【M&A成長戦略を聞く⑥】Withmalホールディングスが動物病院を束ねる理由

全国各地で動物病院のM&Aが活発化している。これまで個人経営が中心だった市場に、投資ファンドや事業会社が相次いで参入。

一般には後継者不足が業界再編を促していると考えられがちだが、Withmalホールディングス(東京都武蔵野市)の山崎智輝社長は異なる見方を示す。「業界構造を変える最大の要因は後継者不足ではなく獣医師不足だ」というのだ。なぜ投資家は動物病院に注目するのか。ロールアップは本当に成立するのか。Withmalは何を武器に成長しようとしているのか。

「後継者不足」は業界再編の本質ではない

──動物病院業界では事業承継問題が注目されています。

もちろん後継者不足はあります。しかし、業界構造を変える最大の要因はそこではありません。動物病院はオーナーが70代後半まで働ける業態です。実際に高齢になっても診療を続けている先生は少なくありません。

私たちが見ているのは獣医師不足です。特に地方では人材不足が深刻化しており、都市部への集中が続いています。この問題が今後の業界構造を大きく変えていくと思います。

──つまりM&Aの本質は事業承継ではなく人材戦略だと。

そうです。とはいえ、獣医師が絶対的に足りないわけではありません。都市部には人材が集まる一方で、地方では不足している。問題は人材の偏在です。だからこそ、病院そのものよりも獣医師が働き続けられる環境をどう作るかが大切です。

獣医学部では女性比率が5~6割を占めています。これからは女性獣医師が働き続けられる環境づくりも、業界全体の重要なテーマになるでしょう。

【M&A成長戦略を聞く⑥】Withmalホールディングスが動物病院を束ねる理由
女性獣医師が働き続けられる環境づくりが重要に
女性獣医師が働き続けられる環境づくりが重要に(Withmalホールディングス提供)

高度医療とミドル層医療の二極で市場は成長する

──近年はペット医療の高度化や専門化が進んでいます。

高度医療はこれからも進むと思います。CTや専門診療科など、より高度な医療への需要は確実に増えています。ただ、そこだけに注目するのは違うと思っています。高度医療では、高額な手術や専門治療に数百万円を支払う飼い主もいます。

一方で、予防医療や一般診療を担う「かかりつけ医」の役割も極めて重い。私たちは市場を「頂点を伸ばす高度医療」と「裾野を広げるミドル層医療」の二つで捉えています。

──Withmalはどちらに軸足を置いているのですか。

ミドル層です。地方の病院でも超音波検査や各種検査機器を活用し、診断精度を高める。そうした医療の底上げが、ますます大切になると考えています。高度医療だけが発展するのではなく、地域のかかりつけ医のレベル向上も同時に進んでいくはずです。

──近年はファンドによる買収も増えています。

難しく考える必要はないと思っています。動物病院は売上と利益が比較的安定しており、コロナ禍でも大きく落ち込みませんでした。しかも株式会社として投資できる。投資家から見れば魅力的なアセットです。

そのため、資金が流入しているのだと思います。

しかし、ファンドが入ったからといって獣医師不足が解決するわけではありません。人材採用や組織づくりは地道な努力の積み重ねであり、資金だけでは解決できません。

ロールアップのシナジーは「規模拡大」ではなく「人材」

──ロールアップが簡単な業界とも見られています。

私はそうは思いません。動物病院は人に依存する事業です。先生によって診療方針も違うし、病院文化も違う。同じ商品を売るチェーン店とは全く異なります。だからこそ獣医師が経営する意味があると思っています。

──動物病院におけるロールアップのシナジーをどう理解すべきでしょうか。

私たちが考える最大のシナジーは人材です。企業規模が大きくなると固定費を吸収しやすくなります。利益が出れば給与や福利厚生を改善できます。

そうなれば、獣医師が辞めなくなる。飼い主から見れば、いつもの先生が辞めないこと自体が大きな価値です。

設備投資もしやすくなります。高度な手術機器や超音波検査機器などを導入できるなど、一次診療のレベル向上にもつながります。

【M&A成長戦略を聞く⑥】Withmalホールディングスが動物病院を束ねる理由
ロールアップM&Aで高度な手術機器や超音波検査機器などを導入しやすくなる
ロールアップM&Aにより、高度な手術・検査機器を導入しやすくなる(Withmalホールディングス提供)

──将来の業界構造をどう予想しますか。

二極化すると思います。一つは私たちのようなグループ病院です。資本力を背景に採用や設備投資を進めるプレーヤーが拡大していくでしょう。

一方で、営業利益率30%近くを稼ぐ地域の有力病院も存在します。そうした病院は売却しなくても成長できます。金融機関も積極的に融資します。

そのため、これから10年程度は「大手グループ」と「地域王者」が共存する市場になると見ています。

Withmalが選ばれる3つの理由

──M&Aの競争が激しくなる中で、御社の強みは何でしょうか。

三つあります。第一に、私たちは周辺領域に手を出しません。電子カルテや採用メディアなどには参入せず、動物病院経営そのものに集中しています。

第二に、マネージャー層が厚いことです。複数のマネージャーが病院運営を支援し、買収後も現場に伴走します。病院ごとの課題に寄り添いながら運営改善や採用支援を行っています。

第三に、女性獣医師のキャリア支援です。私たちは診療時間の短縮や柔軟な勤務体系を整え、女性が長く働ける環境づくりを進めています。これからも獣医学部の女性比率は高まると思います。その変化に対応できない組織は採用で苦戦することになるでしょう。

──買収後の統合で最も重視していることは。

変えないことです。

治療方針も病院文化も、それぞれに価値があります。私たちは標準化ありきではありません。病院ごとの強みを残しながら支援する。オーダーメイド型のPMI(M&A後の統合プロセス)を徹底しています。

買収したからといって、一律の仕組みやシステムを押し付けることはありません。現場の価値を尊重しながら、必要な部分だけを支援する考え方です。その結果、買収した動物病院では平均して8%程度の収益改善が見られています。

M&Aで「地方から動物病院が消える」を防ぎたい

──L Cattertonとの提携で何が変わりましたか。

一番大きかったのは経営体制の強化です。CFO(最高財務責任者)となる公認会計士を紹介してもらえました。私たちは年間10件近い買収を進めることもあります。そのスピードに対応できる経営体制が必要でした。

またファンドの信用力によって資金調達もしやすくなりました。成長スピードは大きく加速したと思います。

──これからの目標は何でしょうか。

地方から動物病院がなくなるのを防ぎたい。そのためにM&Aを活用しています。都市部の若手獣医師が地方で経験を積み、地域医療を支える仕組みも作っていきたい。

私たちのM&Aの最終的な狙いは、単に病院数を増やすことではありません。動物病院は地域インフラの一つです。獣医療体制を持続可能な形で次世代につないでいくことが、私たちの目標です。

【M&A成長戦略を聞く⑥】Withmalホールディングスが動物病院を束ねる理由
動物病院は重要な地域インフラ
動物病院は重要な地域インフラになっている(Withmalホールディングス提供)

文:糸永正行編集委員

編集部おすすめ