2026年版のランキングでは、東京が世界第2位にランクインし、安定した存在感を示した。教育機関の水準、安全で暮らしやすい環境、多様な文化体験が評価され、前年に続いて2位を維持した形だ。本記事では、このランキングの仕組みや東京が高く評価された背景、そして世界の主要都市との比較について詳しく解説する。
QS世界学生都市ランキングとは何か
QS Quacquarelli Symondsが毎年発表する「世界学生都市ランキング」は、世界中の学生、特に留学を検討する若者にとって重要な指標となっている。調査対象は人口25万人以上で、かつQS世界大学ランキングにランクインする大学が2校以上存在する都市に限定される。今年の2026年版ランキングは世界150都市を対象とし、「大学の評価」「学生の多様性」「都市の魅力」「就職機会」「生活費」「学生からの評価」という6つの指標に基づき算出された。このランキングは、単に大学の質だけでなく、その都市が学生にとってどのような生活環境を提供できるかを包括的に示すものである。そのため、教育機関の学術的評価に加え、都市の安全性や文化体験の豊かさ、生活費の負担など、学生生活の実態を反映した内容になっている点が特徴的だ。
2026年版の結果—東京が第2位に
今回のランキングで、1位はソウル、2位が東京、3位はロンドンとなった。これまで6年連続で首位を維持してきたロンドンが3位に後退し、ソウルが初めてトップに立ったことは大きなニュースである。東京は前年と同じく2位を維持した。教育機関の質、安全性、多様な文化体験などにより、前年に続いて高い評価を維持した結果であり、アジアの教育都市として国際的な存在感を示している。
トップ10都市の顔ぶれ
2026年版ランキングの上位10都市は以下の通りである。1.ソウル(韓国)
2.東京(日本)
3.ロンドン(英国)
4.ミュンヘン(ドイツ)
5.メルボルン(オーストラリア)
6.シドニー(オーストラリア)
7.ベルリン(ドイツ)
8.パリ(フランス)
9.チューリッヒ(スイス)
10.ウィーン(オーストリア)
この顔ぶれから見えるのは、欧州、アジア、オセアニアといった地域の多様な都市が上位に並んでいる点だ。例年は北米都市も上位に入るが、今回は欧州とアジアの存在感が際立った。とはいえ、学生にとって魅力的な都市は世界各地に存在しており、国際的な学びの選択肢が広がっていることを示している。
ソウルが1位を獲得した背景には、まず大学の質の高さがある。都市内には23校もの大学がQS世界大学ランキングにランクインしており、「大学の評価」の指標では満点を獲得している。特に、ソウル大学、延世大学、高麗大学といった韓国を代表する名門校(通称「SKY」)が国際的な知名度と研究力を誇っており、教育都市としての評価を押し上げている。
加えて、ソウルは交通インフラの利便性や治安の良さ、比較的抑えられた学費、そしてK-POPや韓流ドラマに象徴される文化的魅力によって学生からの人気が高い。さらに、企業や産業界との結びつきが強く就職機会も豊富であることから、学びの場としてだけでなく、キャリア形成の都市としての魅力が総合的に認められた結果といえる。
一方、ロンドンは6年連続の首位から3位に後退した。依然として大学数の多さや文化的多様性、国際都市としての存在感では高い評価を維持しているが、生活費の高さや住宅不足が深刻な課題となっている。さらに、ブレグジット後の留学生受け入れ制度に対する不安感も影響し、学生にとって必ずしも「住みやすい都市」とは言えなくなっていることが順位低下の要因とされる。
東京が評価された背景
東京が第2位に位置づけられた要因は多岐にわたる。教育機関の質と研究力
東京大学や東京工業大学をはじめ、世界大学ランキングで高く評価される大学が数多く集積している。
安全で快適な都市環境
人口規模が世界最大級でありながら、犯罪発生率は低く、公共交通機関は時間通りに運行する。学生にとって「安心して暮らせる」ことは留学先を選ぶ際に極めて重要であり、東京はこの点で群を抜いている。
多様な文化体験
歌舞伎や能といった伝統芸能、アニメやゲームといった現代文化、さらには最新テクノロジーやデザインまで、幅広い文化的資源に日常的に触れられる都市は世界的にも稀である。学生にとって、学業以外の時間が充実することは大きな価値を持つ。
国際性の拡大
外国人観光客の増加と並行して、大学も英語による講義を徐々に増やし、海外の学生が学びやすい環境を整えつつある。国際学会や文化イベントの開催も活発で、東京は学びと文化交流のハブとしての機能を強めている。
雇用機会の豊富さ
QSランキングの指標「就職機会」で高評価を得ているように、日本国内外の企業が集まる東京は、卒業後のキャリア形成に直結する都市だ。特にテクノロジー、金融、クリエイティブ産業に関心を持つ学生にとって、インターンシップや就職のチャンスが豊富に存在することは大きな魅力となっている。
東京の課題
一方で、東京が直面する課題も存在する。第一に、国際性が拡大しつつあるとはいえ、まだまだ英語による授業機会が少ないのが現状だ。欧州やシンガポール、香港といった都市に比べ、英語開講プログラムの数はまだ十分とはいえない。留学生にとって学びやすい環境をさらに整える必要がある。
第二に、住宅の確保が難しい点がある。学生向けの住居は供給が限られており、家賃も年々上昇している。これは東京に限らず、多くの大都市が抱える共通の課題ではあるが、国際学生の受け入れを推進する上で解決が求められる問題だ。
第三に、生活費の高さも無視できない。食費や交通費などは世界的に見れば抑えられている面もあるが、総合的には「決して安い都市」ではない。それでも、治安や利便性、文化体験の豊かさを含めて総合的に評価すると、依然として魅力的な都市であることは揺るがない。
東京の国際的な位置づけと今後の展望
QS世界学生都市ランキングは、単なる順位の競争ではなく、都市が持つ学術的資源、社会的環境、文化的魅力といった総合力を示す指標である。その中で東京が2位を維持していることは、教育水準の高さ、安全で暮らしやすい環境、多彩な文化体験といった強みを背景に、国際的な存在感を確立している証拠といえる。一方で、英語教育プログラムの不足や住宅確保の難しさといった課題も残されている。今後、日本がより多くの留学生を受け入れ、東京がさらに国際的な教育拠点として発展するためには、教育体制の改善や国際的な学術交流の強化が不可欠だ。それでもなお、東京が世界中の学生にとって魅力的な学びの場であることは揺るがず、今後の取り組み次第でさらなる飛躍が期待される。
文:中井千尋(Livit)