
自分を演じるのか、漫才師を演じるのか
── これまで放送されたなかで、特に印象に残っている組を挙げるとすれば?
上山 どの組も面白くて……。いや、一組一組全部長尺で語れるくらい思い出はありますね。

上山 ラブレターズさんと組んだ鈴木貴之さんは、特に熱心でしたね。顔合わせからかなり前のめりで、稽古でも色々質問したりとか。「こんなに役者さんが熱心にやってくれるんだ」って嬉しかったです。
── 最後はラブレターズのことを「師匠」って呼んでました(笑)
上山 台本がいいから1発目の読み合わせから既に面白いんですけど、稽古でどんどん成長していくんです。ラブレターズさんの指導もすごくて、言い方で表現ががらりと変わることを見せるんですが、役者さんもそれ以上のものを返して……。お互いに「そのパターンもあるんだ」と吸収しあっていって、どんどん面白くなってる……!って感動しちゃいました。
── 漫才だと、磁石×浅利陽介&柳喬之さんの回もすごかったですね……。
鈴木 あれはもう漫才師として確立していましたよね
上山 すごかったですね。浅利さんと柳さんはもう「違和感ない」というレベルを越えていました。
鈴木 役者さんはどういう感覚で漫才をやっているんでしょうね……。漫才のしゃべりって、役が無い「素」じゃないですか。自分として演じているのか、それとも「漫才師」を演じているのか……。
── 漫才はキャラになりきるわけでも無く、でも完全に素でもなく……という難しさがありそうです。
鈴木 中尾明慶さんもそんなことを言ってましたね(NON STYLE石田×中野英雄&中尾明慶の回)。役者として「素でしゃべったこと今までないんで」と。何の役でもないけど、自分の言葉ではなく台詞を言わなくちゃいけない。そこの違和感が一番大きいんでしょうね。
上山 小沢兄弟のお二人(タイムマシーン3号×小沢仁志&小沢和義)は「漫才をやる役になるって意味なのかな」と言ってましたし、西尾まりさん(ニッチェ×西尾まり&松井玲奈)は役のバックグラウンドをすごく気にしていました。役者さんによって取り組み方の違いもあるようです。
── ツッコミの難しさも、たびたび話題に出てきます。
上山 そうですね、芸人さんも「ツッコミは要」とおっしゃる方が多いです。
── ジグザグジギーさんの回(ジグザグジギー×石橋保&梶原ひかり)ではツッコミの話をすごく掘り下げていました。
上山 梶原さんがツッコミで、すごく頑張ってくださいました。ジグザグジギーのネタって、ツッコミがすごいトリッキーなんだな、と改めて感じましたね。
── ななめ45°さんも「2人の日常に、もう1人が入ってきておかしなことになる」という話をしていましたよね。
鈴木 トリオの構造をああいう風に聞くことってあまりないですもんね。「こうやって笑いを取る」という構造が聞ける機会でもあると思います。
MCの二人は「打ち合わせ3分」
── MCのお二人(バカリズム、山崎弘也)は、番組にどれくらい関わっているんですか?
鈴木 いや、MCは純粋に楽しんでもらえているように感じます。毎回打合せも3分くらいですから(笑)
上山 オープニングトーク終わって「じゃぁもう今日の仕事はね、これぐらいで」って(笑)
鈴木 MCのリハーサルも特にないです。「今日どんなネタ見られるんだろうね〜」って。MCの方はVTRもネタもその場で初めて見るので、本番は結構楽しんで見ていると思いますよ。
── もうその場でワイプからツッコんでいるんですね。
鈴木 あの二人のリアクションって、僕らにとっては一つのバロメーターなんですよね。登場までのVTRでこちらが思ってもないことを言ってくれることがあるんです。僕らも「こういうことを気にするんだ」「こういうところを面白がるんだ」と発言を受けて、「次はこういうの入れてみよう」と判断することがあります。番組の指針になっている部分がありますね。
── マツモトクラブさんのVTRのとき、バカリズムさんが「そうそう、もう一人欲しいときある」って言ってましたね。MCの2人が考えているお笑いのことがポロッと出たり。
上山 なすなかにしさんのとき「(台本が)横書きなんですね」と会話するシーンがあったんですが、そこで山崎さんが「あぁ俺も横書きだったなぁ」って漏らしていて、おおっと思いましたね。
鈴木 確かに、山崎さんってそんな話しないじゃないですか。ニッチェの回では、ネタが終わった瞬間にニッチェに対して「お前ら西尾さんに頼りすぎだよ」って言ってましたしね。そういう風に見えるんだなぁと。MCのお二人も芸人さんだから、自分に置き換えて見ているんだろうなと思います。
役者の「夫婦漫才」がみたい
── 最近、『オワライターズ』(フジテレビ)や『有田Pおもてなす』(NHK総合)など、「ネタをオーダーして作ってもらう」という番組が増えてきたなと感じます。『笑×演』でもこうした流れを意識されていますか?
鈴木 確かに芸人さんの裏側の苦労を見せるのは増えてきてると思います。昔のテレビメディアでは芸人さんは「一番下のランク」みたいな位置づけにされていたところ、力関係が変わってきて、「芸人さんはすごい」「リスペクトすべき」というものが増えてきている。その流れなのかなという気がしますね。それが良いことか悪いことなのかと言われると、判断はできないですが。
── 「笑いのためにこんなことを考えているんだぞ」というのが、ひとつのプレゼンテーションになっている気がします。
鈴木 視聴者の方々の目が肥えてきたのもあるかもしれませんね。昔は「ネタを作る裏側を見せる必要は無い」と思っていたのが、今は「裏側も含めたほうがネタをより見てもらえる」という感覚に変わってきているんでしょうかね。

── これから先、『笑×演』でやってみたい芸人と役者の組合せなどはありますか?
上山 一度出た方にもう一回オファーしてみたいですね。同じ芸人さんで、違う役者さんに書いてもらうとか。
鈴木 逆に「小沢兄弟に違う芸人が書く」とかもいいですね。あと、実際に夫婦の役者さんで夫婦漫才も見たいですね。宮川大助・花子さんみたいな感じで、どなたか出てもらえたら……。
── ピン芸人のネタを役者さんがピンでやるのはどうですか?
鈴木 それも何度か検討したんですが、ピンだとモノマネになっちゃいそうなんですよね。
上山 コンビのネタもそうですけど、モノマネになるのは避けたいんです。
鈴木 掛け合いがあれば関係性なども出てくるんですが、ピンだと自分で覚えてきて出てきて……という感じになるので、見え方としては難しいのかなと。
── じゃぁMCのお二人にネタを書いてもらうとか……?
鈴木 番組が始まるときの取材では「絶対書かない」って答えてたんで……(笑) でもバカリズムさんは今も毎年単独ライブも行っていますしね。
上山 先日の単独ライブは僕も見に行ったんですけど、今でも新しいタイプのネタをたくさん披露されていて、いまだにネタが進化し続けていることに驚きました。
いつかMCの2人のネタが披露されることも期待しています……! 本日6/21放送の『笑×演』は特に観客の人気が高かったコンビを振り返る特別編。独特のテンポが癖になる「サンドウィッチマン×寺田農&榎木孝明」と、まるで本物の漫才師のようなクオリティだった「磁石×浅利陽介&柳喬之」の2本です!
(井上マサキ)