象を拡大

HISはこれまでもM&Aを積み重ねてきた。2010年以降に適時開示されたM&Aを見ると、2010年に経営再建中の大型リゾート施設「ハウステンボス」を、2012年には九州産業交通ホールディングスを子会社化し、2014年にはテーマパーク「ラグーナ蒲郡」を取得した。

その後も、カナダの旅行持ち株会社Merit Holdings、台湾のホテル運営会社Green World Hotels、中国のツアーオペレーター会社Group MIKI Holdings Limited、カナダのツアーオペレーター会社Jonview Canadaを相次いで傘下に収めた。

一方、2022年には電力小売子会社のHTBエナジー、ハウステンボス、バイオマス発電子会社のH.I.S.SUPER電力を手ばなした。

直近では、2026年3月にロボット開発子会社のhapi-robo stを経営陣に譲渡した。

これまでのM&Aは、旅行周辺領域の拡大、海外ネットワークの強化、非中核事業の整理という性格が強かった。

新たな中期経営計画では、M&Aを2030年10月期に向けた事業ポートフォリオ再構築の手段として位置付けた。

過去のM&Aが旅行関連領域の拡大や事業整理を中心としていたのに対し、新たな中期経営計画では投資対象を成長領域に広げる点が特徴となる。

今後は、HISが持つ顧客基盤やグローバルネットワークを、投資先の事業とどのように結び付け、収益源の多層化につなげていくかが焦点となる。

文:M&A Online記者 松本亮一

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