「人はどこに住めば最も幸せになれるのか」——そんな問いに答える試みとして、世界中の都市を多角的に分析したランキング「Happy City Index 2025」が発表された。

このランキングは、単なる観光地としての魅力や経済規模だけではなく、住民の暮らしの質や公共サービス、環境への配慮、市政、健康、教育といった社会インフラの整備度が幸福度にどのように関与しているかを定量的に可視化。
また、近年高まる「ウェルビーイング重視の都市設計」の潮流を反映している。

ランキングには、北欧や中欧の都市が多く登場し、都市政策や市民との関係構築の巧みさが際立った。一方で、アジア圏からも複数の都市が上位に入り、国際都市の幸福度のあり方に多様性が見られるようになってきている。

以下では、2025年版ランキングのトップ10都市の特徴を解説するとともに、日本の都市がどのような位置にあるのか、どのような強みと課題を抱えているのかを紹介する。

ランキング上位10都市の特徴

「Happy City Index 2025」の上位10都市は、それぞれ独自の強みを持ち、住民の幸福度を高めるための取り組みが評価されている。以下に、各都市が上位にランクインした理由を説明する。

1位:コペンハーゲン(デンマーク)
コペンハーゲンはデンマークの首都で、歴史と現代性、持続可能性を兼ね備えた都市。人口は約139万人で、行政職が全就業者の約30%を占める。教育・デジタルスキルが高く、特許出願も多い。デジタル行政も進んでおり、投票率は60%を誇る。医療体制も整っていて、医師数は多い。移動の69%がグリーンモビリティで、交通事故率が低い。環境意識も高く、経済は好調で起業も活発。
給与水準も国内平均を大きく上回る。

2位:チューリッヒ(スイス)
チューリッヒはスイス最大の都市で、経済力、生活の質、持続可能性で世界をリードしている。人口は約44万人、GDPは一人当たり約8.3万ポンド。教育・研究に強く、外国語話者や特許出願も多い。デジタル行政が進んでおり、行政の透明性が高い。平均寿命は83.8歳で医療体制も整っている。移動の74%が環境に優しく、交通安全性も高い。経済は好調で、賃金は国内平均を75%も上回る。

3位:シンガポール(シンガポール)
シンガポールは、経済、統治、都市革新の面で世界をリードする都市国家だ。人口は約600万人、2024年の予算は563億ポンド。GDPは一人当たり約7万ポンドで、成長率は4%。教育やイノベーションに力を入れており、特許出願も多い。
医療や交通インフラも高水準で、犯罪率や自殺率は極めて低い。緑化政策や再生可能エネルギーも進み、環境意識が高い。失業率は2%と極めて低く、起業も活発な経済都市である。

4位:オーフス(デンマーク)
オーフスは、教育・イノベーション・持続可能性に注力するデンマーク第2の都市。人口約30万人、2024年の予算は21億ポンド。高等教育やデジタルスキルが浸透し、特許取得率も高い。選挙参加率や行政の透明性も高く、公共サービスはデジタル化が進む。医療体制が充実し、環境政策も先進的。交通事故死亡率は極めて低く、再生可能エネルギーの活用や都市の緑化にも注力している。失業率は3%、給与水準も高く、経済的にも安定した都市だ。

5位:アントワープ(ベルギー)
アントワープはベルギーの経済・文化の中心都市で、人口約54万人、GDP成長率は6%。公務員が21.1%を占めるなど行政が都市運営を支えている。
教育水準が高く、デジタルスキルも84%と普及しているが、特許出願は少なめ。投票率やオープンデータ公開数が多く、市民参加と透明性に優れる。医療体制は整い、平均寿命は81.2歳。交通や環境政策も先進的だが、暴力事件の発生率はやや高い。経済は安定しており、起業も活発。

6位から10位には、アジアやヨーロッパの多様な都市がランクインしており、それぞれ独自の強みを持っている。

6位のソウルは、スマートシティ戦略と市民参加型の政策が生活の質を向上させており、文化産業の振興も進んでいる。7位のストックホルムは、再生可能エネルギーや都市緑化、女性の高い労働参加率などが評価されている。8位の台北は、自然と都市機能の調和に優れ、スタートアップ支援やデジタル化が若者の雇用を促進している。9位のミュンヘンは、教育・研究機関の集積や治安の良さ、豊かな福祉制度で安定した暮らしを提供する。10位のロッテルダムは、都市再生とサステナブルな建築、クリーンモビリティの導入などで住環境を大きく改善している。

上位10都市の共通点とは

「Happy City Index 2025」の上位10都市に共通する最も顕著な特徴は、教育とイノベーション環境の高さだ。すべての都市が世界的な大学や研究機関を持ち、知識集約型産業の発展を支えている。
生涯学習の機会が整い、市民は高い学歴とデジタルリテラシーを有している。パテント取得数やスタートアップ支援制度も充実しており、技術革新を経済成長へと結びつける基盤が確立されている。

また、多文化共生と国際性の高さも際立っている。多言語話者や外国人居住者が多く、異文化理解と社会的包摂が進み、都市の創造性や活力につながっている。文化施設や公共スペースの整備も、市民の交流と生活の質向上に貢献している。

さらに、持続可能な都市開発への意識も共通して高い。再生可能エネルギーの導入、廃棄物処理の高度化、都市緑化の推進など、環境負荷の軽減に取り組んでいる。公共交通のグリーン化や歩行者・自転車にやさしい都市設計により、快適で安全な移動環境を実現している。

行政運営も透明性が高く、市民参加の仕組みが整っている。オープンデータや電子行政サービスを活用し、効率的で開かれたガバナンスを実現。住民の投票率も高く、政策への関与意識が根付いている。

健康と福祉の面でも、医療へのアクセスが保障され、平均寿命は高い。
メンタルヘルスへの対応や公衆衛生体制も整っており、安全で安心して暮らせる都市環境が形成されている。

経済的には、安定した雇用と高所得水準を持ち、起業支援やイノベーション政策が都市の競争力を高めている。海外投資や高度人材の誘致にも成功し、経済成長と都市の魅力を両立させている。

このように、上位都市はいずれも教育、環境、ガバナンス、健康、経済の各分野でバランスよく優れており、それぞれの取り組みが都市の幸福度を下支えしている。

日本の都市の評価と改善点

日本の都市では、東京が42位、⼤阪が129位にランクインしている。

東京は、都市インフラの整備や教育機関の充実、治安の良さなどが評価され、上位に位置づけられた。特に、公共交通機関の利便性や医療サービスの質の高さが、住民の生活満足度を高めている。

一方、⼤阪は、文化的多様性や経済活動の活発さが評価されたものの、都市の持続可能性や環境対策の面で課題が指摘された。特に、再生可能エネルギーの導入や都市緑化の推進が遅れており、これらの分野での改善が求められている。

東京、大阪以外の日本の都市が「Happy City Index」でさらに上位を目指すためには、以下のような包括的かつ持続可能な取り組みが求められる。

まず、ガバナンスと市民参加の分野では、上位都市のように住民の声を政策に反映させる仕組みづくりが不可欠である。行政の透明性を高め、オープンデータを活用した情報公開を進めるとともに、市民と行政は活発に対話し、信頼と協働の関係を築いていく必要がある。


教育とイノベーションの強化も重要だ。生涯学習の機会を広げ、デジタルスキルを普及させることで、知識基盤の強い社会を目指すことが必要となる。大学や研究機関との連携を深め、スタートアップ支援や若者の起業環境を整えることも、都市の競争力向上につながる。

また、持続可能な都市づくりも欠かせない。再生可能エネルギーの導入や緑地の拡充、廃棄物管理の効率化など、環境面での取り組みを強化することが求められる。加えて、交通インフラのスマート化やバリアフリー対応を進めることで、すべての人にとって快適な移動環境を整えることができる。

さらに、健康と福祉の分野でも対策が必要だ。メンタルヘルスケアの充実や高齢者の支援、孤立防止などに取り組むことで、住民の生活の質と安心感を高められる。

このように、多面的で市民を中心に据えた都市運営を推進することが、日本の都市が幸福度の高い国際都市として評価されるための鍵となるだろう。

これらの取り組みを通じて、都市が目指すべきは、単なる経済成長ではなく、すべての住民が心身ともに健やかに暮らせる、持続可能で包摂的な都市社会の実現である。幸福度の高い都市は、一人ひとりの暮らしやすさを大切にしながら、未来に向けた変革を柔軟に取り入れているのだ。

文:中井千尋(Livit
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