いまや「Pinterest」は、デザイナーやアーティストにとって定番のリファレンスだ。だが近年、同質の画像や似たトーンに行き着く“Pinterest疲れ”も語られる。
アルゴリズムが好みを強化し、発想が狭まる感覚があるのだ。Z世代の間では「Pinterestっぽい=整いすぎて個性が薄い」という軽い皮肉も見られ、次のインスピレーション源を探す動きが広がっている。ここでは英国のクリエイティブメディア Creative Boomのリストを手がかりに、“慣れ”を崩すための実践ヒントを探っていく。

8つの代替プラットフォーム——“探す”のではなく“気づく”ための場所

1.mymind

インターネット上で見つけた「気になるもの」をワンクリック保存し、“秘密のコレクション”を作るプライベート空間。AIが画像・テキストを自動分類し、キーワード・色・抽象概念で検索できる。「Serendipity」「Same Vibe」で過去の偶然なつながりも再提示してくれる。

国内傾向
SNSでの露出や共有に疲れたクリエイターの間で静かに注目されている。“他人に見せないこと”を創作の余白と捉える動きが見られる。

活用のヒント
公開前の“内省の鏡”として使い、審美と思考のパターンを見える化。

2.Same Energy

2021年に設立されたAIビジュアル検索ツールで、ムードボードづくりやビジュアルリサーチに適している。画像アップロードや“vibe”検索で、構図・配色・質感の近いイメージを提示。ニッチな美学や新しい方向を見つけやすい。

国内傾向
スタイルリサーチや自己分析への活用が散見。制作中の自作を入力し、似た雰囲気の画像を検索して自分の表現傾向や色の偏りを把握するといった試みも広がりつつある。


活用のヒント
途中のスケッチや素材写真も投入すると、“意外な共鳴”から、自分の作品の特徴や次に向かうべき方向が浮かび上がる。

3.Cosmos

2023年にローンチされたCosmosは、チームの発見・整理・共有を一画面で行うコラボレーション系ツール。ムードボードの作成、リンクや画像の保存、チームメンバーとの共有、コメントなどをひとつの画面で行うことができ、共同作業の過程を可視化しながら発想を育てられる。

国内傾向
FigmaやNotionなどを活用する若手クリエイターが「チーム全員でインスピレーションを整理できるツール」として言及しており、リモートの制作環境との相性の良さが注目されつつある。

活用のヒント
個人の発想をつなげて「集合的なムードボード」を構築するのがCosmosの魅力。チーム全員の“発見”を積み重ねることで、プロジェクトの方向性や感性の共通言語を明確化できる。

4.Are.na

広告もアルゴリズムも存在しない、思考のためのミニマリストなプラットフォーム。画像・テキスト・リンクを“ブロック”として積み、ノイズなく深掘りできるのが特徴。

国内傾向
国内のクリエイティブ系学生や若手制作者の間でも、“思考のためのSNS”として注目を集めつつある。InstagramやPinterestとは違い、“考える過程を共有する”場として使われるケースが多い。

活用のヒント
“情報を集める”場所ではなく、“関係を構築する”場所として使うと真価を発揮する。異分野の素材を並置し、関係を自分の手で構築していくと、新しい思考の回路が開かれるだろう。

5.Mix

“偶然の出会い”からインスピレーションを得るためのコンテンツ発見プラットフォーム。2000年代初期に人気を博した「StumbleUpon」を2015年に再構築して誕生した。興味に基づくパーソナライズで、「予想外のテーマに出会う偶然性(serendipity)」を重視する。


国内傾向
かつてのStumbleUponを知るウェブデベロッパーや、情報感度の高いデジタルクリエイターの間で、“偶発性を取り戻す”ツールとして再評価。インスピレーションの“深掘り”より“広がり”を重視する層にフィットしている。

活用のヒント
「目的のない散歩」のように使うのがコツ。専門外トピックを敢えて追い、偶然出会ったアイデアの“ズレ”を制作へ持ち込む。

6.Pearltrees

インスピレーションを“構造化して保存”できるビジュアルキュレーションツール。コンテンツを“パール”として保存し、ツリー状に配置することで、アイデア同士の関係性を可視化できる。リサーチを体系化しやすいのがポイント。

国内傾向
限定的ながら、情報設計・UXリサーチ・コンテンツ編集など、「思考の構造化」を重視する分野のクリエイターが少しずつ取り入れ始めている。Pinterestのようなトレンド中心型ではなく、自分の思考の道筋を整理するプライベートアーカイブとして利用されている。

活用のヒント
プロジェクトごとに「テーマ→関連領域→具体事例」という階層構造を作ると、インスピレーションが「点」から「線」へ、そして「面」へと発展していく。思考の地図を描くための空間として使うのが効果的。

7.Dribbble

2009年発の世界的クリエイティブコミュニティ。UI・UXやイラストの高品質事例が豊富で、プロのリファレンスに最適。デザインリサーチやトレンド把握に欠かせないリソースとなっている。


国内傾向
日本でも認知度が高く、特にWebデザイン、アプリ開発、プロダクトデザイン領域のデザイナーに広く使われている。ポートフォリオ・採用接点としても利用増加。

活用のヒント
複数の作品を並べて、どの要素が「プロっぽさ」を生んでいるのかを分析するなど、模倣ではなく“比較観察”のために使うのがおすすめ。

8.Designspiration

2010年にローンチされたビジュアルインスピレーション特化型の検索・キュレーションプラットフォーム。洗練されたUIと強力検索で、タイポ・写真・ブランディング等を精度高く探索できる。

国内傾向
日本でも一定の認知があり、プロから学生まで幅広く利用している。SNS的な要素が少なくシェア機能が控えめなため、“静かに探す場所”としての価値が再評価されている。

活用のヒント
「自分の作品に近いもの」ではなく、「少し違う方向性」を意識して検索するのがポイント。あえてキーワードをずらしで検索し、気になるビジュアルを保存するときは「惹かれた理由」を言語化しておくと良いだろう。

“慣れ”を壊す思考法——ツールよりも、問いの立て方を変える

インスピレーションの質を上げるには、新しいツールを試すだけでは足りない。問題は「どこを見るか」ではなく、「どう見るか」にあるだろう。

たとえば「かわいいデザインを探す」ではなく、「なぜ“かわいさ”を感じるのか」を問う。「参考になる構図を集める」ではなく、「この構図が何を語っているのか」を考える。問いが変われば、見方も変わる。


Are.naやmymindのように、アルゴリズムが導かない環境では、自分の手と頭で情報をつなぐ必要がある。この「考えながら集める」プロセスこそが、クリエイティブな筋肉を鍛える時間ではないだろうか。インスピレーションを“受け取る”だけでなく、“組み替える”こと。それが、慣れを打破し、思考を広げる第一歩になる。

今日からできる3つのステップ——“見る力”を鍛える実践ワーク

1.ツールを“分けて”使う

ひとつのプラットフォームで完結させようとせず、目的に応じて使い分ける。
たとえば、

●アイデアの整理にはmymind
●思索の深化にはAre.na
●チームでの共有にはCosmos
●そして偶発的な刺激にはMix

こうしたツール間の“切り替え”が、思考の切り替えにもなる。

2.“ムードボード”を“思考ボード”に変える

画像を集めるだけで終わらせず、「なぜこれに惹かれたのか」を書き添える。たとえば、Pearltreesで階層化して整理したり、Designspirationで検索ワードを変えて比較したりする。選ぶ理由を可視化することが、インスピレーションの質を上げる。

3.リフレクション(内省)を記録する

1週間に一度、自分が集めたビジュアルを見返し、「どんな気分で選んだのか」「どんなテーマが多いか」を振り返る。ツールを日記的に使うと、自分の感覚の流れが見えてくる。外の情報だけでなく、自分の変化を観察することが、創造を続ける力になる。

ツールは道具。変わるのは「見る力」

Pinterestが悪いわけではない。むしろ、これほど多くのアイデアを誰もが手にできるようにした功績は大きい。
しかし、便利さはときに思考を鈍らせる。同じツールを同じ使い方で続けていれば、見える世界も同じままだ。

大切なのは、ツールを変えることではなく、ツールとの向き合い方を変えること。mymindで自分を知り、Are.naで考えを深め、Same Energyで偶然のつながりを探す。そんな「使い方の再設計」が、発想の再生産を防ぎ、次の表現を生むだろう。

文:中井 千尋(Livit
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