JR東日本<9020>が、農業法人の事業承継に乗り出した。
2026年4月に設立したJR東日本豊里創生が、同年7月に岩手県花巻市のはなまき農産の株式を取得して初の事業承継を実施した。
JR東日本グループは農業生産や直営農業、社員による農業副業などを通じて農業との関わりを広げてきたが、今回はM&Aによって既存農業法人の経営を引き継ぐ段階に踏み込んだ。
今後は、はなまき農産で経営体制のモデルを確立し、東日本エリアを中心に他地域への展開を目指す。
2035年3月期を見据えたグループ経営ビジョン勇翔2034では、M&Aによる非連続成長を掲げており、不動産や鉄道関連でもM&Aや出資が相次ぐ。
農業など非運輸分野でのM&Aや出資の積み上げが、非運輸事業の成長や収益構成の変化につながる可能性がある。
はなまき農産の事業を承継
JR東日本豊里創生は、サステナブルな米づくりの創造を目指し、JR東日本、ヤマタネ、YUIMEの3社とJR東日本の提案社員3人が出資して2026年4月に設立した企業で、農業法人への出資や経営支援、コンサルティングを手がける。
ヤマタネが米穀卸として築いてきた調達・流通ネットワークと、YUIMEが有する地方の一次産業に特化した人材派遣や人材育成に関わる事業に、JR東日本の事業基盤を組み合わせ、米づくりを取り巻く課題の解決につなげる。
初の事業承継先となったはなまき農産は2013年に設立され、作付面積は約50ha(1haは1万平方メートル)あり、水稲、小麦、大豆の生産や農作業受託を手がける。
事業承継後は、経営者派遣を含む実務面での連携を通じて、生産基盤の安定化や生産性向上に取り組む。
人材面では、2023年にJR東日本が始めた農業副業制度(JR東日本の社員が副業として農作業に従事する制度)を活用し、田植えや稲刈りなどの繁忙期に必要な人手の確保につなげる。
JR東日本豊里創生は今後、高齢化や後継者不在で事業承継に課題を抱える生産者に対し、拠点となる農業法人と連携して生産受託や農地賃借ができる体制を構築する。
将来は作付面積1500ha規模を目標とし、はなまき農産で確立した経営モデルを東日本エリアの他地域にも広げる。
勇翔2034で非連続成長を掲げる
JR東日本は、グループ経営ビジョン勇翔2034で、新たなビジネス開拓に向けた積極的なM&Aと非連続成長の実現を掲げている。
鉄道を中心とするモビリティと、流通・サービス、不動産・ホテルなどの生活ソリューションの二軸を成長させながら、スタートアップとの連携やオープンイノベーション(社内外の技術や知見を取り入れて新たな価値を生み出す取り組み)も進める方針だ。
2026年3月期から2032年3月期までのキャッシュ・アロケーション(資金配分)では、成長資金として3兆1000億円を設定している。
M&Aや新規事業創造を通じた非連続成長に向け、従来以上に利回りを意識しながら積極的に投資・出資する方針だ。
今回のはなまき農産の事業承継は、勇翔2034で掲げる「地域に活力をもたらし豊かな日本に」の実現に向けた取り組みの一環で、M&Aによる非連続成長という全社方針とも重なる。
JR東日本グループと農業との関わりは、今回の事業承継以前から続いている。
2014年には地元農業者との共同出資でJRとまとランドいわきファームを設立し、その後、太陽光利用型植物工場でトマトの生産を始めた。
2016年には同じく地元農業者との共同出資でJR新潟ファームを設立し、国家戦略特区を活用して酒米の生産に乗り出した。
2017年には地元農業関係者らとの共同出資でJRアグリ仙台を設立し、農作物の生産から商品開発、販売までを一体で手がける事業を始めた。
2021年にはJRフルーツパーク仙台あらはまを開業し、グループ初の直営農業事業へと取り組みを広げたほか、2023年には農業副業制度を始めた。
地元農業関係者との共同出資による農業生産から直営事業、社員による人手支援へと関わりを広げる中、2026年にはM&Aによる農業法人の事業承継に踏み込んだ。
鉄道、不動産でも買収・統合が相次ぐ
農業以外でも、JR東日本グループではM&Aや出資が相次いでいる。
鉄道分野では2026年6月、JR東日本傘下の日本線路技術が、JR東海、JR西日本のグループ会社と共同で、軌道検測機器の開発・製造を手がけるカネコの全株式を取得することで合意した。
生活ソリューションでは2026年4月、JR東日本傘下のJR東日本不動産と伊藤忠商事傘下の伊藤忠都市開発が統合することに合意した。
2026年10月にJR東日本伊藤忠不動産開発として発足する予定で、JR東日本は統合会社の議決権の60%を取得する予定だ。
JR東日本の2026年3月期は、売上高が前年度比6.8%増の3兆846億7900万円、営業利益が同9.9%増の4142億5800万円だった。
2026年3月期の連結売上高に占める事業別の割合は、運輸事業が66.3%、非運輸が33.7%だった。
非運輸の内訳は、流通・サービス事業が13.5%、不動産・ホテル事業が16.6%、その他が3.5%だった。
勇翔2034では、収益構成を運輸対非運輸で7対3から6対4へ変える方向を示している。
個々のM&Aが業績に与える影響は現時点では明らかではないが、農業や不動産など非運輸分野でのM&Aや出資は、勇翔2034で示した収益構成の変化に向けた一つの動きとなる。
文:M&A Online記者 松本亮一
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