世界中の観光地で、住民の生活と観光需要の摩擦が深刻化している。京都・鎌倉・富士山では、混雑や無断撮影、迷惑行為が繰り返し議論され、海外でもバルセロナの住宅不足、ギリシャ島しょ部の過密、ベネチアの環境劣化が目立つ。
こうした状況のなか、Z世代の旅行観が大きく変わりつつある。

彼らは「映える旅」よりも、「誰にも迷惑をかけない旅」を重視し始め、混雑を避け、ローカルを選び、SNS発信にも慎重だ。旅行は単なる消費行為から、自分がどんな社会を望むかを示す“態度の表明”へと変わりつつある。旅そのものが “倫理消費” になっているとも言える。

なぜZ世代は“迷惑をかけない旅”を求めるのか

Z世代はSNSを通じて、観光地での迷惑行為が炎上する瞬間を何度も見てきた。奈良公園の鹿への迷惑動画が批判される、神社での無断撮影が炎上する、などだ。こうした事例は、「自分は加害者になりたくない」という強い倫理意識を形成した。

生活道路の混雑、公共交通の圧迫、日常空間での撮影。SNSで共有されるこれらの不満に、Z世代は敏感に反応する。“他人の困りごと”への共感が強い世代だからこそ、「迷惑をかけない旅」は素直に受け入れられている。

Z世代にとって環境問題は遠い未来の話ではない。自分の移動・消費によってCO2排出量が左右されることを自然に理解している。徒歩や公共交通、二次都市という選択は、倫理であると同時に、“自分が納得できる旅” を実現するための合理的な判断でもある。


世界の観光制度は「量と動きを管理する」フェーズに

制度面では、2025年を境に観光を“拡大させる”時代から、“調整し守る”段階へと移行している。裏付けのある主要事例を紹介する。

ベネチア:
旧市街への日帰り観光客は5~10ユーロの入域料が必要となり、ピーク日は事前予約が義務化された。「地域のキャパシティに合わせて観光客の流入量を調整する」という、観光地の新しい姿勢を示す制度。

バルセロナ:
2024~2025年にかけて宿泊税が段階的に引き上げられ、短期賃貸の規制やクルーズ観光客向けの制限も進む。観光客よりも住民の生活を優先する方向へ都市政策が明確に動いている。

ギリシャ:
サントリーニやミコノスなど過密化が進む島々では、観光活動の制限や訪問者数の調整が導入され、自然環境保全が優先され始めた。観光の“質”を守るための制度化である。

EU:
2025年の分析では、ヨーロッパの都市観光が “Recalibration(再調整)” 段階に入り、ホテル建設の抑制や民泊の透明化、観光客数の抑制などが広がっている。観光地が「受け入れる側の都合」を取り戻しつつある。

制度だけでは“迷惑をかけない旅”は実現できない

制度は土台にすぎない。実際に旅を変えるのは“旅行者の選択そのもの”である。そこで注目されているのが、旅の行動を設計する非金銭アプローチだ。

観光地の“受入限界”を可視化する研究:
OpenStreetMapを使って観光地の歩行者キャパシティ(混雑が危険化する手前の人数)を算出する研究が発表され、観光地の構造的混雑回避に役立つ可能性が示されている。


CO2・混雑・移動最適化アルゴリズム:
旅行者に持続可能な移動方法や訪問時間帯を提案し、倫理的な旅程を“ナッジ”する仕組みが研究段階にある。制度ではなくテクノロジーで旅を倫理的にするアプローチだ。

若者の“サステナブル行動”を裏付けるデータ:
若者層が旅行において環境配慮・地域配慮を重視する傾向が実証データとして可視化されている。つまりZ世代は、制度がなくても“倫理的な旅”に向かいやすい。

Z世代は今日から何ができるのか

制度が整っていなくても、旅を変えるのは旅行者の小さな判断の積み重ねだ。Z世代はすでにその素地を持っている。

混雑を生まない旅:
訪問時間帯をずらし、ピークを避ける。これは自分の快適性も高め、現地の生活にも負担をかけない。

地域に“加点”を残す消費:
Z世代は「自分のお金がどこに届くか」を強く意識する。ローカルの宿や小規模飲食店、家族経営の雑貨店を選ぶことは、地域の文化や経済に直接“加点”を残す行為である。観光の利益が大手に集中しがちな地域でも、旅行者の選択次第で経済の循環構造を変えられる。こうした“選び方”は、観光地の持続可能性を支える実践そのものだ。

撮影にひと呼吸置く:
SNS世代でありながら、Z世代は「撮影の倫理」に敏感だ。
撮影前に一歩止まり、「誰かの生活空間を侵していないか」「文化に配慮できているか」を意識するだけで、迷惑は大幅に減らせる。撮るべきかを判断することで、旅の質も高まる。風景を“消費”するのではなく、“対話”として味わう感覚が育つからだ。

環境負荷の少ない移動:
徒歩や公共交通、自転車を選ぶことで、旅は深くなる。環境への配慮であると同時に、地域の生活リズムや日常の風景に触れる機会が増える。CO2排出量を可視化するアプリや、混雑を避けるためのツールを活用することで、自分らしいエシカルな旅のスタイルが確立されていく。

観光業界に求められる“Z世代視点の設計”

Z世代は「旅行者」であると同時に、「観光の未来を共創する世代」でもある。観光業界・自治体・ブランドは、この世代の価値観を理解し、デザインに落とし込む必要がある。

混雑の可視化と“避けられる動線”の設計:
Z世代は混雑を避けたいが、情報がなければ避けようがない。観光地は、リアルタイム混雑マップや空いている時間帯の提示、行列回避の予約導線、二次スポットへの自然な誘導など、“混雑しない旅が選べるUX”を整備すべきである。

二次都市・ローカル店舗の“物語化”:
Z世代は機能ではなく“物語”で動く。地域の成り立ちや文化、地元に還元される仕組みなど、「選ぶ理由」を明確に提示することで、旅行者の倫理的選択を後押しできる。

倫理的選択をナッジするデザイン:
倫理感を押しつけるのではなく、“自然と選びたくなる”設計が重要だ。
CO2排出量の可視化、ローカル消費へのインセンティブ、混雑回避の達成感を可視化する仕組みなど、「選んだ自分が好きになるUX」が求められる。

“迷惑をかけない旅”をブランド価値にする:
環境配慮・地域貢献・文化への敬意——これらをブランドの中核に据えることで、Z世代からの支持は確実に高まる。Z世代は価値を共感すれば、自ら発信者となり、観光文化の形成者となる。

旅は“態度の表明”の時代へ

旅は、Z世代にとって自分がどんな社会を望むかという“態度”である。混雑を避け、文化を尊重し、地域に価値を残し、環境に負荷をかけない。その一つひとつの選択が、観光地の未来を静かに支えていく。

あなたの旅が、地域の明日を変える。“迷惑をかけない旅”は、Z世代が切り開く新しい観光文化の中心にある。

文:岡 徳之(Livit
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