「第二次バブル崩壊」は起こるのか?国内株価の一進一退に潜むリスク

過去最高値の節目で、激しい攻防を繰り広げる現在の国内株式市場。新NISAの普及や企業の資本効率改善(PBR改革)を追い風に「押し目買い」の意欲は依然として旺盛だが、市場の一部では過熱感への警戒も根強い。

かつてのバブル相場においても「下がれば買い」の楽観論が市場を支配していた。「第二次バブル崩壊」のようなトレンド転換は起こるのか?

最初の暴落からバブル崩壊までのタイムラグ

株式市場における真のトレンド転換は、株価そのものよりも「投資家の心理」が破壊された瞬間に訪れる。1980年代末のバブル景気において、市場を支配していたのは「日本株は下がっても必ず戻る」という絶大な押し目買い神話だった。しかし、その神話が大きく揺らいだのは1990年秋のこと。そのプロセスを時系列で辿ると、心理的防衛線が段階的に崩壊していく様が浮き彫りになる。

1989年12月末に3万8915円の過去最高値(終値)をつけた日経平均株価は、1990年に入ると急落。当時の市場は「3万円」が底値ラインと信じていたようだ。4月初旬に一時2万8000円割れまで売り込まれたものの、政府による株価対策への期待や機関投資家の下支えにより、夏場にかけて3万3000円台まで急反発した。この時点では、まだ「下がったら買い」という成功体験が市場で共有されていた。

湾岸危機がバブル崩壊のダメ押しに

市場にとどめを刺したのは、8月2日のイラクによるクウェート侵攻(湾岸危機)だった。公定歩合の引き上げによる国内の金融引き締めに加え、中東危機に伴う原油高と世界的な株安連鎖という悪材料が直撃。それまでナンピン買いを続けていた個人投資家や財テク企業の資金力は限界を迎え、市場は買い手不在の「真空地帯」へ突入した。

10月1日、日経平均は取引時間中に一時2万221円まで暴落。1989年12月につけた最高値の半値近くまで売り込まれた。

「底が見えない」という恐怖が市場を支配し、押し目買い勢は姿を消す。その結果、信用取引の担保不足(追証)に耐えかねた個人の投げ売りが相次ぎ、売りが売りを呼ぶ悪循環に陥った。

同日には大蔵省が株価対策を発表。翌2日の日経平均は2676円55銭高と史上最大の上昇幅を記録した。だが、これは「政策的な買い戻し」に過ぎなかったため、市場から楽観論は消え去り、長きにわたる株価低迷時代を迎えることになる。

バブル時代とは異なる市場構造の「堅牢性」

近年では2024年8月5日、日経平均が史上最大のマイナス4451円を記録した。円高の急伸や米国景気への懸念、日銀の追加利上げを受けた金融市場の動揺などが重なり、投資家のリスク回避売りが急速に広がったからだ。2026年7月時点では、株価評価(PER)と信用需給(買い残)が、2024年8月の暴落前よりも上振れしているのは気になる。

もっとも、PERは加重平均で18倍前後と、バブル期の60倍を超える極端な高PERとは距離がある。株式市場では投げ売りの出ない新NISAなどの長期・積立型の資金が市場の下支え要因として存在するため、1990年のような「市場全体の追証パニックによる底なしの崩壊」が起きる可能性は低いとされる。

比較項目バブル崩壊前2024年8月株価暴落前現在の市場構造主力資金借入金・信用取引主導の「過剰レバレッジ」高値追いによる信用買い残の過熱新NISA(現物・定額積立)が下値を下支え株価評価(PER)60倍~80倍(極端な割高水準)16倍前後(加重平均)18倍前後(加重平均)信用需給(買い残)時価総額に対して過大約5兆円まで膨張約6.5兆円企業・日銀の動向財テク・急激な連続利上げ市場の動揺と日銀サプライズ(利上げ)機動的な自社株買いと日銀利上げの織り込み

第二次バブル崩壊」が起こるとしたらいつか?

とはいえ、株価暴落の可能性は決してゼロではない。仮に「第二次バブル崩壊」と呼ぶべき構造的な下落トレンドが始まるとすれば、それはどのようなタイミングと条件が揃った時なのか。1990年の教訓に当てはめると、単一の悪材料ではなく「複合的なショック」によって押し目買いの息の根が止まった時がそのXデーとなる。

【不安材料①】米国経済の急減速とAI・半導体「期待剥落」の同時発生

現在の相場を強力に牽引するのは生成AI・半導体ブームと米国経済の底堅さだ。

米国の高金利の蓄積により雇用・消費が想定以上に急減速し、同時にAI投資に対する収益性への懐疑論が広がった場合、高バリュエーションのハイテク株が一斉に崩落する。

【不安材料②】地政学的リスク顕在化と「局所的追証ショックの波及」

中東紛争の泥沼化により、サプライチェーンの断絶というリスクが依然として残る。米国とイランの交渉も進展がみられない。1990年の「湾岸危機」に相当する外部構造ショックとなる懸念もある。地政学的リスクは投資家に「下がったから買う」という行動を躊躇させ、市場を「買い手不在」の状況に陥らせかねない。

【不安材料③】急激な円高転換による「輸出企業業績の前提崩壊」

米国東部時間7月31日、日米協調介入による円安是正が実施され、ベセント米財務長官が日銀に利上げを促した。日銀の追加利上げや米FRB(連邦準備理事会)の利下げによって、短期間で120~130円台の「急激な円高」に振れた場合は株価暴落の可能性が高まる。輸出企業の円建て利益の底上げ期待が一気に剥落すると同時に、ドル建てで運用する海外投資家の為替損回避売りが殺到するリスクがあるからだ。

現在は「警戒期間」か

長期的な株価暴落が始まるのは、押し目買いが明白に弱まり、リバウンドの力が尽きたことを市場全体が悟った瞬間であるという点だ。1990年のバブル崩壊も、最初の株価下落から9カ月後のことだった。「歴史は繰り返す」わけではないが、仮に1990年の時間軸を単純に当てはめるなら、2027年3月下旬が一つの警戒時期となる。

逆に言えば、この期間で対策を講じる余地がある。

経営層やM&A実務家にとっても、現在の一進一退の相場環境は事業売却や買収のバリュエーション(企業価値評価)を慎重に見極めるべき重要な局面なのだ。

特に、対象企業の株式需給や株価ボラティリティを評価する際は、単純なPERやPBRだけでなく、「信用買い残 ÷ 出来高」などの需給歪みリスクをスクリーニングしておくことが欠かせない。

株価が高値圏にあり資金調達や株式交換が優位なうちに、事業ポートフォリオの再編を進めておくべきだ。万が一の株価大暴落が招く景気低迷に備えてキャッシュを確保し、財務基盤を強化することが、過去のバブル崩壊から企業が学ぶべき最大の実務的対応となるだろう。

「第二次バブル崩壊」は起こるのか?国内株価の一進一退に潜むリスク

文:糸永正行編集委員

「第二次バブル崩壊」は起こるのか?国内株価の一進一退に潜むリスク
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